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カフタ




ーーーそれは数年前。

ガルアはまだ選定の勇者として選ばられる前の事である。




「がっあ!?」

「立て、ガルア」




未だ気弱な面を残す少年、ガルアは今、彼の師である老人。

バフルタに修行をつけてもらっていた。


バフルタはかつて昔、何千もの魔族を一人で倒したという伝説を持つ老人だ。

今では隠居しつつ、我が弟子であるガルアを鍛えてはいるが、それでもその剣の腕には衰えは一切見られなかった。



「まだそう時間も経ってはいない。時間をも無駄にするな」

「っ、はぁはぁ、はい!!」



そして、今まさに、それを肯定するようにバフルタ自身がガルアの模擬戦相手となり、かれこれ一時間続けて修行が執り行われていた。


激しくも、何度も何度も木の刀身がぶつかり合う音が高く鳴り響く。

心労で既にクタクタとなっていたガルア。だが、それでもしがみつくかのように剣を振り続ける。


だが、その最中で、



「……ここまでだな」

「えっ」



バフルタは地面を蹴飛ばし、ガルアから距離を取った。

そして、強く、硬く、腰を落とし、剣の柄を握りしめ、技を出す構えを作った。




ーーーーーーその次の瞬間だった。







「!?!?!」







ガルアの全身が強張り、その直後に脳内にある光景が映し出された。



ーーーーそれは、剣を持ち駆け出したガルアに対し、バフルタが剣を一閃に振り抜いた次の瞬間。


ーーーーガルアの胴体が真っ二つに切り裂かれた、光景だった。







「はぁ、はぁは、はぁはぁはぁはぁはぁはぁっ!?!?!?」




ガルアは両膝をつき、戦意を喪失させてしまう。

全身から滝のような汗が吹き出し、未だ体の震えが止まらない。


ーーーそれは、側からみれば、あまりに情けない姿だったのかもしれない。





しかし、一方のバフルタは、




「ふん、ようやく出来る様になったか」




そう言って、構えを解きながら剣を納めてしまった。

そして、バフルタはゆっくりとした足取りでガルアに近づき、我が弟子に対して口を

開く。



「ーーーー戦意の喪失までは減点だが、お前は今。先の未来を見た。違うか?」

「っ、は、はい…」


体を切り裂かれる光景。

それが未だガルアの頭の中から離れない。

しかし、


「ふん、ならいい」

「えっ…」

「よく聞け、ガルア。今俺がお前に見せた構えは俺が持つ中でも最も強い技を放つ、その為の構えだった」

「!?」

「だが、お前はそれを攻める手前で、未来を見て察知した。ーーーーそれこそがお前が今、何よりも手に入れなくてはならなかった力だった」


バフルタはそう言って、そう言ってガルアの額に自身の人差し指を添える。



「それが、獣人だけが持つ力。『カフタ』だ。敵の心を揺さぶり、そして、その隙をつき、相手の力量を先読みする力。これを会得し、更に鍛えづつける事が出来るようになれば、お前は更なる高みへと登ることができるだろう」



相手の力量、いや未来を見る力『カフタ』

攻守においても、必ず必要になる力。



「そして、これだけ忘れるな。危機を見たなら退け、勝機を見たなら突き進め」




バフルタはそう言い終えた後、小さく口元を緩ませた。


そして、ガルアにとっては、それは師弟だけの関係とは思えない、優しげな笑みに見えた。












ガルアの一撃よって大きく倒れた神宿は歯を噛みしめながら立ち上がった。



「っ、この、野郎……」



一瞬、体を完全に切り裂かれたかと思った神宿だが、傷は浅く、衣服が少し切れているだけだった。

しかし、その事実こそがガルア自身、力を抑えている何よりの証拠でもあったのだ。



(……舐めてるのはお前だろうが、っていいたいけど……このままじゃやられる一方だな)



もし仮に手を抜き続けていたとして、ガルアがそれを許すとは到底思えない。

次こそ肉を断つ一撃を放ってくるかもしれない。

それも、目に見えない攻撃。

自害阻止スキルの適用に当たる攻撃でだ。



「くっ、そ……」


神宿は深く息を吐きながら、片手を地面へとかざし、




「……カスタムチェイン」



その次の瞬間。

神宿の手に風が吹き荒れ、それは彼自身の包み込みながら膨れ上がった。

ーーーーーそして、






「アーチャーウィンド」







その言葉と共に風が四散した中、全身に風の魔力を纏う神宿の姿がそこにはあたった。





左手に風だけで構成された大弓を持つその姿。

観客側に立つ彼を知らない貴族たちから驚きの声がたつ中、


「オリジナル……じゃないみたいね」


聖女ミーティナはその瞳を細め、アーチャウィンドの本質を見抜いていた。

一方、その隣で立つ選定の聖女、ミカナは自身の手を握り締めながら、


「……….…」


不安げな表情で、神宿たちの戦いを見つめていた。








神宿は緑色に染まった瞳を見開き、ガルアを見つめる。

だが、対するガルアは以前として動こうとしない。

先手を譲る、まるでそう言っているかのようだった。


(ッ……なら)


神宿は右手に魔法の矢を作り、その矢に特性を二つ備え付ける。

二つの爆発の特性を備えさせた一矢。




「ウォーター《ダブルボム》」




アーチャーウィンドによって強化させた速度+攻撃。

放たれた矢はガルアの懐目掛け、突き進もうとしていた。

しかし、



「ふん…」



キン!! という金属音が鳴った、直後。

矢はガルアに到達する手前で誤爆した。



「!?」

「……こんなものか?」



挑発めいた言葉を吐くガルア。

神宿は歯噛みしながら続けて矢を装填して、放つ。



「ウィンド《スクリューボム》」



回転と爆発。

先よりも更に速く突き進め一撃。

しかし、そもまた金属音と共に、一瞬にして四散してしまう。



(どうなって、やがる…っ)



