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そこは暗闇の中。

誰もいない、一人死んでいくのかと、思っていた。

そんな場所で私を助けようとする、誰かの声が聞こえた。



誰も助けてくれない。


誰も信用できない。



そう思っていた、世界で……









「……ぅ」


感覚がボヤける中、ゆっくりと瞳を開いた少女、カフォン。

視線を向けた先には天井があり、周囲を見渡すとそこは学園内にある保健室だった。


すると、その時。





「目は覚めました?」



直ぐ側からその声が聞こえてきた。

視線を向けると、そこには長髪の女子生徒が一人、椅子に腰かけこちらを見ていた。

そして、その少女は、




「か、カルデラ…さん…」




廃貴族の友達、そう皆から呼ばせたくない。

そんな思いで突き放すために、酷い言葉を言ってしまった少女、貴族カルデラだった。










「ーーということがあったみたいです。なので、あのアクセサリーを貴方にあげた人がおそらくは…」

「……………」


カルデラから、事の真相を聞かされたカフォンは顔を俯かせる、静かに唇を紡いでいた。


今までずっと大切な友人だと思っていた、少女アルサ。



そんな彼女が犯人だなんてーーーーカフォンは思いたくはなかった。






まだ、心のどこかで何かの間違いだ、とそう思いたかった。

でもーーーーーー



「…そっか、私……ずっと勘違いしてたんだ…」

「………………」

「友達だって………思ってたの……私が貴方や他の親しい人たちに…っ、酷い言葉を言っちゃったのにっ、ぁ、アルサだけは…それでも一緒にいてくれるって、言ってくれたの……だから、私…っ…」


今まで積み上がってきた記憶の中で、アルサの記憶が繊細に蘇る。

だが、それがどうしようもなくーー辛かった。


目尻に熱がこもり、涙が止まらなかった。



カフォンは、ーーーーみっともなく、ただ泣くことしか出来なかった。



「……………」



カルデラはそんな泣きじゃくるカフォンを、ただ静かに見つめることしかできなかった。



自分がもっと強く。

彼女が自分たちを突き放した時、それを気にせず向き合える、そんな心の強さがあればーーーこんなことにはならなかったはずだ、と。



そんな後悔を抱くことしか出来なかった。











それからしばらく経ち、カフォンの涙が治ろうとした頃。



「む? 目が覚めたようじゃな?」



保健室に大賢者ファーストが入ってきた。しかも、



「うわっ、ちょ、離せって!?」



その手にはガッチリと神宿の腕が掴まれており、強制的に連れてこられた様子だった。




「トオル? 何で」

「コヤツ、随分前から保健室の前で待ちぼうけでおってじゃな」

「っ!? 余計なこと言うなって!?」


しかも、どうやら盗み聞きをしていたらしい。



弱音に加えて泣く声も聞かれた。

その事に顔を赤くさせるカフォンに対し、カルデラはジト目を向けつつ、



「……トオル」

「っ、仕方がないだろ!? そもそも、女だらけの部屋に入るって結構度胸がいるんだよ!」

「何を言っておるのじゃか。どうせお主、部屋の中で広がるしんみりムードに気圧されて、入れずにいただけじゃろ?」

「っ!?」


図星を突かれて、顔をひきつらせる神宿。

そんな彼を更にジト目で見つめるカルデラ。


二人の少女の視線に対し、神宿は冷や汗を流す。

その時ーーー




「あ、あの…」



蚊帳の外にいたカフォンが、神宿に声を掛けてきた。

その顔色はどうしようもなく、弱々しく、いつ泣き出しておかしくない様子だった。



「た、助けてくれて、ありがとう…」

「…え、いや、あれは」

「貴方が私のために色々手を尽くしてくれていた事は、カルデラさんから聞いたの…だから、その事もふくめて」

「なっ!? おま」

「(口笛)」


神宿はそんな下手くそな口笛で顔をそっぽ向けるカルデラを睨みつつ、溜息を吐きながらもう一度カフォンに向き直り、



「…俺は何もできてねぇよ。結局、お前の悪評を払拭できなかったし」

「そんな事ない…。あの時、貴方だけが私のために怒ってくれた。私を助けてくれた」

「………」

「私は、もうそれだけで満足なの。だから、もうーーーー廃貴族と呼ばれるように、なったとしても……」



あの試合で、カフォンの悪評には拍車がかかってしまった。

生徒のみならず、教師にさえ、悪い印象を与えてしまった。



「……っ」



あの試合でなら、まだ払拭まではいかずも軽減させる事は出来ただろう。

だが、あれだけの光景が悪評として広がってしまってはもう為すすべはなかった。


どうすることもできない、その事にカフォンのみならず、カルデラや、そして神宿もまた黙って見ているしか出来なかった。











と、その時だ。




「タチの悪い噂を払拭させる方法ならあるぞ?」




そう言葉をついたのはーーー大賢者ファーストだった。


一瞬、沈黙と化す保健室。

だが、遅れて神宿たちが驚いた顔を向ける中、



「何、簡単な事じゃよ」



ファーストはイタズラっぽい笑みを浮かべながら、言う。







「五ヶ月後に行われる試験に、お主らがチームとして合格すればいい。まぁ、ーーーーーレベレレストダンジョンの攻略を、じゃがな」






ダンジョンを攻略しろ。


その言葉に驚愕の表情を浮かべるカルデラとカフォン。

だが、そんな中で神宿だけはーー



「は?」



その言葉の意味を理解できず、一人首をかしげるのであった。





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