◆追われ人
「おい、マジかよ」
「いや、だって……」
「でもアイツ」
学園に通う一生徒、神宿透が聖女であるミカナを襲った。
その偽りの事実が学園内に広がるまで、そう時間は掛からなかった。
彼の事を知る者たちからは戸惑いや疑いの声を漏れ、中にはそれが事実であると鵜呑みにする生徒の姿も少なからず出始めていた。
だが、そんな中で、
(トオル……っ!)
カフォンと合流したカルデラたちは今、学園の廊下を走りながら必死に神宿を捜索し続けていた。
もちろん、彼女たちの目的は彼を捕らえる事ではなかった。
何故なら、彼が聖女を襲った等という噂を彼女たちはこれっぽちも信じてはいなかったからだ。
(早く、トオルが捕まる前に会わないとっ!!)
色々な困惑が頭の中を渦巻く。だが、事の事情よりも先に神宿を見つける!!
カルデラたちは、その事だけを一に考え長い廊下の道を走り抜け、曲がり角に差し掛かろうとした。
ーーーーその時だった。
『少し、お待ちになってくださいますか?』
それは気配もなく、フッと突然にその声がカルデラたちの背後から囁かれた。
そして、その次の瞬間。
「「!?」」
二人の体は、その声に逆らえないかのように突然と動きを止め、その場で立ち止まってしまった。
(な、何……これっ……)
思うように体を動かせない事に困惑するカルデラとカフォン。
だが、そんな二人の間をすり抜けるように歩むソレはゆっくりとした動きで彼女たちの視界に姿を現す。
「っ!? あ、貴女は……」
視界に映ったその者の正体。
それは彼女たちだけではない、この世界において誰もが知っている、唯一無二の存在。
「私、少し貴女たちにお聞きしたいことがありますの? ーーーーなので、今から私のお部屋に来てくださらないかしら?」
この世界が生んだ存在。
もう一人の聖女ーーーーミーティナはそう言って口元を緩ませるのであった。
◆
「はぁ、はぁ、はぁ……」
学園の中庭。
あの場から脱出するべく咄嗟の判断で水蒸気の煙幕矢を撃つ出し、隙をついて逃げきった神宿は今、学園の側に生える林の影に身を隠しつつ息を潜めていた。
だが、そこは中庭から少し離れただけの場所であり、もう何回も警備隊が接近するような危険な位置でもあった。
しかし、不幸中の幸いか。
神宿は以前から密かに練習していた新しい手段により、事なきを得る事が出来ていたのだ。
(急だったけど……はぁ、何とか……なったな…っ)
それは神宿が今持つ最大限の戦闘態勢であるアーチャーウィンドに特性をつける技術。
そして、神宿が新たに備え付けたのは、インビジブル《透明》の特性だった。
(っても、このまま逃げてても拉致がいかねぇ)
目に見えない透明化をおかげもあり、発見には至らずにすんでいる。
だが、それだけで戦況は何一つ好転していないのも事実だ。
(どうにかして、ミカナを取り戻さねぇんと)
神宿は息を大きく吐きつつ、呼吸を整える。
そして、一度頭を冷静にさせつつ魔族に操られた聖女ミカナを救う策を深く練ろうとした。
だが、その時。
「ダーカー、ここらへんかな?」
その声と同時に神宿の全身が危険信号を発した、その次の瞬間。
「ッ!?」
一瞬の間も無くして襲いかかる黒い鉤爪を神宿は間一髪の差で横に跳び回避する。
地面を貫いた鉤爪は、その場に生えた茂みや木を吹き飛ばすほどの威力の持っていた。
神宿は歯を噛みしめつつも、倒れた体を直ぐ様起こし、矢を構えながら敵に視線を向ける。
だが、そこにいたのはーーーー、
「悪いね。これも一応、転生勇者としての定めでもあるからさ」
この現状において、最悪の遭遇だった。
その男はこの世界の住人でもなく、神宿と同じく日本からこの世界に転生して舞い降りた存在。
「大人しく捕まってくれないかな? トオルくん」
「……シグサカ」
もう一人の転生勇者。
シグサカが不敵な笑みを浮かべ、神宿と対峙するのであった。




