基礎という名の武器
「トオル君は色々と器用だねー?」
昔、そんな事を師匠であるアーチェから言われたことがある。
「は? いや器用も何も、こんな事しか出来ないからやってるだけで」
「でもー? トオル君は、もう造形魔法もふくめて、魔法の純度とかも操作できてるんだよー? それを器用って言わないでなんていうのー?」
アーチェの弟子になってから半年が経つ頃、神宿は修行の中で技術方面に力を伸ばす傾向があった。
そして、そのためもあって、一つの魔法ならもう既に純度や形、動きなどといった変化を自在に操ることが出来るようになっていた。
ーーーーーとはいえ、
「いや、そもそもの話。俺、回復魔法以外はほとんど初期の魔法しか使えないんだけど? どっかの誰かさんが一向に他の魔法を教えてくれないから」
「…………」
「おーい、無視すんなぁー」
アーチェは神宿に教えたのは初期の魔法に加え、ヒール、レイズヒール、リアルヒールのみ。
後は何故か、全て技術関係の修行ばかりで当然、退屈に思ったこともあった。
だが、修行を少しずつ成功させていく中で、まるで自分のことのように笑顔を見せ褒めてくるアーチェの姿に、
(…こんなに喜んでくれるなら…頑張ったかいがあったかなぁ…)
退屈など忘れるほどに、いつしか神宿はより一層修行に専念することができるようになっていた…。
そこには賢者に育てられた、新しい魔法を覚えるのではなく、その技術を高め続けた少年がいた。
そして、その少年は今まさに決闘という舞台の中でーーーーー
「決闘の続きをしようぜ? カルデラの分も含めて、俺がお前をぶっ飛ばしてやるよ」
ーーー蕾を開かせようとしていた。
鼻血を垂らし、ゆらゆらと立ち上がるカリオカ。
神宿が見据える中で、彼はその顔を殺意に染め上げていく。
「っ、殺す…殺す殺す殺すっ!!!」
カリオカは手のひらをかざし、再び魔法を唱える。
だが、その詠唱がさっきまでのものよりも長かった。
「っっ!!!」
それもそのはず、彼がその手から生み出したそれは、ただの魔法ではなかったからだ。
「ッ!!フレイム!!」
それは、初期の魔法の次に当たる上位の魔法。
カリオカはその高位となる魔法を今まさに神宿に目掛けて放ったのだ。
「………」
何故今になって、そんな強い魔法を出したのか? と
疑問を抱く神宿。
だが、その答えは直ぐわかった。
(そうか。コイツまだこの魔法を安定して出すことができないのか)
魔法を放った当人であるカリオカの表情には、今も疲労の色が蓄積されている。
それほどに、彼が出した魔法には魔力消費といった高コストが強く掛かっていたのだろう。
「トオルさん!」
神宿に迫るフレイムの炎に対し、離れた場所で声を上げるキャロットは焦っていた。
ファイアの次に当たるフレイムの魔法。
それは高位の魔法の中でも、一番に高い攻撃力を秘めていた。
だから、彼女は神宿に避けるよう、そう言葉を叫んだのである。
だが、そんな彼女の思いとは裏腹に神宿は、
「ウォーター」
再び水の魔法を唱え、攻撃を防ごうとした。
アレではダメだ!
あんな小さな水では、フレイムには勝てない!
キャロットは直ぐ様、カリオカとの戦いに加勢しようと考えた。
だがーーーーそこで彼女は一つの異変に彼女は気付く。
「っ!?」
神宿はフレイムに対し、水の魔法で対抗しようとした。
それも、手のひらサイズの小さな水の塊だけでだ。
突然、その大きさからして勝敗は既に見えていた。
ーーーーそのはずなのに。
にも関わらず、フレイムは未だ水の魔法を蒸発させることが出来ずにその場で止まっている?
「っ、なんで! なんでだっ!!」
「お前の魔法が弱すぎるんだよ」
「っ!?」
神宿が手のひらで操作する水の魔法。
それは短に水の塊を作ったーーーーだけではなかった。
シュルシュルシュルシュル!!! と音を立てて、その場で回転をし続ける水の塊。
前回転で回るそれは、迫りくるフレイムと均衡しながら同時に熱や炎を吸収し続けていた。
そして、
「今のお前の魔法は確かにファイアに比べたら強いのかもしれない」
「っ…!」
「だけど、そんな中身がスカスカの魔法なんざ、どんだけ撃たれようとも怖くなんかねぇんだよ!」
神宿が魔力を更に注ぎ込んだ直後、水の魔法の回転速度は急上昇させる。
そしてーーーーせめぎ合いを打ち破り、フレイムという名の炎を消失せたのだ。
まるで削り落としたように、炎は小さくさせ、無へと帰したのだ。
「そんなっ、馬鹿なっ、馬鹿な!!」
自身の魔法が打ち消されて、強く取り乱すカリオカ。
そんな彼に神宿はさらに告げる。
「今度は、こっちの番でいいよな?」
神宿はそう言って、手を突き出し構えを取る。
神宿は師匠であるアーチェからは初期魔法を除いて、一つたりとも攻撃魔法について習ってはない。
ただ教えてもらったのは、基礎のみだった。
だが、
「お前に、魔法の使い方ってやつを教えてやるよ」
基礎があるからこそ、応用が力を見せる。
元いた世界の知識を手に、彼。神宿 透の逆襲が始まろうとしていた。




