オリジナルの秘密
ね、寝待ちしてました……。
「全部オリジナルって、どう言う事だよ…っ?」
神宿は、その言葉に戸惑いを隠せずにいた。
別に彼女の発言自体、全部が嘘だとは思っていない。だが、かといってそれら全部を鵜呑みに出来るほどに、彼の心は素直ではなかった。
えーと、と声を上げるカルデラはそんな神宿に一つの質問を投げかける。
「トオルはそもそも魔法とは誰が生み出したものだと思っていますか?」
「え? …そ、それは…か、神様とか」
「確かに、それが皆が知る一般的な答えだと思います。それじゃあ次に聞きますけど、オリジナルの魔法に関して、それもまた神様が作り出すんですか?」
「……いや、それは」
「違いますよね? 魔法使いが自身の持てる知識を注ぎ込み、そうして出来たものがオリジナルの魔法なんですから」
「……」
「今、私が言っている事は、はたから見ればただのこじつけにしか聞こえないかもしれません。でも、ファイアやウォーター、ウィンドもまた然りで、それらの構造、作成方法などといった記述は書物としてしっかりと大昔から残されているんです」
カルデラが今、そう語るように古の魔法使いたちはかつてオリジナルの魔法として初期段階であるファイアやウォーター、ウィンドやグラウンドなどといった魔法を生み出した。
そして、それらの知識を容易て彼らは更に新たな魔法を作り出してきたのである。
それは古代から近代に渡り研鑽され、脈々と言い伝えられ繋ぐようにーーー?
「だから、元を見つめれば全ての魔法はオリジナルなんということになるのです。一応数年前にこの事は全地方の魔法使いたちに発表されはしたんですけど、未だ魔法は神聖的なものだと勘違いされている人たちも少なからずはいるんですけどね」
「…………」
カルデラの話を聞く中で神宿は以前、師匠から教えてもらった事を思い出していた。
オリジナルの魔法を作り出すのは、神でもなく、ましてや悪魔でもない。
一人の魔法使いが生み出すものである。
そう、アーチェは口にしていた。
神宿にとって、その言葉は単にオリジナルに限っただけの話であり、この世界にある全ての魔法に共通するなんて、考えたことすらなかったのである。
だが、そのことを踏まえても、
(でも、それじゃあ…)
カルデラのおかげもあり、神宿が特別視していたオリジナルは一般のものと再認識された。
しかし、それでもまだ一番に解けていない疑問が残されていた。
それは、
「……それじゃあ、何でオリジナルの魔法は作るのがあんなに難しいのに、使うのは簡単にできるんだ?」
え? と一瞬キョトンとした表情を浮かべるカルデラはしばし顎に手を当てながら、
「………うーん、それについては」
「ついては?」
ーーーーーーーー彼女は、
「べ、勉強中です」
ーーーと、即座に顔を逸らしてそう言うのだった。
「おい」
「だって! 私もまだトオルと同じ学生の身なんですよ!? それこそ賢者さん、トオルのお師匠さんに聞いてくださいよ!!」
「無茶言うなよ!? 今アイツどこいるかもわからないのに、聞きに行けるわけないだろっ!?」
どうやら彼女が知っているのはそこまでらしく、さすがにその奥底にある謎までは無知だったようだ。
(まぁ、確かに俺と同じ学園の生徒だしな。何でも知ってるだろ、って聞くのは流石に野暮か)
正直な感想でいえば、オリジナルの魔法を作るために、もう少し情報が欲しかった神宿。
とはいえ、これ以上彼女に無理に頼み込むわけにはいかない。
「はぁー、まぁ仕方がないか」
「…………」
やはり自主的に動くしかない。
学園の書物などを漁りまくって色々な情報をかき集めてみるか、と神宿がそんな事を考えていた。
その時だった。
「ーーーーところで、トオル」
「ん?」
「さっきから口にしているオリジナルの魔法の事についてなんですけど」
首を傾げる神宿に対し。
カルデラは、ニッコリと笑いながら言った。
「トオル、もしかしてオリジナルの魔法とか今作ってたりするんですか?」
ーーーーーーーーその瞬間。
血の気が引いたように、神宿の顔が青白くなった。
「い、いや……ってか何言って」
「だってさっき言ってたじゃないですか? あんなに作るのが難しいのにって」
「っ、それはーーーあ、あれだよ! ほら、師匠から色々とオリジナルの魔法の事について聞いてたから」
「へぇー。お師匠さんから教えてもらったレイズヒールがオリジナルの魔法だったって事自体、知らなかったくせにですか?」
「ぐっ」
「そもそも、魔法の全部がオリジナルだったってことも私が説明したら凄く驚いてましたし」
「うっ」
「第一、オリジナルの魔法を作るのが難しいなんてーーー私、今初めて知ったんですけど?」
段々詰め寄る形で逃げ道を塞いでくるカルデラに、神宿は汗をダラダラかきつつ前を見ないように顔を逸らす。
カルデラはそんな彼の様子を覗き込みながら、口元がニヤリと緩め、
「まぁ、話したくないと言うのなら結構です」
「っ、ほ」
「ただし」
「!?」
その言葉に怯えた目を向ける神宿に、カルデラは再び笑いながら、
「今度、トオルの寮に遊びに行かせてもらいますね?」
「いや、何でだよっ!?」
あまりの爆弾発言に、流石の神宿も声を上げた。
「だって、話してくれないんですよね? ならもう見に行くしかないじゃないですか?」
「いやいや! 見に行くしか、じゃねぇから!? 来るなよ!絶対に来るなよっ!!」
「えー、ダメですか?」
「ダ・メ・だっ!!」
ただでさえ貴族である彼女と一緒にいる事自体隠したい身であるというのに、
(一緒にいるところを見られたら、今度こそ完璧に悪目立ちするだろ!!)
これ以上ややこしくなるのは勘弁だ。
神宿は断固として彼女の提案を拒否する。
だがしかしーーーー
「なら仕方がないですね」
言葉巧みな戦法において、神宿はカルデラには勝てなかった。
「はぁ、わかってくれたんなら別にいいんだけど」
「それじゃあ明日、トオルのクラスに遊びにいかせていただきますので」
「お前、俺の話聞いてたっ!?」
「はい、聞いてましたよ? でもトオルは隠し事はするし、寮もダメと言いました。なら、もうトオルのクラスに乗り込むしかないじゃないですか?」
「……………」
「ちなみに隠れたとしても、私はトオルが帰ってくるまでずっとクラスで待っていますよ?」
そう言って何度も見せるその笑顔。
ーーーーまるで逃さないぞ、と言っているかのような顔だった。
神宿には、まるで何か恐ろしいものを見たかのように顔を引きつらせながら、同時に彼女の背後に立つマーチェに助け舟の視線を向けた。
だが、そこには既に、
『もう諦めてください』
と、そんなどこか遠くを見つめるような目をしたマーチェの姿があった。
そして、その目は物凄く疲れたよう目をしていた………。
………かくして、神宿はその次の日。
カルデラを自身が住まう寮へと案内する。そんな約束をとりつけられてしまうのであった。




