宿題
カリオカとの一件から、数日が経った。
あんな事があったにも関わらず、学園内には平穏が漂っており、また一時の怪我をした少女カルデラも今では普段と変わりない様子で学園に通い続けていた。
そして、その一方で神宿と同じクラスであったカリオカたちはというと、
「……やっぱり退学になったんですね」
神宿が一人の教師に聞いたところ、あの後直ぐに彼等は退学処分になったらしい。
ーーーーそれは、あまりに呆気ない結末にも見えた。
だが、それでもまだ神宿には不安は残っていた。
もしかしたら、恨みつらみで奇襲をしかけてこないか、と神宿はそう考えたのだ。
しかし、教師からは、
「おそらくだけも、もう彼らが君たちのもとに現れることはないと思うよ」
愛想のいい笑みを浮かべられ、そう答えを返されてしまった。
結果として、意味がわからないまま、神宿は首を傾げることしかできなかったのである。
「はぁ〜」
ーーーと、ここまでが結末後のお話である。
そして、今。
放課後となった、現在。
神宿はというと、ーーーーどうしても納得がいかない、といった遺憾の念を抱いていた。
というのも、
「あ、トオル。そこ間違ってますよ?」
「っ!何でお前、こんなに頭良いんだよ!? 料理は壊滅的なのにッ、おかしいだろっ!?」
「ブッ!? そ、それ関係ありませんからねっ!?」
神宿の住む学生寮のリビングにて。
机の上に広げられた学園の宿題に取り組む男女。
神宿とカルデラの姿がそこにはあった。
「つか! そもそも、何でここで宿題をしなくちゃならねぇんだよ!」
「だって! …その、仕方がないでしょ? マーチェ、まだ帰ってこないんですから」
その言葉通り、カルデラの怪我に対して自身の不甲斐なさを恥じたマーチェは今もまだ学園に帰って来ていないという。
カルデラの父のお叱りが長いのか、はたまた彼自身帰り辛いのか、詳細は分からずじまいだが…。
(いや、それにしても、責任感がありすぎるだろう…)
と、思う神宿。
すると、そんな彼にカルデラは声をかけ、
「トオル…」
「ん、何だよ」
「そのページ、ほとんど間違ってま」
「だぁーー!!やめだやめーっ!!」
神宿はヤケになって自身の宿題を放り投げてしまった。
「………」
あまりにも情けない彼の姿に、カルデラは溜息をつきつつ、自身の宿題をやり終えるとそのままキッチンへと向かい歩いていく。
そして、空きのコップに飲み物を注ぎつつ、
「ほら、トオル。これでも飲んでる落ち着いてください」
「あーー」
机の上に頭を倒す神宿は、怠いー! しんどいー! と大きな溜息を漏らすのだった。
「それにしても意外でしたよね。まさか、トオルがここまでこの科目を苦手にしているなんて」
カルデラがそう言って見つめるのは、神宿の宿題。
その中身はーーー魔法薬学に関する式問題である。
魔法を使う等といった実技においては、これといって成績上問題のない神宿。
だが、魔法薬学においてはまた違うらしく、何の知識も持っていなかったのである。
そして、師匠であるアーチェからも、ほとんど教えられてはいなかったのであった。
一度、興味を持って神宿が彼女に尋ねてみたが、
『なぁ、これってどうやるんだ?』
『えー? さ、さぁー?』
いや、もしかしたらアーチェもまた苦手だったのかもしれない…。
かくして、一からの勉強もあって、中々宿題が進まず神宿はこうして悩んでいるわけなのであった。
「ってか、何でこれできるくせに、料理の方は壊滅的なん」
「トオルー? それ以上言うと、怒りますよー?」
そうして、カルデラによる付きっきりの指導のおかげもあって無事宿題をやり終えた神宿たち。
そこで、神宿はふと思い出したようにカルデラに質問を投げかけた。
「そういえば、今日は何で俺のところに来たんだ?」
本来なら、この日は特に集まる約束もしていなかったはずだ。
それなのに、カルデラがここまで来たことに、神宿は少し疑問を抱いていたのである。
対して、カルデラはというと、
「……そ、そのー、お、お母様から…」
「から?」
「……ちょっと、気になるものが届きまして」
カルデラはそう言って、カバンの中から大きな紙袋を取り出す。
そして、神宿が見つめる中、袋に手を突っ込み、あるものを取り出した。
それはーーーー
「これ、何だと思います?」
「………あー、多分だけど。か、カツラ、だな」
ーーー少し短めのカツラだった。
ーーーーしかも、男性用だった。
「「…………」」
正直ーーーーー何でこんなものが届いた? と頭を悩ませる神宿とカルデラ。
疑問は解けず、若干疑問が募った一日となってしまった。
だがしかし、その答えは数日にして解けることになる。
そう。
彼のーーーー帰還と共に…。




