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薔薇の蓮王


思いのほか、長文になってしまいました。

でも、今回で一つの話は完結するので!


読んでいただけたると幸いです!



『根絶させた』


アーチェが語ったその事実に愕然とするサーギルは、


「ば…ばか、なッ…」


ヨタヨタとふらつきながら、その場に尻餅持ちをつき、震えた声でその胸の内に膨れ上がった動揺を吐き出した。



「わ、わかってるのかッ!? わ、私の持つ物資はこの世界、いや王族貴族たちでさえ必要としているもの何だぞッ!?! それを、お、お前はッ」



人類と魔族。

それら二つの戦いに、武力は必ずしも必要とされている。

そして、その力の一端を担っていたのがサーギルが独占する武力だった。


だからこそ、サーギルが汚い真似をしたとしても、王族貴族たちは何も口出しをしてこなかったのである。



ーーーーー武力に関して、必要とされていたから。





わなわなと怒り震え、怒りの形相を見せるサーギル。

だが、アーチェに至っては特に気にした様子もなく、重い溜め息を吐いた。


「ッ!!」


その態度にサーギルは強く歯を噛み締め、更に怒りをぶちまけようとした。


ーーーーだが、その時だった。






「その心配は不要じゃよ」






その言葉と共に、もう一人の賢者がその場に舞い降りた。



小柄な体つきに加え、白い髪をなびかせる一人の少女。

アーチェの師匠でもある存在。


ーーーーーーーー大賢者ファースト。




「ふ、ファースト…ッ」



ファーストの登場に再び恐怖を抱くサーギル。

だが、対するファーストはとくに話を聞く様子もなく片手をかざし、あるモノをこの場にテレポートさせる。

それは、




「ほれ、お主の息子も連れてきてやったぞ」




サーギルの目の前に突如として現れた、横たわる一人の少年。

悪質極まりない行いを続けながら神宿と勝負し、敗退したサーギルの息子。

ギアンだ。


「…………」


地面に横たわるそんな息子の姿を見つめ、一瞬思考が固まらせるサーギル。

だが、そんな凍っていた心の氷が次第に溶け始めーーーーその直後に芽生えたのは、腹の底から煮えくりかえった怒りの感情だった。


ーーーーーをん!……よくも」

「………ぅ、ッ…ち、ちち、う」



そして、うっすらと目を覚ましたギアン。

そんな息子に対し、サーギルはーーーーー馬乗りになり、その握りしめた拳を振り下ろしたのである。

何度、何度、何度もーー。



「ッ、ぐあ!? や、やめっ、お、俺は!!」

「ッ!! フッ!! このッ!! このッ!!! 親の! 親の面汚しがッ!!!」



何度も殴られ続け、悲鳴をあげるギアン。

だが、サーギルは一向に殴る動きを止めなかった。

いつしか、サーギルの拳にはべっとりと血の跡がこびりつき、そして、またギアンの鼻から大量の血が流れ落ちていた。






一方的な暴力が続く中、


「醜いのう」


ファーストはそんな光景を見つめ、そう言葉を口にする。

だが、その表情からは一切の同情といった感情は見られなかった。


「……師匠、そろそろ止めた方が」

「別にほっておいていいじゃろ」


これ以上やれば一方が死ぬ。そう判断したアーチェが言葉を掛ける。

だが、対するファーストはそう言葉を返しながら、






「なんせ、アヤツは汚い真似をしてあの小僧を殺し掛けたんじゃからな」







ーーーーその言葉を口にした、その直後。

真紅に染まるアーチェの瞳から、光が消えた。






サーギルが暴言を吐き続けながら、泣き続けるギアンを殴り続け、更にもう一発と拳を振り落とそうとした。


ーーーーその時だった。



「ッっ!? ぅわぁあああああああーーーーーっ!?」



サーギルが拳を振り上げた直後。

その手が突然と炎によって燃え上がったのである。

熱さと激痛で悲鳴を上げ、その場に転げ回るサーギル。

その一方でギアンは、




「…ぃ、痛い…いたッ! ッ」




涙が溜まった瞳で真上を見つめた。

そして、そこに立つ一人の女性に対して助けを請おうとした。


褒美なら何でも出す。

だから、この俺を助けろ、と。



ーーーそう、言おうとしたのだ。




だが、その次の瞬間……だった。



ザシュッ!! と、その時。

