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助けられたモノ

すみません!

今回はちょっと長いです!



封印素体。


災いを呼ぶモノを封印するために選ばれた人間に対し、そう呼ばれる名称だ。



そして、一人の少女。

キャロットもまた、その封印素体として選ばれた一人の人間でもあった……。










ーーー彼女は選ばれた。


キャロットは幼い頃に両親を失い、遠い親戚が貴族だった事から、仮初めの名で貴族がつくだけの、至って普通の人の子だった。



だが、そんな彼女が住んでいた村には、災いを呼ぶ存在ーーーバケモノが住み着き、毎日のように犠牲者が生まれていた。

一晩に数十人と、一斉に食い殺されることもあった。







そんな時。

村に得体の知れないローブを被った魔法使いが現れ、一つの提案を村の住人たちに持ちかけたのだ。


それは、バケモノを封印する術。


封印素体を作らないか? という言葉だった。








ーーーそして、村人たちは選択した。


村の住人に養ってもらう為、タダ働きのように家事手伝いをしていた一人ぼっちだったキャロット。

そんな彼女を災いの存在を封印するため生贄……封印素体として村人たちは選んだのだ……。





「ぃゃ、ぃゃッ、いゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」





封印に伴い激痛が全身を突き抜ける。

三日三晩に続く少女の悲鳴が鳴り響き、そうして、バケモノは無事封印される事となった。

ーーーーそして、それから約一年という年月が過ぎていった…。







村の外れにある暗い洞窟の中。

壁に吊るされた炎を灯す器に、ひっそりと火がつけられた、そんな視界の悪い暗闇の中で、



「ほら、飯だ。さっさと食え」



週に数回しか持ってこない、パン一個の食料を床に投げつけ、村人の男がそう言葉を吐く。

男がその言葉を飛ばしたのは、何も暗闇に対してではない。



「………ぁ」


その言葉が向けられたのは、壁際に打ち込まれた鎖で両四肢を拘束された一人の少女。


ーーーキャロットだった。






「……ぁ…ぁ」



キャロットはその痩せこけた手を伸ばし、何とか床に落ちたパンを拾い、かぶりつく。

ジャリジャリとした食感にくわえて、土の味が味を不味くする。

だが、



「チッ」


村人たちが持ってくる食料は、皆そのような食事だったのだ。






封印素体となったキャロットは、本来なら災いを封じてくれて事に感謝の言葉を向けられる。

それほどに大きなこと成したーーーはずだった。






ーーーしかし、村人の目は感謝とは掛け離れたほどに冷たく、そして、恨みの念を灯していた。


何故なら、村人たちは今度は災いを封印したキャロットに対し、バケモノと呼ぶようになっていったのだ…。




「バケモノ…」

「ち、ちが」

「来ないで! この人殺し!」

「わ、私は殺してな」

「俺の家族を、よくも!よくも!!」

「ひっ、ち、違う! わ、私じゃない!!私は何も、やってないっ!!」




そして、外に追い出した事で問題が起きればこちらのせいにされると考えた彼らは、抵抗するキャロットを強引に連れ込み洞窟奥に縛り付けた。


拘束をしなくても、殺せば簡単に事は済んだかもしれない。

だが、下手に手を出し、封印が解けるかもしれない恐れもあった。





だから、彼らはキャロットを拘束し続けたのだ。

少ない食料と水を与え、何日かに一回、見回りに行く。


まさにーーーー生き地獄だった。







「っ、ぅ!!」


ゲホッガッ、ゴボッ!! と食べてしまったモノを吐き出してしまうキャロット。

だが、それでも拙い栄養分となる食事だ。



だから、キャロットは嫌が何でも栄養を得るため、地面に顔を押し付け、口を動かした。

涙を流し、嗚咽と嘔吐、それらを何度も繰り返しながら………










そうして、それから長い……時間が過ぎた。

キャロットにとっては、もうどれだけの日数を跨いだのかすらわからない。


だが、そんなキャロットにも一つだけ理解できる事があった。




それはここ最近、食事を持ってくる村人がいなくなっしまった事だ。





(……やっと、終わるんだ…)




