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師匠から弟子へ、そして、貴族は知ってしまった




貴族の少女、カルデラと別れた後。

古びた外見をした寮へと帰った神宿は自室で今、毎日の日課とも呼べる修行を一人行なっていた。


それは、


「ウォーター、ウィンド」


二つの魔法の同時発動。

手のひらにミニサイズのそれらを発現させ、形状を維持して永続させる修行方法だ。


始めの頃は師匠であるアーチェの見守る中でやっていた修行だったが、いつの頃からか、一人でやるようになっていた。

そして、気づけば数が一つ増え、二つの魔法を同時発動させる修行に移り変わっていたのだ。

とはいえ、


(やっぱり師匠みたいに四つの魔法を同時発動なんて、無理な話だよな。ってか今二つでやっとだし)


神宿はそっと息をつきつつ、魔法の維持を続け、かれこれ一時間が経過する。


「よし、準備体操は終わりっと」


そう言って神宿は二つの魔法を止め、大きく息を吐き出した。


二つの魔法の維持。

それは並大抵の修行ではないはずだ。

しかし、神宿にとってそれらの修行はただの前置き、準備体操でしかなかったのだ。





そして、今からやる修行こそ、師匠アーチェが約半年前から課している修行の一つ。




『魔法陣展開』



神宿がそう言葉を口にした直後。

彼の手前に光り輝く魔法陣が展開される。


「ふーっ……」


宙を浮きながら維持する魔法陣。

その陣の内側では、幾度となく念密に練られた魔力が循環している。

だが、その陣の形成自体が初期ステップの一つでしかない。



『魔力体形成開始』



その言葉と共に、魔法陣の手前に激しいスパークが鳴り響く。


同時に神宿の全身から尋常ならざる冷や汗が吹き出し、苦しい声が漏れる。

それほどに、この魔法には体力・魔力。そして精神力が必要となってくるものだった。



そして、スパーク音が鳴り続く中で、魔法陣の手前に小さな水晶体のようなものが形成されていく。

それは着実と増殖を繰り返し、ついにはそれは鍔や柄のない短刀の刀身が形成されようとしていた。




だが、


「っ!?」


次の瞬間、バリィン!!! という甲高い音と共にそれは粉々に砕け散ってしまう。

カケラも残さないほどに、完璧に消失してしまった。



「はぁ、はぁ、っーーーダメかぁ!!」



神宿は体を床に倒し、荒い息を吐きながら、また失敗してしまったことに悔しさを噛み締める。




この世界において、今まで見たことのない未知の魔法。


それもそのばす、何故ならこの魔法は誰も使ったことない神宿自身が考え生み出したオリジナル魔法の一つだったからだ。



『トオル君ー? 君には最終目標として、自分だけのオリジナル魔法を作ってもらいますー?』


師匠から課された最終目標。

それは、オリジナル魔法の獲得。


全ての魔法使いにおいても、困難極まりない修行の一つであり、また己自身で作り上げ思う通りに扱えなくてはならない魔法。

それが、オリジナル魔法の概念ともいえるものだった。



『オリジナルの魔法は、魔法使いにとっては自分自身に等しいものなんだよー? どんな状況でも、必ず助けてくれるもの……私はそれをトオル君に手に入れて欲しいんだー?』



アーチェは戦闘的な魔法を教えず、修行の大半を魔法の技術に注いだ。

それは、オリジナルの魔法を神宿自身が手に入れられるように……。



「本当に勝手だよな…何が手に入れて欲しいんだー? だ。全く」



そう呟く神宿だが、その言葉の裏には弟子を心配する彼女自身の気持ちが込められていることを、彼は知っていた。


そして、だからこそ神宿は諦めなかった。


師匠の思いを叶えるためにも、課されたそれを成し遂げようとしていた。






ーーーーーーとはいうものの。



「頑張ってみるか、って言ってるけど……これをすると。もうロクに魔法は使えないんだよなぁ」


オリジナル魔法の形成自体には、かなりの力を使う。

だからこの修行は一日一回が限度でもあり、


「あ、やばっ」


毎度のこと、失敗し終えた後は必ずといって気を失ってしまう神宿なのだった。













そして、ちょうどその頃。


貴族の少女、カルデラは女子寮の一室にて、


「ふぅーっ」


神宿から教えてもらった魔力維持の練習を自主的に行なっていた。

幸い彼女の部屋にはルームメイトとなる友人もいなく、また魔力維持だけなら音も出ないため周りに気づかれることもない。


つまりは、練習するにはもってこいの場所だった。




と、そんな時。


「ん?」


外が見える小窓から、コンコン、と音が聞こえてきた。

見ると、そこには小さな手紙が宙を浮きながら小窓を小突いているのが見える。

カルデラはそれをとくに警戒することなく窓を開けて、手紙を手にした。





というのも、この手紙自体とくに怪しいというものではないからだ。


何故なら、この手紙を送り主は、彼女にとって親しい間柄でもあり、またつい数時間前の放課後に会った飲食店の店主ことマーチェからによるものだったからだ。


そして、その手紙には音声でのやり取りするための魔法陣が書き記されている。



『お嬢様、定時連絡のお時間だと思い手紙を送らせていただいたのですが、大丈夫でしたか?』

「ええ、大丈夫です」


それでは定期連絡をやってしまいましょうか、と言いつつカルデラは手紙に対して向話を始める。


今日あった出来事や学園でのこと、大まかな情報を言葉で行きゆきさせる。


そして、ついに最後の連絡を終え、やっと話を終わったと思った、そんな時だった。



『そう言えばお嬢様』

「ん?どうしたんですか?」

『あの少年から教えを請うていた魔法のことなのですが』


どうやら、あの時の会話が聞いていたらしい。


「ああ、あの魔法ですね。あれはヒールの上位にあたる」

『失礼ながらお嬢様』


と、カルデラが話しているのを遮り、マーチェは言葉を続ける。

その内容はというと、





『ヒールの上位版はハイヒールというものです』



え…? とその言葉に固まるカルデラ。

そんな彼女にマーチェはさらに続けて言葉を繋ぐ。


『レイズヒールなどという魔法は私でも初耳だったものでして』

「ちょ、ちょっと待って!? え、どういうこと? それってトオルが私を騙して」

『いえ、彼自身そんな気はなかったのだと思います。おそらくは、間違って教えられていたのだと』

「ん? マーチェ、よく分からないのですけど……つまり、貴方は一体何を言いたいのですか?」


神宿の行いを卑下しているわけでもなく、また誤った魔法をやめさせようしているわけでもない。

真意が分からず、そう言葉を尋ねてしまったカルデラ。


そんな彼女に対しーーーーーマーチェは慎重めいた声色で、こう言ったのだ。






『その、あの少年がお嬢様に教えていたものは…』

「ものは?」

『ーーーーーーオリジナルの魔法という事になります』





一瞬、その場に静寂が落ち、互いに固まるカルデラとマーチェ。

そして、



「えええええーーーーーーっ!?」


カルデラの悲鳴にも似た驚きの声が女子寮に響き渡る事になるのだった。



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