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予兆




爆発によって吹き荒れる爆風。


火の属性に特性を備え付けたことに驚異的な大爆発を巻き起こした神宿の魔法は、下手をすれば上位の魔法おも超えるほどの威力を秘め備えていた。








ガラガラ、と崩れ落ちる音が聞こえる。


キャロットに封印されていたであろうバケモノはグッタリと倒れ、気絶している。


ーーーーしかし、





「ーーーーどうやら力を使い果たしたようね」




そんな、あれほどの爆発が起きたというのに崩壊するどころか、ヒビ一つしか出来ていない一室。

その部屋の中をゆっくりと歩く賢者バルティナは、倒れる神宿の元へと近寄ろうとしていた。



「………」


多大な魔力消費によって、気を失ってしまった神宿。


その周囲には未だ女神のスキルよって発揮された防壁の魔法陣が展開されている。

しかし、こちらから攻撃さえしなければ、それは何の弊害のないただの魔法陣でしかなかった。




「薬もそうだけど…おそらく、幻術の類も効かないのでしょうね……」

「…………」

「ふふっ……でも。それならそれで、まだ他にやりようがあるわ」


バルティナはそう呟きながら、口元を緩ませ、ゆっくりとその手を伸ばす。





そして、数秒もせず、その白い手の指が神宿の頰に触れようとしたーーーーー



その時だった。






「!?」





バルティナが何か気づき、咄嗟に後ろに飛び退いた直後。



神宿の放った魔法ですらヒビ一つとしか入れられなかった室内の天井が、巨大な音と共に砕け散る。

そして、眩い光が差し込まれる穴の空いた天井から一人の魔法使いが飛び降りてきた。






「…っ、あらあら、何で貴方がこんな場所に来ているのかしら?」



その者の登場に、バルティナは顔色を険しくさせながら、そう言葉を吐く。



対して、そんな新たに現れた魔法使いは、全身に多数の傷を作りながらも、ゆっくりと体を動かし、後ろへと振り返り、



「っ!!」



血だらけで倒れる、ボロボロの姿をした神宿の姿。


その姿が視界に入った瞬間。

全身から迸るほどの殺気を醸し出される。

そして、






「………そんなの、決まってるじゃない」



いつもの間の抜けた喋り方ではない。


赤い髪をなびかせ、その紅に染まった瞳を見開く彼女ーーーーアーチェは、その口を動かした。








「私の大切な弟子を助けに来ただけよッ!!」






賢者と賢者。


それはまさに、共に魔法使いの中でもトップクラスの実力を持つ者たちが対峙した、瞬間でもあった。














その一方、バルティナの館。

玄関前の大門にて、




「あの馬鹿弟子が…無茶をしおって!」




大賢者ファーストは再びその髪を淡い桜色に染め、片手に魔導書。

もう片方の手を前に突き出し、目の前に巨大な防壁の魔法陣を展開していた。


そして、そんな彼女の背後では、



「こここ、怖かった…っ」

「な、何なのっ! 今の電撃はっ!!」



ファーストに守られる形で、その場に座り込むカルデラとカフォンが共に抱き合いながら、全身を震わせているのであった。








ーーーーそして、何故そのような状況になったのかというと、それは今から数分前に話に遡る。










「何で無理やり入っちゃダメなの!!」



バルティナの館。

その玄関前にある大門前にて、アーチェは険しい表情を浮かばせ、大きな声を上げていた。

対してファーストはというた、再び奇怪な容姿となり、片手に魔導書を持ちながら、



「じゃから、さっきから何度も同じ事を言っておるじゃろうが!! この館自体がアヤツの魔法! 下手に突入すれば、大怪我だけじゃ済まなくなることぐらい、お主でもわかっておるじゃろ!!」



師弟同士の言い合いが、カルデラたちの目の前で繰り広げられていたのであった。






バルティナの館は、一見ただ豪華なだけの建物にしか見えない。


だがしかし、その本質は全く異なっており、館全体にはバルティナによって張られた強固な防壁魔法陣がギッチリと組み込まれていた。

しかも、敷地に入ったものに対して、全方位からの奇襲魔法が発動する仕掛けにもなっているときた。



「それにワシらだけじゃったら、まだしも後ろには小娘らもおる。こやつらが一歩でも館に足を踏み入れたなら、その瞬間。即死は確実じゃ!」

「…っ」

「……あの小僧の事を心配しておる気持ちは分かる。だから、ワシが今急いでこの館の魔法陣を弄っておるのじゃ。……お主も賢者なら、もう少し、心を落ち着ける術を身につけておけ」

「…………」



まるで子供を叱る親のように、ファーストの言葉に対し、アーチェは唇を紡ぎながら、歯を噛み締めた。


そして、カルデラとカフォンもまた口を閉じながら、そんな悔しげに手を握りしめる彼女の姿を……ただ静かに見つめることしか出来なかった。







しかしーーーーーーーそんな時だった。









ドォンンンンンンン!!!! という大きな音が、館の奥から聞こえてきた。


そして、そのすぐ後にーーーー





「!!!」

「っ!? ま、待つのじゃ」



ファーストの言葉を無視してーーーーついに、賢者アーチェが動いてしまった。






全身に光を纏わせながら一瞬でその場から館の頭上へとテレポートしたアーチェは、その背中から黒いーーーー巨大な獣ようなバケモノを召喚する。



そして、そのまま上空から館への飛び降りる形で挙行突破を始めたのだ。

ーーーーーそれと、同時に、





「っ!? お主ら! ワシの後ろに下がっておれ!!」




強引な突入によって館の魔法陣が暴走を引き起こした。


周囲にあるもの全てに奇襲魔法が発動し、大門前にいたファーストたちにもまた、強烈な稲妻の魔法が飛ばされるのであった…。











そうして、現状へと至るのだが…、



「あ、あの馬鹿弟子めが……」


幸い、ファーストが咄嗟に張った魔法陣のおかげで誰も怪我をせずにすんだ。

力を抜くように、元の姿へと戻るファースト。

と、その時。




「…あ、あの…」

「む? どうしたのじゃ?」


ファーストが振り返ると、そこには不安に満ちた表情を浮かばせるカルデラが立っていた。



「…あ、アーチェさんは…」

「しらん。……と言いたいが、おそらく館に入ることには成功したのじゃろう。そのせいもあって館の魔法陣は無茶苦茶になってしまっておるのじゃがな」


そう言いながら、呆れたように溜息を吐くファースト。



本来なら館に入るまで、まだもう数分と時間が掛かる予定だった。

しかし、強行突破をしたアーチェのおかげもあって、難なく館に入ることができるようになった。




ファーストたちからして見れば、それは幸運なことだろう。





ーーーーだが、


「…………」


カルデラが見つめる中でーーーーー喜びで満ちているはずの空気とは一変して、ファーストの顔色には、何故か影が差し込んでいた。



そして、それに繋ぐように…、




「でも、あの人が先に入ったのなら、もうアイツは助かったようなものじゃない?」



その言葉を口にした、カフォン。





確かに、普通に考えればその言葉は正しいものだっただろう。

だが、














「ーーーーーーいや、最悪の展開じゃ」










今まで全く動揺すら見せてこなかったはず大賢者ファーストが、そう言葉を口にしたのである。




そして、その頰から一筋の汗が流れ落ちていくのであった……。



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