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auto skill up





誰にも打ち明けられなかった過去。

それは、偽りの聖女へと仕立て上げられた一人の少女の物語だった。



「………」


そして、真剣な表情を顔うつす神宿は、そんな悲劇に見舞われた少女、ミカナの口から語られたその真実を静かに聞き続けていた。






「……つまり、お前はその変な奴らに『聖女』だって仕立て上げられたってわけか」

「……はい」


ミカナの事情を聞き終え、そう確認を取った神宿は口元に手を置きながら考え込む。


話から察するに、ミカナを勧誘しにやってきた白いローブの男。

その男が明らかに黒に近いだろうという事は直ぐに理解できた。


だが。

その男が施した、周囲の者たちを操ったーーーーその方法がわからない。



(………って、いってもやっぱり考えられるのは幻惑系統の魔法…か…)



もちろん、何かしらの魔法では、という推測は簡単にできる。

例を挙げるなら、それは他者や自身にも変えけることのできる、マインドやチャームといった幻惑系統魔法などが挙げられる。


(…………けど)


だが、以前に師匠である賢者アーチェから教えてもらった幻惑系統の魔法には、ある程度の決まったリスクがあるということも、神宿は教えてもらっていた。


それは永続と一時的、それら二つによって異なる魔力量の消費。



『一時的』なものであった場合、リスクはある程度低いものに統一されているのだが、その一方で『永続』に至ってはその魔力消費が大幅に高くなる。




だから神宿は、それらの魔法を広範囲に向けて、永続して仕掛けることが果たして人間が持つ魔力量でできるのか? という疑問に考えを行き着かせていた。



(………………)


そして、簡易な答えの中で何かが抜けている。

と、そんな疑心を覚えた神宿は、ミカナに視線を向けながら続けて質問を投げかけた。


「お前が本心を喋ろうとしても周囲にはそれが全く伝わらない、その上お前自身にもまた発言に制限が掛かってる。それはそばに誰もいないお前が一人の時であっても発動する………それであってるんだよな?」

「は、はい……」


周囲や自身にも及ぶ呪い。

それがミカナにかけられているモノの効果なのだろう。

だから、彼女が助けを求めようとも周りに伝わることもなく、また本心も口にして言えない。


それが彼女におかれた現在の状況だと、神宿は再認識し、



「………じゃあ、やっぱり外部から発動してるわけじゃなく、お前を中心にその呪いは発動してるっていう解釈であってるんだよな。……けど、俺に関してだけはそれが効かない」

「あ、いえ…それなんですが」

「?」

「私にも、よく分からないんですが……ただ、貴方以外にもう一人。……ミーティナ様の近くにいる時だけ、周囲の人たちがおかしくなる事はなかったんです」

「あの聖女と…?」


神宿の脳裏に数分前、話しかけてきたもう一人の聖女。

ミーティナの顔が浮かび上がる。


「……はい。……だけど、それ以外の…他の皆を除いた私だけの呪いは解けないまま、結局本心を言葉にして出す事ができませんでした」

「……………」

「………だから、今も不思議で仕方がないです。……貴方の側いる時だけ、今のように私は何の縛りもなく話す事が出来ていることが…」



そう話し終え、顔を伏せるミカナ。

だが、その一方の神宿は驚いた様子で目を見開けながら、


(………俺以外にも、例外がいた?)


その発言から出た言葉に神宿は疑問の念を抱かせていた。



確かに、元いたゲームや本といった知識を持つ神宿が知る『聖女』であるのならその力で周囲に蔓延っていた呪いを浄化したという可能性はある。

だが、それなら周囲に含まれるミカナの呪いから解かれていなければおかしいのではないか? と神宿は考え、


(…………いや)


ーーーーーそこで、神宿の頭に嫌な推測がふと浮かび上がった。



「……?」




神宿の様子に対し、不安げに首を傾げるミカナ。

しかし、そんな彼女にまだ『この仮説』はいえない。

これを言ってしまえば余計に不安を強増させるだけだ、と神宿は思ったからだ。


(っ…)


だから神宿は一度浮かんだ疑問を頭の隅に置き、もう一つの疑問に思考を巡らした。


それは、ミーティナの例とは違う、神宿自身の例。

何故、ミカナの呪いが阻害することができたのか? ーーーーーその理由を容易に想像がついたのは、


(俺の中にある……自害阻止スキルと自然治癒スキル、それしかないよな)


女神によって与えられたスキル。

自害に含まれる要因、それら全てを阻害するべく与えられたスキルである。


ーーーーだが、



(でも、アレは俺個人にしか効かないスキルじゃなかったのか? それなのに、何で)



