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すれ違う思い






周囲にいた者たちがその場に散らばる中、神宿たちは共にその場を後にしようとした。

そんな時だった。




「少しお待ちくださいませんか?」




タン、といつ靴音を立て。



「アンタは…」




周囲がざわつく中で、一人無関係かのように表情を崩さない少女。

王族貴族第二令嬢こと聖女ミーティナが、未だ足下がふらつく神宿の目の前に立ち、ニッコリと口元を緩ませていた。











誰もいない一本道の通路。

そんな中で、向かい合うガルアとカフォン。

沈黙が静かに続く中、先に口を開いたのはカフォンだった。


「どうしてあんな事をしたの?」

「………何のことだ?」


声に怒りをにじませるカフォンに対し、一方のガルアは未だ平然とした様子で言葉を返す。



「とぼけないで! 勝敗なんてもうわかり切っていたはずなのに、どうしてトオルをあんな….……必要以上に痛めつけたのかって聞いてるのよ!」



それは先の戦闘。

仮初の選定戦で見せたガルアの戦い方。

それ自体にカフォンは怒りを抑えられずにいた。

何故なら、彼女にとっては、あの試合は単に弱い者をいたぶるようにしか見えなかったからだ。


ーーーだがしかし、対するガルアは、



「痛めつけるもなにも、まだ勝負はついていなかったからだ」

「なっ!?」

「………それに、お前の言葉は単に勝負がどうとかではなく、友を傷つけられたから怒っている。ただそれだろ?」



弱いものをいたぶる、その試合自体に怒りを覚えたのは確かだ。

だが、それ以上にトオルを傷つけたことに対しての怒りが強かった事は、拭えない事実でもあった。



「それともアレか? お前を助けたのがあの男だったからこそ、情が強く湧いたのか?」

「……………」



言葉を共に終え、互いに睨み合うガルアとカフォン。

共に一歩も退かない言い分に対して、決着が見えようとしない。



しかし、そんな中でガルアは息を吐き、言葉を吐く。



「確かに、両親を失い更には廃貴族まで落ちたお前を利用した悪態の糞どもについては私も既に耳にしている。そして、そんな奴らから、お前を助けたのがあの男だという事もだ」

「…………」

「だが、それは単に運が良かった、ただそれだけに過ぎない。先の戦いでそれは十分に理解できただろう? ………だからこそ理解できない。……何故、お前はそんな偶然で勝てたような男に固執する?」



もし仮に真に強い強者なら、先の選定戦で無様な戦いを見せなかっただろう。

そして、何よりあんな『皆を騙すような小細工』すら見せなかっただろう。



ーーーーだからこそ、ガルアは認められなかったのだ。

そんな男が目の前の彼女を、助け出せた事が……。








「……それでも、例え力が弱かったとしても」






だが、そんなガルアの言葉を受けてなお、赤ずきん姿のカフォンは小さく手を握りしめながら口を動かし、



「トオルは、私を助けてくれたのよ。……誰も助けてくれなかった中で、一人立ち向かいながら戦ってくれた………アイツはそういう奴なのよ」



彼に強く惹かれる、その思いのうちを語る。

それこそがカフォンにとっての、覆らない思いだった。



「…ッ」


そして、ガルア自身。

そう言葉を訴えるカフォンの表情に驚きを隠せずにいた。



ーーーー何故なら、今目の前にあるそれは、廃貴族として黒く塗りつぶされたような仮面のような顔ではない。


ーーーーそれは昔、何度もこの目で見た事がある、希望に満ち溢れた彼女の素顔、そのものだったからだ。



  




そして。

それがわかったからこそ、認められなかった。




ーーーーーそんなカフォンを助けたのが、あの男である事が。




「………単に偶然が重なっただけだろ」

「ぇ………」



殺せなかった感情を声にして漏らしたガルアは、歯を噛み締めそのまま振り返りながらその場を後にする。

そして、対するカフォンは困惑した様子でその言葉の意味を一人理解できずにいた。












聖女ミーティナに呼ばれた神宿は今、ミーティナと共に誰もいない個室の中、勧められた椅子に腰掛けていた。

そして、共に側にいたカルデラには席を外してもらうよう声掛けがされ、渋々分かれてもらったのだが、



「それで? どういうつもりなんだ? アンタは…」

「あらあら、もしかして怒ってますか?」



選定戦にまで話を持ち上げたのが彼女自身である事もあって、不満を顔に漏らす神宿。

だが一方のミーティナは平然とした様子で口元を緩ませていた。

そして、



「今回の件は本当にごめんなさい。……だけど、ああでもしないかぎり、誰も納得が出来なかったと思いましたので」

「……………」



ミーティナの言うように、確かに場において言葉だけでは収集はつけられなかったのかもしれない。

その上で、何より選定の勇者。

ガルアからは不満だけではない、何かに対する怒りのような感情を察することが出来た。




「そして、何より選定の勇者。………ガルアはプライドの塊のような男ですので、周りから固める形でことを収めるしか手はなかったのでしょう」



そうして結果。

まるで全てが彼女の手のうちにあるかのように、事は荒らたげられずに治められた。


王族貴族。

その第二令嬢こと聖女ミーティナによって。



「….…….ああ、そうだな」



そ未だ彼女に対して警戒を解かない神宿はそう返事を返した。

そして、何より早く神宿はこの場を後にしたかった。


これ以上、そこを見せない彼女に自身が勇者候補であることを見抜かれない為にも……、




「だけど、それでも一番に大きかったのはーーーーーー『貴方がわざと彼に負けてくれた』からですけどね」

「は?」





ーーーーーだが、その時。

聖女ミーティナの発した言葉に初めて異論の声を漏らした神宿。


対するミーティナは口元を緩ませながら、口を開かな続ける。



「あの選定戦において、何故あの時ガルアが貴方から距離を取ったのかわかりますか?」

「………」

「彼は、貴方に倒される、その未来を先読みしたから逃げたのですよ?」



ーーーー意味がわからない。

彼女の言葉に対して、全く理解のできない神宿は、



「…いや、倒されるって、逆の間違いだろ」



そう言葉を返してしまう。

だが、


「いいえ、それは違いませんよ。何故なら彼はあの時、貴方に畏怖を抱いていましたから。そして、何より『先読み』の力は獣人族たちだけが持つ、天性の能力でもありますから」


そう言って、神宿の言葉を不定するミーティナ。

その上で、彼女は続けて言葉を吐き、



「………ただ、それだと一つおかしい事があるのです」

「……おかしい、こと?」

「ええ、それは…………あの時の、貴方の反応です」

「!?」



今度は神宿に質問を投げかけてくる。



「あの時の貴方は、ガルアの行動に対して、心当たりがない、という反応でしたね」

「…………」

「最初は嘘をついている、と思いました。……だけど、それでは辻褄が合わない。だから私は一つの可能性を考えたのです」




そして、探りを入れてくる。





「貴方は、その力を隠し持っていたのではなく」





それは、誰も知らない。

たった一人を除いて、言葉にした事のない秘密ーーーー。





「その勝てる可能性ある力をーーーいえ、わざわざ未完に留めた魔法をすでに持ち合わせているのではないのですか?」





それを、聖女ミーティナは見抜こうとしていた。


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