ギアンの片耳からそんな不気味な音が聞こえたのだ。


「?」


最初、ギアンは今の音が一体何の音だったのか分からず、何度も目を瞬かせていた。

しかし、空いた手でその片耳に触れようとした時、



「??」



ーーー彼の手に、ねっとりとした鮮血が付いたのである。

そして、その血を見た直後にギアンの体から、熱さや痛み、ーーーーそして、喪失感が浮き上がった。




「ぁ…ぁぁッ、ぁああああ…っ!!!」




そして、その瞬間にギアンはようやく気づいたのである。


アーチェの魔法によって、片耳が一瞬にして消し飛んだ事を。





「うぅっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」







ギアンの片耳を魔法で消失させた。

それはアーチェにとってーーーーーーー予期せぬ結果だった。

何故なら、



「邪魔しないで、師匠」



アーチェの後ろに立つ大賢者ファースト。

彼女がアーチェの放った魔法の放射角度を変えたからだ。


「まぁ、待て」

「駄目。それだと、コイツを殺せないじゃない」


バックリと見開かれた瞳で、地面をのたうちまわるギアンを見据えるアーチェ。


彼女の言葉、その一つ一つから発せられる殺気によって、その場一帯には圧迫した空気を積み重なっていく。



「…お主がキレているのはわかる。じゃがダメじゃ」

「何で? こんな奴、生きてる価値なんてないじゃない? だったら私が」



そして、アーチェがそう言って再び手をギアンに向けて、かざそうとした。





ーー時だった。










「ーーーーーワシがやるから、手を出すな、と言っておるんじゃよ」










ギンッ!!!! という音と共に、その場一帯。地面から突如として赤い薔薇が咲き開かれたのである。


「!?」

「…おっと、いかんな。つい、魔力を漏らしてしまったか」


その薔薇たちは、本来この地から生まれたものではない。


発生した元凶は大賢者ファースト。

純白から真紅へと染まった髪と瞳を持つ彼女によって、それらはこの世界軸に強引に召喚させられたものだった。

しかし、何より恐ろしいのはファーストから発せられる驚異的な魔力の放出量の差だった。


それは立っているだけでさえ、魔力が外へと漏れてしまう。

そして、何より恐ろしいのは重圧ではない、その外見だけ相手を畏怖させてしまう。

それが、彼女の力。

いや…、


『薔薇の蓮王』



こことは違う世界、紅に染まった世界を生きた一人の賢者の力だった。






「………そこをどけ、アーチェ」

「………はい」


アーチェをひかせたファーストは地面で泣き続けるギアンを無視して、サーギルの元へと歩んで行く。



「….サーギルよ。お主はワシの忠告を無視した。知っておるじゃろ? ワシが見逃すのは一回のみ。次はないということぐらい」

「ち、ち、忠告…ッ? な、なに、いって」



言っている意味がわからず、震えた声で戸惑った表情を露わにさせるサーギル。

だが、対するファーストは顎を上げ、地面に倒れるギアンを指し示しながら、



「そこのクソに伝達を頼んだはずじゃぞ? ワシが今回の一件に関わっているということを」

「ッ!?」

「本来ならそこで手を打って、お主が折れればこんな事にはならなかったじゃろう。じゃが、お主はそれをしなかった。ーーーーワシが優しくも、最後の忠告をしてやっていたというのに」



決闘の話が始まる手前、ファーストが今回の一件に関わっている事をサーギルは知っていた。

だが、それをよそにサーギルは決闘の話を優先したのだ。



そして、それが自身の首を絞めているともしらずに、



「………………ぁ、ぁぁ」



崩れ落ちるように、その場に手をつき愕然とするサーギル。

しかし、ファーストの話はまだ終わってはいない。


「まぁ、今更何を言おうが遅いことじゃ。後、お主の物資含めた全てが何も消えたわけではない」

「………は?」

「決闘が始まる手前、ワシはある王族貴族と一つの契約を交わしていたんじゃよ。ーーーーーーーお主が持つ武力。それらを全て受け渡す、とな」

「な……ッ…!?」

「そして、お主が自分の子供たちの決闘に熱中している中、密かに屋敷に侵入させたワシのバカ弟子に物資の輸送しておくよう頼んでおいたんじゃよ。じゃから消えたのはお主の屋敷とその場一帯の土地のみ」



