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幻想

新年明けましておめでとうございます!!


これまでこの作品を読んでくれている皆様に、本当に感謝しつつ、またこの一年更新を続けていきたいと思っております!


どうぞよろしくお願い致します!!



ーーーーーそれは、ミカナが選定の聖女に選ばれる以前の話である。








勇者の一向ともいえる、聖女という立ち位置。

そんな神々しものに寄り添えるほど、



「お父ーさん! またサボってる!」

「ははっ、悪い悪い」

「もぅ!」


ミカナはこれといって特別な立場の人間ではなかった。

どこにでもある街中の魔法道具を取り扱う装飾店。その店主の一人娘。

それがミカナだった。



だが、そんな彼女には一つの夢があった。


それは店主である父と同じ装飾技師になることだった。

だから、彼女は毎日のように店の手伝いをしながら父の隣に立ち技師になるべく勉強に励む、そんな幸せな生活を過ごしていた。








ーーーーーーーーそう、あの時が訪れるまでは、







「神のお告げにより、貴女様が聖女に選ばれました」

「……………えっ?」


それは少なからずも店が来店する客たちで賑わう昼の時間帯。


他の客たちが未だ店内に残る中、突然と店にやって来た白いローブに身を包んだ小太りの男がミカナの前に立ち、そう言葉を告げたのである。

そして、


「ぇ、な……何をいって」

「さぁさぁ、皆さまがお待ちです。さぁ、私と一緒にこちらへ」


訳もわからず困惑した声を出すミカナ。

小太りの男はそんな彼女の言葉すら聞かず、か弱いミカナの腕を掴みながら店の外へと連れ出そうとする。

だが、そこで、




「おい、テメェ!うちの娘をどこに連れていくつもりだっ!!」




扉の手前で、ミカナの父ーーログアがその道行を塞いだ。そして、自分の娘を連れて行こうとする男に対して怒気を込めた視線を向けたのだ。

ーーーーーだが、しかし。



「…全く、愚かなことを」

「あ?」



小太りの男がそう言って、手を前にかざし、



「聖女の道行を邪魔する者には、天罰が落ちるのだぞ」




そう言葉をついた。

ーーーーーその直後だった。








「っ!?!? がっ……は…っ」








目に見える何かの攻撃を喰らったわけではない。

ログアが胸を押さえて苦しみの声を上げると、そのまま床へと倒れ落ちた。


「っ!? お父さんっ!!」


ミカナは直様、男の手を振り払ってログアの元へと駆け寄る。

同時に店内にいた客たちも急いで彼の元へと駆け寄った。



「っ、ぁぁ……っ!?!」

「お父さん! ねぇ! しっかりしてっ、お父さんっ!!!」



ミカナが必死に叫ぶ。

だが、ログアからの返答はなく次第に顔色が青白くなっていくのがわかった。

更に加えて体が痙攣したかのようにピクピクと動き、早急な対応が必要であるとその場にいる誰が分かるほどに彼の症状は酷かった。



(どうしようっ、どうしよう、どうしようっ!!)



涙を溜め、混乱するミカナ。

震えるでログアの手を握りしめ、必死に声を叫びつづける。


そして、ミカナは大粒の涙を流し、



(誰かっ、誰でもいいから、お父さんをっ、お父さんを助けてっ!!!)



そう願うことしか出来なかった。






ーーーーーーーだが、その時だった。











「貴女が助けるのです」

「……ぇ」









ミカナの肩に、ローブの男の手が置かれた。

そして、男は彼女の耳元に顔を近づけ、囁くようにこう言ったのだ。



「天罰が下されたこの者を救うには、貴女の力がどうしても必要になる。そう……聖女の力が。だから、今こそ貴女がここで力を示すのです」



ーーーそれはまるで誘惑のような声だった。


「……っ、ヒ」


そして、ミカナは目を見開いたまま疑うことさえ出来ず、ただ男に言われるがままに父ログアの胸元に手をかざし、




『ヒール』




その魔法の言葉を口にした。

そのーーーー次の瞬間。





「「「!?!?」」」





部屋全体に眩い光が解き放たれ、客の誰もが目を瞑った。

それはミカナ自身もだ。

そして、しばらくして光が収まってきたーーーーーーその時。




「……ぅ、っ」

「!?」




ミカナの目の前で、完全に症状が治癒された父、ログアの姿がそこにはあった。

まるでさっきまでの出来事が嘘だったかのように、落ち着いた呼吸を取り戻して眠っている。


「ぉとうさん……」


ミカナは全身力が抜けたかのように手を床につけながら床に涙をこぼし、



(良かったっ、良かった、っ!!)


