◆聖音
聖女に危害を加えようとした罪人、神宿透を捕らえるべく全兵士たちが学園内を慌しい駆け回る。
そんな中で、
「…………」
「…………」
カルデラとカフォンの二人は今、もう一人の聖女であるミーティナに連れられ人気のない小部屋へと訪れていた。
その部屋は窓がない、密室の空間。
ただ室内の中央には円形のテーブルが一つと、三人が座れるだけの人数分のイスが置かれている。
ミーティナは足を動かしそのイスの一つに座った。
そして、視線を上げ、その場で立ち尽くすだけの彼女たち二人を見据えながら、
「そろそろ喋ってもらっても大丈夫ですよ?」
ーーそう、カルデラたちにその『言葉』を伝えたのだ。
すると、次の瞬間。
「「!?」」
今まで一言も喋れず、また思うように動けなかった二人の体がその『言葉』一つによって縛りが解け動くようなった。
それは、まるで目には見えない枷から開放されたかのようだった。
「「ッ!」」
カフォンとカルデラが直ぐさま臨戦体制の構えで警戒を露わにさせる。
だが、そんな二人の姿勢に対して全くその場を動こうとしないミーティナは、一人面白そうに口元を緩ませていた。
それは余裕の表れなのか、カフォンが先に動こうとする。
だが、それを空いた手で制したカルデラは眉間を顰めながら慎重に自身の考えを纏めた。
そして、聖女ミーティナに視線を向けながら、
「……私たちに、一体何をしたんですか?」
今起き事に対しての疑問を投げかけたのだ。
ーーーあの時、神宿が終われる身となり心の中は動揺で一杯だった。
また、そのせいで警戒が緩んでいたことも認めざる得ない。
だがしかし、それを差し引いたとしても、
(癒しの力を持つ聖女がこんな力を持ってるなんて、聞いた事がない……っ)
聖女は全ての者を癒し、そして、魔を滅する力を持つ。
それが彼女たちが知る聖女の力。
そのはずだった。
「………」
謎は解けない。
だが、先のソレを使われ自身たちが始末をされられていない事から、何かしらの目的があるのだろう。
と、カルデラは考えたのである。
だからカフォンの動きを止め、話し合いの体制を持ちかけた。
だが、もちろんいつでも動けるよう、服に収めた自身武器を意識はしていた。
そして、沈黙がその場に落ちる中。
ミーティナは瞳を伏せながら、小さく息を吐き、
「……今から話す事は、どうか他言無用でお願いします」
そう言って、カルデラたちに自身が掛けた『言葉』の力、
「私が先程まで……貴女たちに掛けていたのは聖女のみが許された力……『聖音』という言葉の力なのです」
その正体を明かした。
◆
構えを解き、カルデラとカフォンの二人は一先ずその場に置かれた椅子に腰掛けた。
そして、ミーティナが先に言った言葉について、考えていた。
というのも、
『聖音』
その言葉に聞いたカルデラは頭に『魔音』の言葉が先に浮かび上がったからだ。
「……それは魔音に似たようなものなんですか?」
「ええ。『魔音』『聖音』は元は四つある音の力、そのうちの一つだと古来から言われています。ただ…………この聖音に関してだけ言えば、聖女のみが使える、からこそその名が付いたとされていますね」
「…………」
「そして、その聖音の力には」
そう言って、ミーティナはカルデラとカフォンを見据え、
「『聖女を崇拝する者たちだけの行動を支配する』というものがあるです」
「「っ!?」」
「とはいえ、貴女たちはそこまで私たち聖女を崇拝していなかったみたいでしたので、今回は自分の意識を保っていられたのでしょう」
小さく笑いながら、今まで秘密にしてきた聖女の力の一つを暴露するミーティナ。
本来ならこの事は誰にも話さず、己の身にだけに留めておく。
そのつもりだったのだろう。
だが、
「……ねぇ、どうして私たちにそれを話そうと思ったの?」
カルデラの隣に座るカフォンはそう言って真剣な表情でミーティナを見つめる。
彼女自身、本当ならただ黙ってその場の話を聞いておくつもりだった。
だが、ことの内容を聞いた今だからこそ、聖女ミーティナの言葉に疑問を抱いたのだ。
それは、先を見通しているかのような瞳を持つ彼女にだからこそ思ったことであり、
「貴女なら、私たちに対して答えをはぐらかす事ぐらい簡単にできたはずでしょ? それなのに、なんで」
「……貴女たちにはどうしても協力いただきたいから、それでは答えになりませんか?」
「え?」
その言葉にカフォンだけでなく、カルデラからもまた疑問の声が漏れた。
だが、ミーティナはその事に反応することはせず自身の手を組みながら、ゆっくりとした口調で言葉を続け、
「今話した通り聖音の力は、聖女なら誰もが使える。そういう力なのです」
「え、いやだから……それはさっき、聞い」
「私はもちろん、もう一人の聖女。ーーーーミカナもまた使える。そういえば、意味はわかりますか?」
「?」
カフォンが未だ理解できず怪訝な表情を浮かべる。
だが、その言葉の意味に先に気づいたカルデラは、
「ま、まさか……」
「はい。……貴女たちの友人が今、聖女に手をかけたとされ、この学園にいる全ての兵士追われている。それは本来なら当たり前の事です。ーーーーしかし、それでも連絡の流れや兵士の動き、それらがいくらなんでも早すぎると私は感じたのです」
「えっ、それじゃあ」
「……おそらくは、もう既に聖音は発動され、この学園にいる多くの者たちは支配されている事でしょう」
気づいた時には、既に手遅れだった。
聖音の上書き、そんな都合の良い融通など、この力には存在しない。
だからミーティナは危険を承知で、先に接触を図ったのだ。
それは、この状況を打開できるかもしれない。
彼と親しき彼女たちに。
そして、
「数少ない協力者の中で、今の私には貴女方にしか頼れる者がいないのです」
「…………」
「私の行いが、身勝手なことである事はこちらも重々承知しています。ですがーーーー」
裏で手を引く者の魔の手から皆を、そして、彼と彼女を救うために。
ミーティナは二人に頭を下げながら、その願いを伝えた。
「どうかこの学園に立つ皆を救うために、お二人の力を貸してはいただけませんか?」