自身の死を悟ったキャロットは、光を灯さない瞳で地面を見つめる。



何も見えない暗闇。



だが、そんな場所の中でも、目を閉じれば少し前まで当たり前だった幸せの記憶が繊細に蘇ってくる。



お父さんとお母さん。

両親たちに手を繋いでもらい、笑いながら歩く光景が、蘇ってくる。




だけど、その心奥底で彼女は思った。



ーーーーどうして。



ーーーーどうして。




ーーーーーーどうして、私だけ、こんな事にならなくちゃ、ならなかったの?






「っ、ひくっ、ぅぇ、ぅぅ…っ」







誰も助けてはくれない、嗚咽と涙。

キャロットは体を縮こませながら、ただ泣き続けることしか出来なかった。


それしか、出来なかった。


ただーーーーそれしか、









「やあ、こんにちは」









ーーーーその時だった。

誰もいないと思っていた、その目の前に一人の少年が姿を現したのだ。


「……ぇ…ぁ」

「……大丈夫だから、落ち着いて」



少年の名前は、シグサカ。

この世界に転生してきた、もう一人の勇者候補となる少年だった。


彼は泣き続けるキャロットを見つめ、それから次に両四肢を拘束する鎖に目を向ける。

そして、状態を理解した上でシグサカは、




「それじゃあ、お願いしますね。バルティナさん」



誰もいないと思っていた少年の背後から、突然と姿を現した魔法使いの女性。

賢者バルティナは溜息をつく。


「ええ、いいわよ。だけど、貴方と私。交わした約束はきっちりと守ってもらうわよ」

「はい、わかってますよ。ーー僕が貴方の弟子になる。それが、約束ですからね」


シグサカの言葉に再度と溜息を吐いたバルティナは、キャロットに対して手のひらをかざす。

そして、魔法陣を展開させた直後。







バキィン!!! という鎖が壊れる音。

ジャリ、という目には見えない鎖がキャロットの体に巻きついた音が洞窟内に鳴り響く。







「………」


キャロットは、体に何が巻きついたことを理解していた。

だが、それなのに動けている事に驚きを隠せずにいた。

そんな彼女に対し、バルティナは口を開き、



「よかったわね」

「……ぇ…」

「わかってないようだから言葉にしていってあげるけど……彼のお陰で貴方は助かったのよ?」

「……?」



その言葉の意味が理解できない。

キャロットが眉をひそめる中、シグサカはそんな彼女に近寄り声を掛ける。



「突然のことで驚いてるだろうけど、何も企みとかはないんだ」

「……」

「偶然この村に来た僕が君の事を知って、色々と調べた。そして、助けたいと思ったから助けた、ただそれだけなんだ」



だから安心して、と口元を緩ませながら言うシグサカ。

それは、側から見ても、あまりに怪しげな言動にして他ならないものだった。



だが、



「大丈夫。僕が彼女の弟子になる代わりに、君の自由は保証される。そういう手筈になっているから」



キャロットにとって、そんな事など本当に小さな疑問でしかなかった。


誰も助けてはくれなかったこの場所で、彼が助けてくれた。




「っ、ぅぅ……ひくっ、ぁぁ、ぅあぁあぁぁぁっーーーーー!!!!」



ただ、それだけで嬉しかった。

大粒の涙を流し、キャロットは大泣きのように嗚咽を吐き続けた。




それほどに、嬉しかったのだ…。







そうして、流れるようにシグサカは約束通りバルティナの弟子となった。


そして、キャロットもまたバルティナにつかえる眷属のような立ち位置に落ち着く事とになった。





だが、彼女が本当に心から慕っているのはシグサカだけだった。


ーーーー彼の為なら、何でする。



そう、心に誓っていたのだから……



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