◆女神は怒られていた
神宿が異世界に転生させられて早数日が過ぎた頃。
天界ではちょっとした騒動が巻き起こっていた。
「どういうことか、説明してくれますね?」
その言葉をお告げしたのは、天使の翼を生やした白いドレスに身を包んだ美女。
名を持たない全ての女神を統べる天界の主神だ。
そして、そんな彼女が見つめる視線の先で、
「え、えと………その」
反省した様子で正座する少女、神宿を無理やり異世界へと転生させたラフィンの姿があった。
◆
何故、ラフィンが正座すら形になっているのかというと、それは主神による取り調べが今まさに執り行われていたからだった。
そして、その内容はというとーーーー転生候補としてあがった少年。
神宿 透に二つのスキルを持たせたことについてだった。
「本来、転生者にはスキルは一つ、というのが決まりになっているはずです。それだというのに貴女は、かの少年に二つもスキルを授けたそうではありませんか」
「ぇ、ぇぇと……それは…………仕方がなく」
小さな声で呟きながら口をモゴモゴさせるラフィン。
しかし、
「異論があるのでしたら、どうぞ。しっかりと聞いた後で議論しましょう」
その言葉と共に主神は優しく、笑みを浮かべる。
「っ!?!?」
その笑みが、もの凄く怖かったのだろう。
ラフィンは全身を震わせ大涙を流しながら頭を下げ、神宿を転生させた、その経緯を暴露するのであった。
ーーーーそして、
「ーーーーなるほど、つまりは本人の有無を無視して異世界に飛ばしたと」
「だ、だって! アイツ、送ってすぐに死ぬ行動するかもしれなかったんですよっ!!」
泣きながら言い訳をするラフィン。
「はぁ……だからといって、女神が規則を破っていいものではないでしょう?」
「うっ!? そ、それは……はぃ」
しかし、そう指摘されてしまい、しょぼんとするラフィン。
そんな姿に溜め息を吐く主神は手元にある鏡から下界の様子を窺い、今現在も地上にてモンスターと奮闘する神宿の姿を見据えながら、
「二つのスキルを与えた以上、もうどうすることもできません。しかし、規則を破った以上、それ相応の罰も必要です」
主神は、ラフィンに向かって手の平をかざす。
「え……っ」
すると、ドン! と、ラフィンの目の前にドッサリと山積みになった紙束と羽ペンが落とされた。
「…………ぇ?」
しばし、何が起こったか分からず固まる小さな女神。
だが、対する主神はそんな哀れな女神に対して裁きを与える。
「貴方にはこの始末書千枚を書く刑を与えます」
ちなみに天界では、始末書一枚につき六千文字を記入する規則で定められている。
そして、それが千枚だとすると、その書く量は果てしないものへと至るわけであり……、
「そ、そんなぁああああーーーっ!!!」
その日。
女神ラフィンの泣き叫ぶ悲鳴が、天界中に木霊すことになるのだった。