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はめられた賢者

ちょっと話が長い最新話です!




その暗闇の室内に集められたのは、世界の各地に散らばる大賢者と呼ばれる者たち。


だが、そんな彼ら全員が一同に集まったことなど今まで一度としてなかった。





つまりは、この場で話される事はそれほどに重要な事柄なのである、と誰もがその事を重々に理解していた。




「ふわ〜」


ただ一人。

大賢者である、アーチェを残して。


「………」


その気の抜けたような欠伸に対し、その場の空気を冷たくなっていく。

まるで、場をわきまえろ、と言われているかのような視線さえ向けられていた。



しかし、そんな視線に対しても、アーチェは全く動じる様子を見せない。

それもそのはず、例えこの場の数人が怒りに身を任せて襲ってきたとしても。


ーーーー彼女にとっては、さしたる事ではないのだ。




何故なら、その状況を簡単に踏み潰せるほどの実力を彼女は有していたからだ。





と、そんな中。



「全く、相変わらず呑気なものね? 貴方は」



闇の中から一人、暗闇で顔までは見えないがその容姿、顔立ちから女性だろうと思わしき魔法使いが声をかける。


彼女の名前は、バルティナ。

その博学とした知識から何百人もの弟子を持ち、また貴族から王族との繋がりもあると噂される大賢者のうちの一人だ。



「んー? そんなことないですよー?私だって学園長から直々に頼まれて、急いで来たんですからー?」

「それは、貴方が所在をこちらに明かさないからでしょ? だから仕方なくあの老いぼれに仲介に入ってもらったんだから」

「はいはい、わかってますよー? でも、そうは言ってもこっちにも色々とあるんですよー?」


そう言って、のほほんとした笑みを浮かばせるアーチェ。


「ッ!」


その全くとして眼中にないといった態度に苛立ちを見せるバルティナは、その場から立ち上がり非難の声を上げようとした。


だが、その時。






「なるほど。その忙しいこととはーーーー貴方が最近、新しく弟子にしたあの少年のことですか?」





その言葉を、アーチェと向かい合う形で席に座っていた細身の男性が口にした。

弟子? とその言葉に眉間をしかめるバルティナ。

だが、その直後にーーー





「「「!?」」」




その場一体に突如としてドス黒い殺気が重圧と共に、その場にいた賢者全員にのしつけられる。

そして、それを行なった者であるーー





「バルン? どうして私が弟子を取ったってこと、知ってるの?」




根絶の魔女。

アーチェは紅の瞳を見開き、まるで別人かのような冷徹な眼差しで目の前の男を睨んでいた。


もし気に入らないことを一つでも吐くならば、その瞬間に殺す。


そう語っているかのような、殺気を彼女はその場全員に対して放っていた。




しかし、そんな殺気の中であろうと笑みを崩さないバルンは頭を下げながら口を動かし続ける。


「そう怒らないでください、根絶の魔女よ。別に貴方のことを四六時中偵察していたわけではないんですから」

「…………」

「ただ貴方が学園に来た時、一人の少年を後ろに連れていた、という情報を小耳挟んだもので、ちょっとカマをかけてみただけなんですよ」


だから許してください、ね? と嘘臭い笑みを浮かべるバルン。


策略家にして貴族出身の大賢者のうちの一人、バルン。

不気味な笑みに加えて色々な情報を提示しながら敵味方を手駒として操ろうとする。

その腹の底が見えないのが、この男の嫌なところだった。


「…………」


アーチェは瞳を細めつつ見定めるように彼の顔を睨んでいたが、しばらくして瞳をふせ大きく息を吐く。

そして、同時にその場に漂っていた殺気も消失した中で、





「そろそろ、腹の探り合いは終わったか?」





代表らしき、老人の大賢者がその言葉を口した。


「………」


誰も返事を返さないことから了解を得たと判断した老人はようやく事の本題を話し始めていく。




「最近、魔族の進行が活発になった。各々人々を守るために力を振るってくれているだろうが、それでも進行は一向に止まる気配はない」


魔族。

この世界における人間たちの敵に等しい存在だ。

彼らは日々、村や人などを襲い至福を肥やしている。賢者たちもそんな彼らを滅するべく奮闘しているが、未だ激減していないのが現状でもあった。



「だが、そんな我々を神は見捨ててはいなかった」


神。その言葉に皆の視線が集まる中で、老人は言う。




「勇者を送り込んだ、と神からお告げが来たのだ」







かつて、この世界にも勇者がいた。

それは数百年も前に遡る、過去にいた人物だ。

そして、その者が成した偉業は、書の記録として今もなお残されていた。



