◆冒険者から逃げる
神宿が異世界へと転生させられてから早数週間が経った。
神宿自身、この世界に来て何日過ぎたのかすら正確には理解すらできてはいないが、それでも森での生活も次第に慣れ始め、食についても困らないまでに成長することが出来ていた。
モンスターとの戦いや、食料の調達、更には寝床の確保、と初めは全然ダメダメな動きが多々目立っていた。
だが、それも今では素人に毛が生える程には出来るようなってきた。
とはいえ、モンスターとの戦いにおいては、その大半がチートスキルのおかげでもあるのだが。
(人間、慣れだなぁ……)
と、最近しみじみ思う神宿なのであった。
◆
軽い運動の後、いつも通り食料探しをするため森の探索を始める神宿。
だが、そんな時だった。
「ん? ……何か森が騒がしいような」
森を歩く最中、少し離れた所からモンスターの悲鳴やら樹木が倒れるような音が聞こえてくる。
それは、これまで森で暮らしてきた中では聞いことのない音だった。
(……何か、嫌な予感がするな)
いつもと違う何かが起きている、と感じた神宿は急ぎその場から走り去ろうと行動に移ろうとした。
しかしーーーーその次の瞬間。
『ウィンドブレイド!!』
その突然と聞こえてきた声と同時に吹き抜けた強烈な風が神宿の視界を防いだのだ。
「うわっ!?」
そして、顔に手をやりつつも、何とかその場に留まり後ろに吹き飛ばされずに済んだ。
何が、と呟きながら、神宿は目を瞑っていた目蓋をゆっくりと開ける。
すると、そこにはーーーー
「ん? 子供か?」
さっきまで生えそろっていたはずの樹木のほとんどが切り倒されていた。
そして、その切り倒された樹木の奥で、厳つい顔つきをした三人の男たちが神宿を見ていた。
手には剣や盾、中には弓矢も持っている者がほとんどであり、その姿から察するにこの異世界でいう所の冒険者なのだろうが、
「おい、貴様。そこで何をやっている!」
そう言って男の一人が剣を抜き、神宿に近づいてくる。
僅かに感じられる殺気を隠すことなく表情にして出す男。
だが、その一方で他二人が男が声を掛ける。
「おいおい、そう険しい顔しなくても」
「ここがどこだかわかってるのか? あれがもし仮の姿なら尚更警戒は必要だ」
「いやいや、奴っこさん完全にビクついてるじゃねぇかよ」
「馬鹿め、奴らは人間の情を利用するのだぞ? 奴の皮を剥ぎ、人間であるかどうか確かめなくては安心なぞ出来ん」
そう言って、男たちは神宿が聞いているにも関わらずにそんな物騒な内容を口走っている。
人間かどうか確かめるため?
皮を剥ぐ?
そして、ダラダラと汗をかく神宿は、そんな単語を頭に浮かべながら顔を青くさせ、
「……………じ」
「「「ん?」」」
その次の瞬間。
「冗談じゃねぇっ!!!」
神宿は男三人が見つめる中、即座に逃走を選択した。
あの場でついていけば、間違いなくやられると確信したからだ。
「あっ、おい待て! 逃げるなっ!!」
逃げる神宿に対して男の一人がそう叫んでいる。
だが、
(皮剥ぐなんて言われて待つ奴なんているかよっ!!)
そう内心で叫びながら逃げる神宿は後ろから追ってくる男たちから何としても逃げるべく、試行錯誤しながら逃走を続けた。
短い期間ながらも森で住んでいた甲斐あってか、神宿はこの森林に対して少しばかりの土地感が芽生えつつあり、迷うことなく、道とも言えない道を走り続けていた。
しかし、それでも追いかけてくる男たちとの距離が一向に離せない。
(はぁ、はぁ、はぁっ!! こ、このままだとッ、や、ヤバイっ!!)
そして、逃げ場が着実と狭められている。
このままでは後数分もしないうちに捕まる、そう考えた神宿は、もうダメか、と諦めかけた。
そんな時だった。
「!!」
逃げる視線の先で、神宿と視界にあるものが映った。
だが、それとは同時に心に一瞬の躊躇いが生まれる。
「っ!」
しかし、ここで躊躇しては男たちに追い付かれてしまう。
このチャンスを逃せば、もう打つ手はないこともわかっていた。
だから、神宿は、
「っ!!!」
ま、待て!そこは!! と、男たちの声は直ぐに消失してしまった。
ーーーーというのも、何故なら、
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
神宿が意を決して行動、いや、飛び込んだ先は、上流から下流へと流れ落ちていく滝の中だったからだ。
そして、滝の中に入っていた神宿の体は一瞬にして轟音を引きずりこまれるようにして水中へと飲み込まれてしまった。
「何と………」
男の一人が悔やんだ表情を浮かばせる。
だが、他二人のうち、剣を片手に持っていた男は大きく溜め息を漏らし、
「……とりあえず、下流まで降りて死体を探しに行くぞ」
そう言葉をつくのだった。
そうして彼らは下流の行き着く先である下の森へ向かうべく、その場を後にするのであった。
そして、一方のその頃。
滝へとダイブした神宿はというと、
「げほっ、ゴホっ! っ、……はぁ、はぁ、ほ、ほんと、スキル様様だよ、な……っ」
自害阻止スキルのおかげもあって、何とか生き残っていた。
正確には着々の間際に魔法陣が発動され、まるでトランポリンのごとくやんわりと彼の体を衝撃から守ってくれたのだが、
「ぅぅ、寒っ……と、取り敢えずはこここら離れよう」
全身びしょ濡れの体を震わせながら、こうして神宿は下流の先にある森の奥地へと歩いていくのであった。