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続く災難



その翌朝。

神宿の自室にて。


「と、とりあえず、な。泣くな。俺死んでないから」

「ひぐぅ、ぅぐ」


ベットで寝込んでいた神宿の目の前には、未だ大泣きするカルデラの姿があった。






どうやらあの後、意識が戻らなかった神宿をマーチェが自室へと運んでくれたらしい。


本当なら医者に連れて行こうとまで考えたみたいだが、一応様子見もかね、そう対応したと聞く。

確かに強引なやり方で魔法を解除したせいもあり、まだ頭がクラクラする。


(っー、これじゃあ今日は修行もろくに出来ないかもなぁ…)


無理をして魔法を酷使してはいけない、と教えもあり今日の修行を断念した神宿。

そのことについてはもう過ぎたことで仕方がないと、彼自身も割り切っていた。

だが、今はそれよりも、



「な、なぁ? もうそこまで気にしなくていいから、今度から気をつけてくれたらいいし」


どうしてこんな目にあった上、今も泣き続けるこのお嬢様を宥めなければいけないのか?

いや、そもそもの話、マーチェの姿が未だに見えない。


普通なら男の部屋にカルデラが入るのを制止するか、もしくは同行すると思っていたのだが、


(薬でも買いにいってくれてるのか?)


そんな事を思っていた、矢先のことだった。



「っ、それで、ですね。わ、私、トオルに何かできないかと思って」


軽い調子で相槌ばかりうっていたせいか、いつの間にかカルデラの話が要らん方向に進んでいた。


そして、彼女は涙をためた瞳で見つめながら、口を開いてーーー






「トオルの変わりに、わ、私、ご飯をーーーー






その直後。

痛む身体を無視して、神宿は直ぐ様その部屋から逃走しようとした。

だが、


「っ!? ちょ、何で開かないんだよっ!?」


閉ざされたドアがどれだけ力を込めても開かない。


昨日まで普通に開いていたはずなのに、と力一杯取っ手を引こうとする神宿。

すると、その時。



「トオル様、申し訳ありませんがお嬢様のお気持ちを無下にしないでください」



何故かここにいなかったマーチェの声が聞こえてきた。

しかも、それは開かないドアの向こうからであり、


「なっ、あ、アンタっ!! さては魔法で」

「お嬢様はトオル様のためを思って昨夜から朝にかけ料理を作られたのです。それはもう苦労の果てに出来た代物で」

「昨夜って、ば、馬鹿だろっ!! おまっ、普通の料理でそんな何十時間もかかるわけ無いだろっ!? ラーメンやの料理人じゃないんだからっ」

「いえいえ、お嬢様は料理の天才です。種類の違う食材を全て統一させて、なおかつその原型すらなくすほどの」

「言ってる意味わかって言ってんだろうなっ!? それ、要約すると原型ないんだろう、その料理!?」


マーチェの会話から、彼女の料理が悲惨的なものであることが十分に伝わった。


頭の痛さなどすっかり忘れるほどに顔を青くさせる神宿。



そんな時。

背後からーーー


「トオル…」

「ひっ!?」


ゆらゆら、と布で隠されたバスケットを手にカルデラが近づいてくる。

神宿は顔を引きつらせながら、大量の汗を流す。


「ち、ちょっと待て。な、なぁ、それさっきから思ってたんだけど、中に何入って」

「エビと果物とお肉と野菜とスープと石と木ノ実とキノコと魚と貝とモンスターと、それから」

「ま、マーチェさんっ!? 開けろ! 今すぐ開けろ!! 今料理に入っちゃいけないのが何個か入ってたーっ!!」


それはもう、悲惨な叫びだった。







バンバンバン!!! と叩かれるドアを背にマーチェは目に涙を浮かべつつ、


「トオル様、貴方のことは私は一生忘れません」


と、別れを告げるマーチェ。





そして、ドアの向こうでは、


「つべこべ、言わずに食べてくださいっ!!」

「ぶっゴッ!?」


と、声が聞こえたのちにーーーー



「トオル? トオルー?」

「……………………」



バタン!と倒れる一人の少年。

少女の悲鳴も聞こえたが、そんな状況でもマーチェはただただ手を合わせるしかできなかった。



そうして、口から泡を吹いて倒れた神宿は、そのまま数時間かけ生死の境を彷徨うはめに至るのであった。



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