神のお告げを聞き、この世界に舞い降りた救世主。

その者は魔族を斬り伏せ、世界に平穏をもたらした、と。




「勇者、ですか」


バルンはその言葉に対し、笑みを浮かばせている。

他の賢者たちもまたその言葉に各々と反応をしめしていた。


「ああ。さらに言えば、神は勇者を二人、召喚したと言われておられた」

「二人!? それはどういう」

「世界の安定に繋げる為、と神は言っておられた。ーーーーーそして、我々はすでにその者のうちの一人を手に入れている」

「!?」


思いもよらぬ言葉に場が騒然とする。

だが、そんな最中に一人。


賢者バルティナがアーチェに対し、勝ち誇った笑みを浮かべながら立ち上がったのだ。

そして、彼女は言う。


「はい。すでにその者は私の弟子としてお側につかせております」

「な、それは本当か、バルティナ!」

「ええ。その者の名は『シクザカ』彼は転生者だと言っておりました」


転生者。

その言葉を理解する者は数少なく、現にここに集まる大賢者の大半はそれを知らない様子だった。


ただ、二人。


「…………」

「…………」


互いに無言を突き通す、バルンとアーチェを残してーーー。






「そして、バルティナよ。その勇者候補は今どこにいる?」

「はい、今彼には修行もかね、魔法学園に在籍させていただいております」

「うむ、そうか。確かにあそこなら、魔法においての戦い方など、色々な経験を育めるだろからな」


老人とバルティナ。

二人が会話を続ける中、周りの者たちはそんな彼女に羨ましげな視線を向けている。


「では、このままお主に勇者育成を継続してもらうが大丈夫だな?」

「はい。勇者として、立派に育ててます」


うむ、と答えた老人に対し、バルティナは満足げに席に着いた。

そして、数秒と静寂が漂う中、


「ーーーーして、そういうわけあって勇者候補の一人は既に確保したのだが。今回皆を呼んだのにはもう一つ理由がある」

「理由?」

「ああ。色々と手は尽くしているのだが、それでも以前として後一人が一向に見つからんのだ」


勇者の片割れ。

同じ転生者であろう者の所在が未だつかめていない、という。


「なるほど、つまりは僕たちに後一人の勇者候補を見つけろって事を言いたいのですね?」

「ああ、そうだ。そして、見つけたものからその者を弟子におき、育てる権利を与えようと思う」


老人が出した提案はまさに、皆が喉から手が出るほどに欲しているものだった。

既に一人はバルティナに取られていたが、後一人が残っている。


誰が先に手に入れるか。


その場にいた賢者たちの目に互いに敵対心が生まれる。





だが、そんな時。



「もう、話は終わったー?」



トン、と音を立て。

アーチェが皆にそう尋ねる。


「終わったのなら、私はそろそろ帰りたいんですけど、大丈夫ですよねー?」


そして、そのまま踵を返してその場を去っていこうとするアーチェ。

しかし、


「いや、お前は残れ。アーチェよ」


老人がそんな彼女を止めた。


「なんでですかー?」

「お前にはやってもらわなくてはならないことがある」

「他の賢者の人がいるじゃないですかー? 別に私じゃなくても」


そう平静を装いながら、言葉を続けるアーチェ。

だが、そんな彼女に老人は笑みを浮かべながら言った。





「どうした、アーチェよ。今日はやけに喋るじゃないか? そんなに帰らなくてはならない案件でもできたのか?」




まるで、何もかも見透かしたよう視線を向けながら老人はその一言でアーチェの逃げ場を消したのだ。


「っ……!?」


そして、その時。

アーチェは気づいてしまった。



賢者たちが呼び出されたこの場所は、単に勇者を探せ、といった話し合いをするために作られた空間では無かったことに。



そうーーーここは一瞬の尋問部屋だったのだ。



この場で話した勇者の話題。

それにいち早く反応するものは誰なのか?


老人がその者を炙り出すために、この場所を設けたのだ。




「どうした、アーチェよ?」

「っ、何でもないですよー?」


老人の策略にまんまとのせられたアーチェはそう言いつつ冷や汗を流す。

だが、既に動き出してしまった流れを止めることは出来ず、


「用件の方はいいのか? 帰りたかったのだろう?」

「っ、今思えば、後回しにしても問題はなかったかなー?」

「そうか。なら、後で私の所まで来い。お前と二人で少し話がある」


そう言って口を閉じ、まるで幽霊のように姿を消した老人。

そして、皆の視線が集中する中、その場に残されたアーチェは、手を握り締めながら、



(あの、クソジジィーーっ!!!)



煮え繰り返るほどに、怒りの感情を燃え上がらせるのだった。




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