幸せの結末
夕暮れが去りーーー
夜が来るーーー
本来なら誰もいないはずの魔法学園。
その内の一つでもある保健室には今もまだ明かりが灯されており、またその部屋には、
「すぅ……すぅ……」
周囲がカーテンに囲まれた小部屋のベッド。その上で安らかに寝息を立てる少女ーーーーカルデラの姿があった。
カリオカと神宿。
二人の決闘に決着がついた後、カルデラは直ぐ様この場所へと運びこまれた。
それは共にあの場所にいたキャロットによる指示でもあり、またカルデラの身を案じたためでもあった。
ーーーーとはいえ、外傷と呼べるもの既になく、神宿のおかげもあって彼女の体に残っていた火傷も含めた怪我はもうほとんど完治していた。
後残すは、彼女の意識が戻るのを待つだけ、とーーー
「ぅ……っ…あれ? こ、ここは…」
そんな矢先。
虚ろげな瞳を開き、カルデラは目を覚ました。
見慣れぬ室内に首を傾げながら、カルデラは自身の体や周囲においてある物へと視線を向ける。
すると、そんな彼女に、
「お、やっと目が覚めたか?」
閉められていたカーテンがゆっくりと開かれ、その視線を向けた先には、
「その様子じゃあ、大丈夫そうだな」
そう言って、口元を緩ませる神宿 透の姿がそこにあった。
決闘の結末。
後。その後の顛末を聞き終えた。
そして、今。
カルデラは小さく唇を紡ぎながら頭を下げている。
……ベッドの上で、正座させられながら。
「………」
何故このような状況に陥っているのかと言うと、それは直ぐ近くの椅子に腰掛ける少年。
笑顔かつ、不機嫌な様子の神宿がいたからだ。
「全く、お前は…」
神宿はカルデラを睨みつつ、呆れたように溜め息を吐く。
「……まぁ、カリオカを含めた手下の奴らは、キャロットが呼んできてくれた先生たちに魔法で拘束されて連れられて行かれた。だから、当分は何もしてこないだろ」
「…………」
「ってか、それより。お前もお前だ! あんな奴の挑発に簡単に乗りやがって」
「ぅぅ〜!」
「本当に、反省しとけよ全く! マーチェさんなんか今、お前の父親に叱られてんだからな?」
見舞いに来て早々からの、お叱り。
マーチェに至っては、警護の目的でいるにも関わらず、何も出来ていなかった事に責任を感じてか、直々な怒られに行ったらしいのだが…。
「…ご、ごめんなさい」
カルデラは顔を伏せつつ、重々にその言葉を黙って聞くしか出来なかった。
例え、神宿の身を心配して挑発に乗ってしまったのが事実だとしても、結果として彼に助けられたのもまた事実であり、
「……」
言い訳しようがなかった。
だから、カルデラも心から反省しようとしていた。
ーーーだが、
「ーーーって、いうのは一般的な方便なんだけどな」
「え?」
神宿の口から出た、その不自然に言葉に顔を上げるカルデラ。
すると、そこにはーー
「カリオカの手下どもから話は聞いた。お前が俺のために挑発にのってくれた事も」
「……」
「だから、その……お前が俺のために怒ってくれたことに関しては……その、嬉しかったって、いうか…」
ーーー歯切れの悪い言葉を言いながら、どこか恥ずかしげに頰をかく神宿の姿あった。
最初は説教じみたことを口していた神宿だったが、本当は素直にこっちの言葉を口にしたかった。
しかし、その性格も災いしてか、中々素直にそれを言い出せずにいたのだ。
あまりに拍子抜けの言葉に対し、ポカーンとなるカルデラ。
また、恥ずかし過ぎてから顔を背ける神宿。
そして、そんな彼にカルデラは口元に手を当てながら、
「プッつ!?」
思わず、笑ってしまうのであった。
「ッ!? おま、今笑っただろっ!」
「わ、笑ってないですよ? いや本当にっ、ププっ」
「だったら今こっち向いてみろ! その笑い顔泣き顔に変えてやるっ!!」
「わわっ、私、まだ怪我人なんですよっ!?」
誰もいない学園内。
明かりのついた保健室で、そう仲睦まじく喋り合う神宿とカルデラの笑い声が聞こえてくる。
ーーーこうして、一つの結末は幸せに終わりを告げるのであった。
そしてーーーーー
その裏側で、もう一つの結末がカリオカたちの元に訪れようとしていた。
それが、幸せ、とは限らずに…。