それらのスキルがこれまで他者に応用された事など神宿は一度だってみたことがなかった。

だからこそ、今回のようにミカナにもまたそのスキルの効力が及んでいることに驚きを隠せずにいた。

そして、



(………っ、やっぱり俺だけの知識じゃわからねぇ。師匠か、もしくはファーストにでも)



最終的に行き着く考えを、ミカナに話そうとした。

そんな時だった。




「ミカナ様、こちらにおられましたか」




小さな足音をたて、近づいてくる男がいた。

聖女の側近が着る白い衣服を着た、短髪をした長身の男。


「シンバ……」

「さぁ、皆が貴女の帰りを待っています。ご一緒に」


男、シンバは近くにいる神宿のことなど気にも留めることなく、そう言って笑いながらミカナに手を差しかける。

だが、


「待てよ」


そこで神宿はそんなシンバに対して、言葉を口にした。


「今、コイツは俺と話してるんだ。邪魔しないでくれ」



ーーーーーーーと、一瞬その場に沈黙が落ちる。

だが、シンバは表情を変えることなく笑顔を向けたまま口を開き、



「おやおや。貴方は先程選定の勇者にお負けになられた子供ではありませんか」

「…………」

「悪いですが、ミカナ様は貴方のような子供に付き合えるほどお暇ではありません」



そう言ってミカナに振り向きながら、


「そうでしょう、ミカナさ…」



そう、言葉をしようとした。

ーーーーーーーーだが、




「………いや」





そう。

その時、ミカナの口から言葉が漏れた。

そして、ミカナは怯えながらも強く視線をシンバに向けながら、


「私は今、彼と………トオル様と大事なお話をしているのです。だっ、だから、邪魔をしないでください!」

「ッ!?」


そう本心を口にしたのである。

その発言自体に初めて驚いた表情を見せるシンバ。

そして、その一方で同じように驚く神宿に対し、


「おま」

「ミカナです」

「え…」


ミカナはそう言って、弱々しい笑みをみせながら、


「私の事は、ミカナとお呼びください。トオル様」



彼女もまた初めて神宿の名を呼んだのである。

それは親密な仲になった、その証であるように。








しかし、その和らいだ空気は一瞬にして破壊される。

それは、側にいたシンバがさっきまでの笑みが嘘だったかのように険しい表情を浮かべさせ、


「ッ!! 何を勝手な! 早く来い!!」

「ッ!?」


強引にミカナの腕を掴み上げたのである。



「おい! いい加減にッ!!」



そして、神宿が止めに入るようにして、シンバの腕を掴んだ。















その時だった。







『敵勢反応ヲ確認ーーー『auto skill up(オートスキルアップ)』ヲ承諾シマス』





と。


「は…?」


その、次の瞬間。

神宿の周囲に突如と展開された魔法陣が形を変え、まるで死神がもつ鎌のような形状を作り出し、シンバに向けてその刃を振り放ったのである。


「ッ!?」


しかし、その直後にシンバと神宿との間に砂塵が舞い、その勢いに押されてか後方へと吹き飛ばされたシンバの体には刃は微かに掠れただけだった。


だが、



「トオル様…これは」

「……何だよ、これ」



神宿の周囲に今も展開される異様な形へと変貌した自害阻止スキル。

目の前の光景にミカナは驚きを隠せないでいたが、それ以上に神宿自身もまた初めて見たその異変に驚き隠せずにいた。


だが、砂塵の向こう側でシンバが動く音が聞こえ、神宿とミカナが視線を移した時、





「「っ!?」」




さっきまでの動揺など、塗り潰されるほどの驚愕が神宿たちに心を打ち付けた。

それは、次第に晴れていく砂塵の向こう側で、



「ッ、き、キサマ……その、力は……ッ!!」



人の背にはない黒い蝙蝠のような翼、さらには皮膚の色が黒へと変色し、その瞳は赤に染められている。

そして、怒りの形相を見せるその男の口から生えた牙を持つ異形。


目の前に立つ、シンバと思わしき存在に神宿自身は未だ遭遇したことがない。

だが、




「……ま、っ」




聖女とされ祭り上げられたミカナは違う。ミーティナと共に行動した中で彼女は一度だけ、ソレを目にしたことのあったのだ。


ーーーーそれは、人類の敵である存在。




「魔族…っ…」

「!?」




魔に仕えた人外の存在、魔族。

ーーーーーーそれが、シンバの正体だったのだ。




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