ファーストは笑いながら、サーギルを見下し、



「後、お主が使わせていた奴隷たちは全部こっちで預からせてもらっておる。今頃呪いも解除してもらって、晴れて自由の身になっているじゃろうがな」



そして、小馬鹿にしたように笑みを浮かべた。

まるでそこら辺に落ちたゴミクズを見ているかのような、瞳で。




「ッ!!! ファーストーーーッ!!!!」




怒りに我を忘れたサーギルは、ファーストに襲いかかろうとする。

しかし、


「!?!?」


地面から生えた薔薇たちがその直後に動き出し、サーギルの体に巻きつき、その動きを拘束する。

そして、薔薇についた棘がサーギルの体に食い込み、悲鳴と血が流れ落ちていく。






「ーーーーじゃが、そんな事は今はどうだっていい」






ファーストは目の前で惨めにも泣き叫ぶサーギルを見据え、あるモノを取り出す。


「これが何か、お主にはわかるか?」


それはデコボコした四角い箱。

一見変哲のない、ただのガラクタにも見えた。

しかし、




「これは最近、ワシが開発に勤しんでおる魔法具なんじゃよ」




ファーストはそう言って、その箱の詳細を語っていく。


「中には修行用のミニチュアダンジョンが入れてあってな。しかも、この中に入った者は例え何度死のうが、何十、何百、何千回だとしても生き返ることが出来る、究極の修行用アイテムなんじゃよ」

「っ、ぁぅ、ッ」


そして、まともに返事すら出来ているかわからないサーギルに向けて、



「……じゃが中身は完成するも、そのレベルがちと問題があってな。なんせ、賢者ですら手こずるモンスターがうじゃうじゃとこの中には蔓延っておるんじゃから」



ファーストは、上目遣いをした悪魔のような笑みを浮かべたのだ。


「ーーーーーッ!?」


そして、その瞬間。ーーーサーギルはその説明の意図にようやく気づくことができた。



何故、彼女はこうまで自身が作った魔法具を見せつけるのか?

何故、その構造まで事細かに話すのか?


ーーーーーそれは、


「ま、まさ、かっ……」 

「うむ、そうじゃよ。……お主の考えた通り、そこのクソを含めた二人纏めてこの中に入れるようと思っておる」

「ゃ、やめっろ…ゃ、やめてくれッ!!!」

「何、心配しなくても死にはせん。何たってこの中じゃと何度でも生き返る事ができるんじゃから」



ファーストの言葉に反応し、薔薇が動く。

もがくサーギル、そしてその子供であるギアンを縛り付けながら引きずっていく。


それは、ファーストが地面に置いたアイテムの元へと…。



「とはいえ、痛覚解除だけは全くできておらん、ガラクタでもあるんじゃがな。まぁ、それでも役には立つ」



悲鳴や号泣が聞こえてくるが、それらは騒音でしかない。


ファーストは冷たい瞳を細め、哀れにも凄まれていく罪人を見つめながら、




「ーーーーーお主らのような、塵にもならんつまらん命を奪うにはな」





そう呟き、送るのだった。










サーギルとギアン。

二人の姿が砂のように分解され、アイテムに吸収された。

そんなマジックアイテムを手に取るファーストに、アーチェは話し掛ける。


「師匠、それって魔力とかいらないの?」

「んなわけあるか。これ一つ動かすのに莫大な魔力がいる。じゃが、あんなヤツらに使うの自体阿呆らしいことじゃ」


弟子の問いにそう答えながら、ファーストは小さな魔法陣を展開させ、手にあるアイテムをその中に放り込む。


そして、疲れたように溜め息を吐きながら、



「じゃから、まぁ、千回死んだぐらいで出てこれるよう設定はしておいてある。とはいえ、体は無事でもーーー心までは無事だとは限らんがな」





そう、言葉を残すのであった。


ーーーーーそして、こうしてカフォンを中心とした争いは終局を迎えるのであった。





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