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◆自害阻止スキルの特性



転生した初日。

モンスターに襲われるという危険な目に合った神宿を助けてくれたのは、女神が与えてくれた一つのスキル、自害阻止スキルだった。


自害阻止スキル。

命の危機においてオートで発動するスキルは、一見してチートスキルとも言えるだろう。

ーーーーだが、そのスキルには、ある一つの条件が備わっていた。

そして、それを神宿は後になって気付くことになる。





異世界へと転生した、次の日。

神宿は運悪くも再びモンスターに遭遇していた。


それは、慎重に周囲を警戒して探索を続けていた神宿を嘲笑うように、餌である肉の匂いを嗅ぎつけてやってきた、肉食のモンスター。

四足歩行の獣、狼のような姿をしたモンスターだ。


「にげ、られないよな……」


距離はそこまで近くはない、五メートルほどある。

だが、そのモンスターの見た目から想定される足の速さを鑑みても、逃走できる気がしなかった。

背中を見せたら最後、一瞬にして自分が死ぬ未来さえも見えた気がしたからだ。


「……っ!」


だから神宿は唾を飲み込みながら、逃げることをやめた。

そして、戦うことを選んだ。

幸いにも初日にモンスターと対峙した経験もあってか、今も心は落ち着いている。

何より、転生した初日から武器や防具、剣や盾があり、装備は十分だった。



だから神宿は、ファンタジー的に戦ってやる…! と心の中で意気込んだ上でモンスターに戦いに挑んだのだった。

ーーーーしかし、





「ぐわっ!?」





そう現実は甘くはなかった。

迫るモンスターのスピードに負け、押し倒され、腕やら足など至る所を噛まれた。

そして、激痛の中で悲鳴を上げる神宿が、今度こそ死んだ、そう思った。

その次の瞬間だった。



『キャン!?』



昨日と同じ、再び自害阻止スキルが発動され展開した魔法陣がモンスターが後方へと吹き飛ばしたのである。


「はぁ、はぁ、はぁ…っ」


荒い息を吐きながら、その光景を見た神宿はもう一度展開された魔法陣を見つめる。

だが、そこで神宿はふと自害阻止スキルに対して小さな疑問を抱いたのである。


(もしかして…………俺が『死ぬ』って思ったから発動したのか?)


昨日の後、何度かスキルが発動しないかと色々な事を試したが、それでもスキルは発動しなかった。

だが、現に今発動した魔法陣を見た上で、神宿はその考えに至ったのである。


そして、仮にその仮説が正しいかったとすれば、


「………」


試す価値は大いにある。

時間が経ち、魔法陣を消える中、


「……っ」


大きな傷が、もう一つのスキルでもある自然治癒スキルで癒えていくのを感じた上で、神宿は体を起き上がらせる。

そして、モンスターに向き合いながら、神宿は意を決して前に走り出し、


(普通に考えれば、わざわざ殺されにいくような行動だよなっ!)


その考えを、心の中で叫んだ。

次の瞬間だった。



「!?」



神宿の読み通り、眼前に再び小さな魔法陣がまるで盾の役割を果たすようにして、展開されたのである。

そして、これならいける! と確信した神宿は手に力を込め、



「ッ、やあーッ!!」



盾がある分、気持ちにゆとりを得た神宿は掛け声と共にモンスターに剣を振り下ろした。

しかし、素人の剣筋は空を切るようにモンスターに難なく避けられ、無防備となった少年の横腹めがけモンスターは大口を開け突進する。

しかし、その寸前の差で、


『ガゥ!?』


神宿の正面に展開されていた魔法陣が突然と宙を移動して、モンスターの前方を立ち防いだのだ。


ーーーーだが、その防いだ後のモンスターの反応はというと、何故か物凄く軽かった。

ついさっきまでの跳ね返しが嘘だったかのように、モンスターが再び体制を整えれ立ち上がろうとしていた。


「何でーー」


そして、困惑する神宿がその疑問を声に出そうとした。

その直後だった。





「っあッ!?」





それは丸腰に等しいほどの油断だった。

戸惑っていた事もあって、背後から忍び寄ってきたもう一体の同種型モンスターに気づけなかった神宿の足に、その剥き出しとなった牙は容赦なくその肉を噛み貫いたのである。



「ぐぅあああああああああーっ!!!」



神宿の悲鳴が再び森林の中で轟く。

それは、激痛によって押し出された少年の叫びだった。

しかし、こんな村や町もない森林の中では誰の助けもこない。



ーーーーそう……ただ待っているのは集まってきたモンスター二体による獲物の捕食される現実だけだった。



「っ、やめーーっ!?」


二体のモンスターが揃い、神宿を捕食しようとする。


恐怖と痛みによって溢れ出る涙と嗚咽。

ついには神宿の意識がブレ、もう考えすら浮かべられずにいた。

そして、それと同時に神宿の肉体がーーーー自身の死を悟った。





ーーーーその時だった。





バンッ!!!! という強大な音と共に、神宿に襲いかかっていたモンスターたちが同時に左右後方に吹き飛ばされ、近場にあった岩や木にへと衝突したのである。

しかも、その衝撃が凄まじいものだったらしく、モンスターたちの命は一瞬にして狩られ取られてしまった。



「ーーーーは、はぁ、はぁ、はぁッ!?!?」



遅れて呼吸を思い出し、荒い息を続ける神宿は驚きを隠せずにいた。

その間にも、体に負っていた傷がもう一つのスキルによって治癒されていく。


「……はぁ、な、なんで」


そして、ようやく動けるようになった神宿は、再度確かめるように展開された魔法陣を見上げた時、



「!?」



そこには最初に発動された魔法陣とは比べものにならない、大きな強い光を発した魔法陣が展開されいた。

それはまるで、思いの強さがそのまま魔法陣として表現されているかのようであり、


(ああ……そうか)


神宿はそこでようやく自身のスキル、自害阻止スキルの特性について理解することができた。





それは、女神が与えた自害阻止スキルが言わば、感情で発動するオート型スキルだったのだ。


そして、その特定の感情『死ぬ』という思いが強ければ強いほど、より強力な防壁魔法陣が発動される。

また、さらにタチの悪いことにこのスキルは、人間の深層心理に強く結び付けられ、



(俺が死のうと思っても、体が死にたくないって叫べば発動する、ってわけか…)



狼のモンスターに襲われ死にそうになったあの時、神宿の体が強く自身の死を強く悟った。

しかし、自身の死を体はそう簡単に受け付けず、必死に抗おうとする。

そして、だからこそ、その思い呼応してモンスターを瞬殺してしまうほどの恐ろしい防壁の魔法陣が生まれてしまったのだ。



「…………」



人間を深くしてっている神だからこそ、与えられるチートスキル。

ほんと……自害阻止、という名が真に適したスキルだな、と思う神宿なのであった。




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