初めての男子寮
次の日に出す予定だった、話です!
それはーーー腹の底から滲み出るような声だった。
「ーーーーくん? ーーーーくん?」
そして、その声の主が通り過ぎた後にはーーー無数のモンスターの死骸が転がり落ちているのであった。
カフォンが神宿の男子寮に住むことになった、その次の日の朝。
ちょうど学園が休日だった、その一日目。
「…ほ、本当に、ここで住めっていうの?」
必要最低限の荷物を手にやってきたカフォンは今、ボロボロの見せかけ男子寮に対して顔を引きつらせている。
だが、その一方で、
「ほら、入るぞ」
「あっ、ちょ、ちょっと待って!?」
そんな彼女を気にも止めず、平然とした様子で入る神宿に、カフォンは慌ててその後を追いかけるのであった。
そして、その直ぐ後にて、
「な、何これっ!?」
再び目の前の光景に驚かされるカフォンなのであった。
男子寮のリビング広場にて、
「ほら、飲み物」
「あっ、ありがとう…」
テーブル前の椅子に腰掛けるカフォンは今、神宿に入れてもらった紅茶を口にしていた。
「ぁ……おいしい…」
そして、素直に感想を述べる彼女に対し
神宿も小さく口元を緩ませながら、反対側の席へと座り一息をつく。
「って! こんなにのんびりしてる場合じゃないのよ!」
直後、バン!とテーブルを叩き声を上げるカフォン。
一方の神宿はとくに驚く様子もなく、溜息をつきながら口を開く。
「って言っても、急いだって仕方がねぇんだよ。魔法のコントロールなんて、日々の積み重ねが基本なんだから」
「っ、で、でも」
「それに、お前の魔法について俺はまだ全部知ってるわけじゃねえんだ。そんな中途半端な感じで教えても仕方がねぇだろ?」
「ぅ、ぅぅ」
そう的確な言葉に対し、シュンと小さくなるカフォン。
彼女なりに今回のことに対して強く責任を感じている様子もあり、そのせいか、気が高まっているのだろうが、
「まぁ、ぼちぼちやるしかねぇって。俺も師匠からそう教えてもらったし」
「…………」
「な?」
カフォンにそう言って、笑みを見せる神宿。
それは、裏表とない優しげな笑顔だった。
「………っ、わ、わかったわ」
カフォンは赤くさせた顔を伏せながら、誤魔化すようにコップに入った紅茶を啜る。
そしてーーーーー
「そういえば、貴方の師匠って誰のことなの?」
「ん? ああ、えーっと、賢者のアーチェ」
「ぶーーーっ!?!?」
初めて聞いたその事実に、カフォンは見事に紅茶を噴き出すのであった。
一方、その頃。
もう一人の貴族でもある、少女……
「マーチェ! どいてください!」
「なりません! お嬢様!」
たくさんの荷物を背中に背負うカルデラは今、カツラ装着のマーチェによって行く手を阻まれていた。
ーーーーというのも、
「私もトオルの所で修行するんです!だからどいてください!!」
「いえ、それでもなりません!! というか、修行ならそんなに荷物はいらないはずです! 明らかに住み込む気満々じゃないですか!?」
と、ほぼ当たりの指摘するマーチェに対し、カルデラは顔を俯かせながら、
「何をいうかと思えば……そんなの…」
「…そんなの?」
冷や汗を流し、構えるマーチェ。
そんな中で、カルデラは言葉を溜め込みながら、
「当たり前じゃないですか!! もし、仮にカフォンさんとトオルに何かあったらどうするつもりなんですか!? 私、一生マーチェのこと恨みますよ!?」
「なっ!? って、やっぱり修行うんぬん関係ないじゃないですか!! そういう事なら、なおのこと絶対に行かせません!私、マーチェは死んでも貴方の行く手を阻止せます!!」
ーーーこのどうしようもない戦いの火蓋は、そうして切られるのであった。




