秘密が一つバレてしまった
その頃。
訓練場から離れた神宿 透はというと治療室に向かってーーーーはいなかった。
というのも、スキルがバレる可能性もあって、行くに行けなかったのだ。
「いててっ、全く」
人の寄り付かないだろう階段裏にて、息をひそめる神宿は、微かな火傷が残るその腕を見つめながら溜息を吐く。
そして、同時に思った。
あの時は本当に上手くいったな、と。
カリオカの炎に対し、水の魔法を放った神宿。
炎に水、明らかに相性が悪いことは十分に理解していた。
それなのに、何故あんな魔法を放ったのか?
それには、ある一つの狙いがあったからだ。
それはワザと負けること。
ギャラリーたちの目の前で、軽い攻撃を受けて負けること。
それが、神宿の狙いだった。
そして、それを実行するために神宿はあえて相性の悪い水の魔法を選んだのだ。
(こういう細々としたところは、師匠から色々教えてもらったからな)
あの時、水の魔法が炎とぶつかった時。神宿の魔法押し負けるようにして四散した。
しかし、その内部では水の魔力が炎の魔力を抑え込む、いわゆる『威力半減』の現象が起きていたのだ。
(でも一か八かだったからな…)
後もう少し、カリオカの炎が強ければ水の魔法は蒸発して消えていたかもしれない。
だが、幸いにも炎の威力は思ったより弱かったため、結果として威力を吸い込んだ水は高熱となって四散した。
まぁ、当たる手前であのシグサカという少年が来てくれた事で、事なきを得たのだが…。
「って、それよりも先にこの怪我だよな」
神宿は怪我をした部位に手のひらをかざし、魔法を唱える。
『リアル・ヒール』
部位に対し、正確には火傷をした箇所を固定して急速に回復魔法が発動する。
他の魔法とは違う上位魔法。
これだけは師匠であるアーチェが念入りに教えてくれた数少ない魔法の一つだった。
『スキルに頼ってちゃ、ダメなんだよー?』
と、彼女は言ってはいたが…。
「よし、これで終わりっと」
ものの数秒で完治した腕を動かし、そう声をもらす神宿。
すると、その時だった。
「回復魔法…」
「え?」
その声に振り返ると、そこには一人の女子生徒の姿があった。
それも、つい数時間前にあった少女。
カルデラの姿だった。
決闘の後で、授業はきつかった。
眠たくなりながらも先生の話を聞く神宿は、後方から感じるカリオカの視線をあえて無視してその場を何とか凌いだ。
そして、その放課後。
「来ましたね?」
「……あ、ああ」
神宿は今、学園内にある小さな飲食店に訪れていた。
そして、その場所にはさっきあったばかりの少女。カルデラの姿がある。
何故、彼女とこうしてあっているのかというと、それにはある理由があったのだ。
遡ること数時間前。
階段裏で自身の魔法を見られてしまった神宿は今。少女、カルデラに問い詰められていた。
「今の回復魔法、それ上位のものですよね?」
「え…いや違うけど、ただのヒールじゃ」
「『リアル・ヒール』なんていう魔法、私は一度として見たことがないんですけど?」
「って、お前っ最初から見てただろっ!?」
と、声を荒げてしまった神宿。
だが、そこですぐに自分でボロを出してしまったことに神宿は気づいた。
だって、目の前でカルデラがクスっと笑っているのだから、
「た、頼む! このことは内緒にしててくれ!」
そう言って手を合わせて助けをこう神宿。
対するカルデラはというと、
「誰しも隠したいことは一つや二つあるものです」
「あ、それじゃあ」
「はい、私はいいですよ?」
ただし、とカルデラは言葉を続けながら、
「私にも、その魔法の使い方を教えてくだされば、ですが」
「…え」
そう言って、カルデラはニッコリと笑みを浮かべるのだった。
そして、入学当初に上位魔法が使えると知られてしまった神宿は、結果として少女、カルデラに回復魔法を教えなければならなくなってしまったのだった。




