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オンボロ学生寮と料理



翌日の放課後。

神宿の目の前には、


「どうしたんですか?」


背中に大きな袋を担いだカルデラの姿がある。

それはもう、ただ友達の家に行くといった格好ではなく、


「えーっと、な、なぁ。もしかして、泊まるつもりなのか?」

「はい、そうですけど?」

「っ、話が違うだろっ!? え、昨日、泊まるなんて一言も言ってなかったよなっ!? 」


清楚な印象はどこにいったのやら。

このお転婆貴族に神宿は顔を引きつらせ、隣に同行していた、れっきとした大人でもあるマーチェにも異論を唱えた。


「なぁ、このジャジャ馬どうにかしてくれよ! 普通に考えて男の住まいに即乱入してくるって、色々問題がありすぎるだろ!?」

「ええ、わかってます。本来ならこんな事、お父上様に知られれば大変な事になってしまわれますので」

「だろ!?」

「はいーーーーーートオル様が」

「ーーーえ?」


その言葉に、固まる神宿。


「お嬢様のお父上は、いわゆる剣豪と呼ばれていた方でしてそれはもうお嬢様を大切にされている方なのです」

「……で?」

「例え、少しでも男が近づくものなら暗殺者を仕向けるほどのーー









直後。

マーチェが説明している最中で神宿はその場を脱兎のごとく走り逃げようとした。




だが、逃亡を予期していたのか、そんな彼の襟首をカルデラはしっかりと拘束していたのであった。


「大丈夫ですよ? お父上はそんな野蛮な事しないので」

「説得力ないんだよ!? お前のそれ、野蛮通り越して、暴君だからな!?」


とにかくこのまま帰れー!! と叫ぶ神宿をよそに、カルデラはマーチェを引き連れ彼を引きずる形で歩いていく。


目的地はーーー神宿が住まうオンボロの学生寮!







「ーーこれはまた凄いですね」

「ーーそうですね」


数分して、ついた先でカルデラとマーチェは共にそう呟いた。

何故なら目の前には、オンボロとかした学生寮の姿があったからだ。


「なら帰れ、今すぐに」


若干拗ねつつ、そう声を出す神宿。

だが、それで帰るわけもなくカルデラとマーチェは共に寮の中へと入っていくのだった。

そしてーーーー







「これはズルすぎます!!」


入って早々、カルデラが神宿を非難する。


何故なら、寮の中に入った途端。そこにはまるで新築のような内装をした光景が広がっていたからである。


「なるほど、外見はいわゆる幻覚の魔法を使用されているわけですね」

「こんな色々な設備が整ってて、しかもそれを独り占めにしてるなんて! トオルはお師匠さんに甘やかされすぎてます!!」

「知るか。そもそも、俺は最初から学園に入るつもりもなかったんだよ」


手荷物など、テーブルの上に置いた神宿は大きな溜息を漏らしつつ、目の前の席に座るカルデラとマーチェにもう一度尋ねる。


「それで? 本当にここに泊まるつもりなのか?」

「はい!幸い明日は学園の授業も休みですので」

「ああ。そうだったな。……それで、アンタもなんだよな?」

「ええ。一応は見張りも兼ねて泊まらせていただきたくおつもりです」

「………はぁーーー」


もう何を言っても帰らないのだろう。

神宿は頭をかきながら立ち上がり、そのまま無言でキッチンへと歩いていく。

そして、


「じゃあ、俺は自分の飯作ってるから。そっちはそっちで勝手に過ごしててくれ」


そう言って神宿は料理を作り始めた。


親切なものなら、一緒にご飯でもどうだ? と声をかけるのかもしれない。

だが、勝手に上がり込んできた奴らに料理を振る舞うつもりはない。


ちゃっちゃといつも通り夕食を済ませて修行に入ろう、と神宿は手先を動かし料理を作っていくのだが、



「「……………」」

「なぁ、凄く邪魔なんだけど」


神宿の背後にて、カルデラとマーチェは物珍しそうに調理の様子を見続けていた。


「いえ、私も色々と料理をするものなのですが……その、今まで見たことのない料理方法をトオル様がされていましたので」

「そ、そうですね! わ、私もそこそこ、料理をやりますがっ、め、珍しく思いまして」


マーチェは飲食店を営んでいるから、その言い分はわかる。

だが、カルデラの言動からは師匠であるアーチェと同類の匂いがした。


「なぁ、マーチェさん。もしかして、カルデラって」

「……はい、それはもう」

「ちょっ、マーチェ!? 言わなくていいんですよっ!?」


何だろう…この世界や魔法使いは皆んな料理が壊滅的なのか? と思いつつ、神宿は手先を動かし料理を作っていく。



今日の夕飯は肉の炒め物と溶いた卵を流し込んだトロミ入りのスープ。



お肉の焼ける音やスープの良い匂い、がキッチンに充満するように漂い、空きっ腹にもそれは影響していく。

そうして料理が完成へと近づき、そろそろ出来るか、と神宿は火を弱めつつ、




「えーっと、皿はって、うわッ!?」




そう言って後ろに振り返った所で、神宿は驚きの声を上げてしまった。

何故かといえば、


「〜〜〜っ!」


腹の音を鳴かせながら、涙目で物欲しそうに料理を見つめるカルデラの顔が間近にあったからだ。

隣では苦笑いを浮かべるマーチェの姿もあったが、


「っ、お前な」


邪魔だ、と神宿は続けてそう言いそうになった。


しかし、その言葉を予期してか更に涙を溜めるカルデラに対し、彼は言葉をなくしてーーー







「もうわかったよ! お前らのも作るから、大人しく席で待ってろ!!」





こうして、三人分の料理を作らされる羽目になる神宿なのだった。



「これ美味しいですね!」

「おー、そりゃあよかったな」


後、出来た料理は高評価だった。


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