そして、ログアが生きていた事に安堵の声を漏らそうとした。

ーーーーーーーだが、





「ーーーーー……聖女だ」

「!?」






そこでミカナは周囲の異変に気がついた。


その声に顔を上げ、周囲を見渡した時。

ーーーーーーーーーーそこにいたのは、




「聖女さまだ!」

「この街に聖女が生まれたんだ」

「凄い! 凄すぎる!!」

「皆んなに知らせなくては!」

「そうだ、今から聖女様誕生の祭りをしよう!」

「ああ、そうだな!! 今日は祭りだ!!」

「聖女様誕生に拍手をしなくては!!」





さっきまで父ログアのことを気にかけてくれていた客たち。

そんな彼らがまるで何かに取り憑かれたかのように、焦点が定まってない瞳でミカナを見ていた。

そして、その声は次第に大きさを増し始め、




「「「聖女様誕生に万歳!!!」」」




ミカナを、いや聖女である事が全てかのように皆がそう口を揃えて叫び続けたのである。



「ま、まって! わたしは」



困惑した様子のミカナはすぐ様、違う、と叫ぼうとした。

しかし、そう言おうとした手前で、



「聖女なんかじゃッ        」



トン、という音と共に。

ミカナの意識は、そこで切断されたかのように意識を闇にへと落ちたのだった。












そして、次にミカナが目覚めた時。

ーーーーーそこは、見たことのない豪華な飾りが施された一室だった。


しかも、服も平民では到底着ることのない透き通った白いローブのような物にいつの間にか着替えさせられていた。



「っ、こ……ここは」



ミカナは揺れる視界の中、頭を押さえる。

が、そこで不意に意識が失われる前の出来事。


倒れた父、ログアの事を思い出したのである。



(っ、そうだ……お父さんっ!!)



ミカナは急ぎ閉められた扉に向かって走り出そうとした。

自分の身よりも先に、父の安否が気になって仕方がなかった。


だが、その先で、




「おや、お目覚めになられましたか。聖女様」



外側から先に開けられた扉。

そこにいたのは、あの時店にやってきた者。

そう、ローブを着た小太り男がミカナを見下ろすようにして立っていたのである。


「!?」

「お目覚めのところ申し訳ないのですが、皆が待っています。さぁ、こちらへ」


男は怒りの表情を露わにするミカナを気にすることなく、そう平然と言葉を吐く。

ミカナは歯を噛み締め、怒りのうちを叫びあげようとした。

だが、



「 っ!?」



ーーーーーーー声が出ない。

いや、それどころか、


「!?!?」


ーーーーーーー叩いてやろうと思っていた体が、動かせない。



動揺を露わにするミカナ。

だが、そんな彼女の様子に対してもローブの男は気にすることなく、




「さぁ、行きましょうか」




そう告げたのだ。

そして、



「…………はい」



それはまるで操り人形でもあるかのように口が勝手に動き、ミカナは意志とは無関係に彼女の体はローブの男の後に続き足を動かしていた。




(違う……わたしは、聖女なんかじゃ…)




そうして、男に連れられ、そこで自分を慕う者たちに会い、その上いつしか大々的に選定の聖女として祭り上げられ……。


そうして、ミカナは悟ったのだ。




ーーーーーそう、この場所に呼ばれた時点で、もう自由はないことに。









選定の聖女と呼ばれるようになって、かなりの時が経った。

だが、それまでの間。

ミカナは何もしなかったわけではない。


「はぁ、はぁ、はぁっ!」


他の者たちに、真実を告げようとした。

また、手紙に書き、助けを求めようとした。



だが、それら全てが制限され、動くことができなかった。




「はぁ、はぁ、っ!?」



だが、それでもある特定の日を除いた時だけは、それらの制限がなくなる日があった。

ミカナはその日を狙い、何度も逃げ出した。

しかし、



「こ、来ないで!! 来ないで!!!」



そんな彼女の跡をつけるように、宙を浮く謎の物体が現れ襲われた。

そして、何かしらの攻撃で気絶させられ、連れ戻された。




しかし、ミカナはそれでも諦めることなく逃げ続けた。


あの時…離れ離れになってしまった父に会いたい。


それが彼女の願いだったからだ。






ーーーーだが、そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、



「誰か!! 助けて!!」



ミカナには、もう一つの呪いが掛けられていた。

それは彼女を中心として半径数キロの範囲で効果が発動する、



『ミカナの言葉や行動、それらに他者が関与できない』



彼女に残された、最後の手段を奪う呪いだった。



ーーーー例え、ミカナが本当の言葉を発しても、誰も反応しない。


ーーーー例え、ミカナが何かから追われていたとしても、誰も助けない。





「っ、きゃつ!?」



そう、それはどこでもある街の中。

必死に謎の物体から追われ、叫び続けても助けてくれなかった、今のように。



「いや、来ないで…っ」




もう、帰りたい。

もう、あの場所に戻るのは嫌だっ!!


震える手を握りしめ、ミカナは涙を溜めた目を瞑りながら、




「いやぁあああああああああああああああああああああああああーっ!!」




悲痛な叫び声を上げた。



ーーーーその時だった。




助けはこない。

そんな幻想を吹き飛ばすように、一対の矢が謎の物体を破壊したのだ。



「…………」


信じられない光景に驚きの表情を見せるミカナは、誘導されるかのように視線を矢がやってきた方向にへと向ける。

そして、装飾技師として必要だった魔法を酷使して、ある高台の上を見た時。






「…………やっと見つけた。私の…勇者さま…」







アーチャーウィンドを構える神宿の姿を目視したのである。

それはまるで悪の魔の手から救いの手を差し伸べる存在。


ミカナにとっては、ただ一人の勇者のように見えたのだった。



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