ガルアが持つ武器は紅一色に染められた大剣のみ。

矢での攻撃する撃破しているのは、おそらくはあの武器で間違いない。


だがしかし、アーチャーウィンドからの攻撃に対して、ガルアがその剣を振り抜いた様子は未だ一回もないのだ。


(けど……)


矢は撃破する際、必ず鳴る金属音。

おそらく、そこにカラクリがある。

神宿は目を凝らし、思考しながら次の攻撃を構えようとした。


そんな時だった。




「貴様、まさか上位の魔法が使えないのか?」




ガルアから突然と投げ掛けられた言葉。

神宿は眉間にシワを寄せつつ、皮肉な笑み浮かべながら、


「…ああ、それがどうかしたのかよ」


そう言葉を口にした。


だが。

ーーーーーーーその発言は、失敗だった。







「ふん………つまりは、雑魚か」









ガルアが語った、次の瞬間。

ギン!!! という音と共に、神宿の体をはくの字に曲がって大きく吹き飛ばされた。



「ッか、はッ!?」

「その技術力だけは褒めてやる。だが、その他に対してはそこらにいる魔法使いとさほど変わらない、いや、それ以下だな」



そして、激痛で地面にのたまう神宿に対して、


「ほら、体に纏う魔力を強くしろ」


一瞬にして近づいたガルアは、そう言葉につき、




「さもないと、死ぬぞ」




その直後。

魔力を纏った片足で、神宿の腹を蹴り上げたのだ。


「かっ、がぁあっ!?」


寸前で、魔力を全身に回したおかげもあって即死には至らなかった。

だがしかし、それでもその蹴りの威力は強く、神宿の体内にある骨の数本から、不気味な音が鳴り響いた。





「「トオル!!」」




観客側から、そんな聞き慣れた声が聞こえてくる。

だが、それが誰の声かも分からずして、神宿は宙を舞いながら地面に落ち、口から血が吐き出された。


それはまさに、はっきりとした決着。

誰もが神宿に勝機がないことを理解させるような光景だった。



「上位の魔法が使えない、その理由なぞは知らん。だが、それを踏まえたとしても、貴様の力は俺には全く及ばない。選定の聖女の目は節穴もいいところだな」



ガルアはそう言って、見下すように神宿を見つめる。

しかし、更に続けてガルアは口を動かし、



「だが、それ以上に」



神宿を、いや、その彼を育てた者を。




「貴様の師は、とんだ未熟者だな」

「ッ!?」




賢者アーチェの事を口にしたのである。


周囲の観客側に立つ者たちからすれば、一体何を話しているのかすら、理解できない。

だが、それでもなお、ガルアは言葉をやめない。



「弟子に何一つ上にあがる術を教えられなかった、その証拠が貴様自身だ。….…戦っていてよく分かった。それらは師に教えられたものではない、貴様自身が生み出したものだろう? だからこそ、俺のように完成された師から教えられた力に勝てないのだ」



完成された師から教えられた者と、そうでなかった者の差を言葉にするガルア。


「……………」

「未熟者の師に教えられたものは、未熟者にしかなれない。まさにそれと一緒だな」



それは肉体だけではない、その心も含めて完全に自分より下であると、告げるための言葉だった。

だが、それ以上にガルアの言葉の奥には、何か怒り感情さえ混ぜ合わさっているようにも思えた。




「……まれよ」




だが、そんな事はどうだってもよかった。



目の前で立つガルアに対して、歯を噛み締めながら、フラフラの体を起こす神宿。

肩で息を吐き、荒い呼吸を吐き出す。


しかし、その瞳は鋭く、そして、




「……お前が、アイツのことを何も知らねぇくせに、っ、勝手に見透かしてんじゃねぇよ!!」





怒りの感情が込められていた。


神宿にとって、自身のことよりも、師であるアーチェを侮辱される。

その事だけが許せなかったのだ。



「ふん、負け犬の雑魚が」



ガルアはそう言って大剣を構える。

目の前の敵はもう既に虫の息だ。後一回攻撃を当てれば、それで勝敗はつく。


だが、軽い攻撃でまた起き上がるかもしれない。


ーーーだからこそ、




「最後の手向だ。これで終わらせてやる」




ガルアは大剣に魔力を灯し、振りかぶった。

そして、今度こそ。

神宿、いや、その場にある地面含めて吹き飛ばす一撃を放とうとした。





垂れた髪の隙間から覗かせる、神宿の瞳を見据えながらーーーーーーーー










ーーーーーーーザシュ!!

その刹那、だった。


剣を振り下ろす。

そんな時間すらなくして、ガルアの体は一瞬にして駒微塵のよう切り裂かれて死滅した。







ーーーーーーーーその、未来視『カフタ』を、ガルアはその最中に見たのである。







バンッ!!! とその場を飛び退くガルア。

先まで優勢に立ち、もう誰もが彼の勝利を疑っていなかった。

そんな状況であるにも関わらず、




「っ、はぁはぁ、はぁっ!!!」




恐怖の感情が、ガルアの平常心を塗りつぶしたのである。

震える手が大剣にまで伝わる。

また滝のように汗をかき、その感情に対してまた怒りを抱かせる。



「ッ、き、貴様……ッ」



ガルアは怒りの形相で神宿を睨みつける。

だが、対する神宿にとっては、




「……?」




何故、ガルアが退いたのか。

何故、そんなその顔を恐怖に満たしたのか。


ーーーー分からなかった。


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