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宣言

少し再編集して、ちょっと分も追加しました!





「とりあえず、学園長に報告って事で」

「ちょ、待つのじゃ!? それやられると、アヤツとの交渉権やら親睦やらが色々ヤバいことになるのじゃ!だからストップじゃ!!」


アーチェからもたらされたファーストの悪事をチクってやろうと考えていた神宿に泣きついてくるファースト。


自身の師匠でもあるアーチェも大概だったが、まさかその上がまだいたのか、と神宿は深く溜息をつくのだった。






「つまり、トオルくんの周りにあんなにも女の子がいたのは全部あのクソババアのせいってことー?」

「ああ、そうだ」


一度師匠と二人で話しがしたい、と言ってカルデラたちにリビングに残ってもらった神宿は今、アーチェと共に修行場にやってきている。




「それで…なんだけど…」

「?」


そして、神宿はどこか歯切れの悪い言葉をつきつつ、首を傾げるアーチェを見つめながら、





「どうせ、後々バラされると思うから………俺から先に言おうと、思うんだ」






神宿はこの一年の間に、隠し続けていたこと、そして、オリジナルの魔法を作る際に起きた障害について話し始めるのだった。









その頃、リビングでは、


「そういえば、あのマーチェという男はどうしたのじゃ?」

「? ああ、マーチェなら」

「なら?」

「ーーーーー沈めてきました」


そう言って黒い笑顔を向けるカルデラに、苦笑いを浮かべるファースト。

そして、ガクガクガク!! と震えるカフォンの姿があるのであった。












「っ、はぁ、はぁ……こ、こんな感じなんだ…」


アーチェが見つめる中、上位の魔法が使えないこと、そして、オリジナルの魔法が完成できない事をその場で見せ、全て話した神宿。


ーーー本当なら、神宿は最後まで秘密にしていようと考えていた。

だが、



(…………)



以前、大賢者であるファーストがアーチェに対して、侮辱的な言葉を吐いた事があった。


そして、その一件もあった事から、あの大賢者は必ず、その真実をアーチェに対して突きつけると神宿は思ったのだ。





それが例え、正しい言葉だったーーとしても。


「……ッ」


師匠である彼女が侮辱される。

その事が、神宿にとっては、どうしようもなく嫌だった。









話を聞き終え、その場に沈黙が落ちる。

そんな中で、アーチェはその唇を動かした。



「……師匠は、私のこと…不肖な弟子って言ってたよね?」

「!?」

「やっぱり…そうだと思った」


神宿の反応を見て、そう言いながら笑うアーチェ。

だが、その笑みには乾きがありーーーそれはまるで自身に対して嘲笑っているような笑みだった。




「ごめんね、私がちゃんとしていれば」

「っ、そんなことない。…そんなこと」

「……違うよ」

「っ」


神宿の言葉を不定して、アーチェは言葉を続ける。



「師匠が言ってた通り、私は不肖な弟子だよ。……トオルくんが悩んでいた事も知らなかった、色々頑張っていてくれた事も知らなかった。そんな君に対して、私は自分勝手にオリジナルの魔法を作れ、だなんて言葉を口にした」


ーーー弟子の気持ちも汲み取らないで、何が師匠なんだろうね? とアーチェは笑って言った。

そして、彼女はーー



「…やっぱり、私なんかに師匠と名乗る、資格なんて」



そう言って、深く自身を貶める言葉を続けようとした。

ーーその時。





「ッ、だから、違うって言ってんだろ!!」





その怒鳴るように声を絞り出したのは、目の前にいた神宿だった。


今までアーチェに対して、ここまで感情的に言葉をぶつけたことはなかった。

だからこそ、彼女もまた驚いた様子で目を見開いていた。


「と、トオル、く…」

「本当なら言うつもりなんてなかった! だけど、あの大賢者はどうせお前に対して、今の話を突きつけて傷つける、そう思ったから話したんだッ!」

「…で、でも、そのとおりじゃ」

「確かに、アイツが言っていることは正しいのかもしれない!」

「……」

「それでも!! ………俺はお前から色んなものを貰ったんだよ。……上位の魔法が使えない、オリジナルの魔法が作れない、そんな小さな事じゃ消せない恩を、俺は師匠から貰ったんだ」




一年前。

一人で生きていく、とそう喚いていた神宿は、偶然として出会いをきっかけに、なりゆきでアーチェの弟子となった。




だが、最初から素直な弟子だった、というわけではない。

神宿はブツブツと愚痴をこぼしながら、いつでも出ていってやる、とそんな気持ちで弟子を続けていた。

だが、



「…俺は、まだ何にも返せてない」



ある時を境に、神宿はーーーーアーチェの弟子として、共に暮らす日々。

その毎日がどうしようもなく、心地よいものに変わっていっていることに気がついた。




それは平凡な日常の中にある、誰かと喋り、時に笑い合い、時に喧嘩もする、至ってシンプルな関わり合い。


だが、その行いには必ずーーー側に誰かがいてくれる。



親と死に別れた神宿だからこそ、その幸福なまでの幸せに気づくことができた。




一人で生きていける。


ーーそこまで、人が強くはないことに気づくことができた。


だからーー




「……あのまま師匠に見つからないまま、一人だったら、俺は多分。心まで荒んで、どうなっていたかすら分からない」

「…………」

「だから俺は師匠に出会えて、よかったと思ってるんだ。恩を感じてるんだ。だからーーーーー恩返しのためにも、俺は師匠に教えてもらった今のある魔法でやれる事をやっていくって決めたんだ」



例え、それがみっともなくたっても構わない。


神宿は、目の前で半泣きになるアーチェを見つめて言う。





そうーーーーそれは、宣言だった。






「あの大賢者の野郎が師匠を馬鹿にできないようーーーー俺は立派な魔法使いになるって、そう決めたんだ」






ーーーーーやっとその言葉を神宿はアーチェに伝えることが出来た。




「………私が、っ、師匠でも、いいの?」

「当たり前だろ? 逆にあの大賢者に変われって言われたら、思いっきりアイツの頭を叩いてやる所だよ」


そして、弱々しくも泣きべそをかくアーチェに対して、




「だから、これからもよろしくな? 師匠」



神宿は、優しげな笑みを浮かべるのだった。





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