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カスタムチェイン

今回も最後の方に挿絵など入れています!


毎話更新時など、この小説をお読みいただき本当にありがとうございます!!

異世界の方のお話はちょっと止まっていますが、また共に更新できたら、と思っております!




神宿とカフォン。

二人の会話が終わった。

ーーーーーーーその時だった。



パチパチパチ、と。

拍手を送るかのように手を叩く音が聞こえる。

…それは神宿と対峙する場所に立つギアンから出されたものだった。





「茶番劇は終わったのか?」



そして、ギアンは神宿に対し、笑みを浮かばせながら続けて口を動かす。


「助ける…ね。お前、自分の状態がわかって言ってんのかぁ? もうすぐお前は血を流しすぎて死ぬんだぜ?」


そうギアンが口にした言葉は偽りでなかった。

何故なら地面には既に小さな水たまりほどの血が点々と続いていたからだ。



そしてそれは同時に、神宿の傷の大きさを指し示すものでもあり、また失った大量の血は既に致死量をとうに越えるほどの域を達していたのだ。




「残念だよ。お前にカフォンが奴隷になる姿を見せてやりたかったのによぉ?」




そして、だからこそギアンにとっては笑いが止まらなかった。


もうすぐ死ぬ奴が、彼女を助ける?


そんな世迷言をほざいている神宿の姿が、可笑しくて仕方がなかったのだった。







……だが、


「……お前には色々セコい手を使われてこっちもいい加減腹が立ってんだ」

「あ?」

「……だけど、それに関して俺が批判するつもりはねぇよ」



神宿はそう言いながら口元を緩ませ、ギアンを見据え、


(死ぬ間際で頭がおかしくなったのか? )


と、そう思うギアン。

ーーーーーーだが、その次の瞬間。





「なんせ、俺自身がセコい方に入る身なんだからな」

「!?」





ギアンの表情に驚愕が走る。


……それは神宿の言葉に驚いたのではない。


何故なら、目の前で今にも死にかけていたはずの少年が平然とした様子で体を起き上がらせながら立ち上がったのだ。


さっきまでの憔悴しきっていた様子とは打って変わり、まるで初めから怪我などしてない、そんな表情すら神宿は見せてくる。


「な、ど、どうなって!?」


予想を裏切る結果に驚きを隠せないギアン。

だが、結界の外にいるカフォンには、その理由が直ぐが理解することができた。




ーーーーそれは神宿の持つもう一つの力。

自害を阻止するため女神によって授けられた『自然治癒』という名のスキルだ。


それは神宿自身に対して悪性となる付与を阻害し、また怪我などといった傷を時間をかけ治癒させるスキル。





つまりは神宿とカフォンが話している間に、そのスキルが発動し腰部の損傷を治癒させた。

……その名を聞けば、明らかなチートスキルだろう。


だがしかし、この結果に導いたのは紛れも無いギアン自身だった。




相手を侮り、また死ぬ間際で言葉を言わせて楽しむ。

そんな甘い行動を見せた、それこそがこの結果を作り出してしまったのだから…。




「ハッ、そうかよ…お前も魔法具をどこかに潜ませてたってわけか」

「….………」




目の前で起きた光景に初めは驚いてしまったギアン。

だが、彼の顔に再び笑みが生まれる。



何故なら、例え回復する術があったとしても、ギアンの優勢に揺るぎは生じない。

それをギアン自身が一番に理解していたからだ…。


そう…決して負けるはずない、と。





「で? それがどうしたって言うだぁ?何度回復しようが同じ事だ! なんせ」

「ーーーーまた同じ手で俺を殺せるから、か?」

「っ!?」






その直後。

神宿の口から出た言葉に、ギアンの顔色が再び歪む。


「大方、お前の汚い手には予想はついてんだよ」


一方の神宿は手のひらを地面に向けながら、言葉を続け、




「だから対処だってできる」




そして、その言葉の直後に神宿は魔法を発動させる。




「ウィンド《サーチ》」




それは小さなそよ風程度の風魔法だった。

だが、その風は結界内の地面を沿うようにして流れ続け、


(ーーーーそこか…ッ)


ーーーー標的の位置を捉えた。

神宿は片手をその場所へとかざし、そして、



「ウォーター《ボム》!!」



次の瞬間。

何もないはずの空間に魔法を放ったのである。

それは爆発の特性を備えた水の魔法。

本来なら中間を通り過ぎ、結界の端へと到達する魔法のはずだった。

ーーーーーだが、その直後。



『!?!?』



水の魔法が何もない空間で爆発したのだ。

まるで、何に接触したかのように。






神宿の復帰に加え、突然の魔法の爆発。


結界の外で決闘を観戦する者たちにとっては、一体今何が起きているのかわからず、皆困惑した表情を浮かばせていた。


ーーーだが、その時。



「おい、あれって…」

「え?」



神宿の魔法が爆発した、その爆発地点。


不発に終わった、何もないと思われていたその場所にーーーーーーーーー突然と小さな少女の姿が現れたのだ。



ボロボロの衣服を身に纏い、手にもう一振りのナイフを掴む少女は今、神宿の魔法によって気絶して倒れている。


だが、そんな事よりも先に、ある事実がその場に激震を走らせていた。



「これが、お前の手だったんだろ?」

「…チッ」



それは決闘においての揺るぎることのないルール。

一対一の正式な決まり、それが今破綻していた事が露見したのである。



表では正々堂々と戦いを見せ、その裏で透明になる魔法を掛けた自身の奴隷に汚い真似をさせる。

それこそが、ギアンが今まで行ってきた卑劣な手の正体だったのだ。






「……………」


神宿自身、初めはこの答えに気づいてはいなかった。

…そう、第三者がいる、それに気づいたのは刺された直後だった。



ーーーーそれは、肉体に凶器が突き刺さった時。


ーーーーその凶器自身が、小刻みに震えていたのだ。

まるでそれを持つ手が、初めて人を殺めた事に対して動揺していたかのように…。




そして、その事実があったからこそ神宿は気づく事が出来た。

本当ならこんな事をしたくない、そんな第三者の人物がこの場所に紛れ込んでいるという事に…。







結界の外で、その事実を目の当たりにした教師がギアンに問いかける。


「ギアン、これは一体」

「知らねぇ」

「は?」


だが、ギアンはまるで汚物を見るかのような視線を地面に倒れる少女に向けながら、




「俺はソイツを知らねぇ、ソイツが勝手にやっていた事だろ?」




切り捨てたのである。

自身の不正をなかった事にするために。



そのふざけた言動は周囲にいた者たちの怒りを買い、そして審判でもある教師もまた怒りの形相を露わにさせていた。


(こんな不正が認められてたまるか)


教師は直ぐ様決闘の中止を宣言しようとした。

ーーーーーーだが、その時。





「別に止めなくてもいい」





その声を出したのは神宿だった。

地面に倒れた少女を抱え、教師の元へとやってきた神宿は、


「アイツだけは、俺の手で絶対にぶっ飛ばすって決めてるんだ」

「っ、しかし」

「後、この子の事も頼む。多分だけど、この子の自身、あんな事はやりたくなかったんだと思うから」


そう言って教師に、その少女を託した。



結界へと侵入はその魔法を展開させた本人ならいつでま介入することができる。

突然と少女を受け取り戸惑う教師をよそに神宿は振り返り、足を動かす。






そして、ギアンと再び対峙する場所へと立った。







「……俺をぶっ飛ばす、だって?」

「ああ」

「ハッ、お前、俺のこと舐めてるだろ? さっきみたいな事がなければ勝てるって思ってるんだろ?」

「…………」

「お前馬鹿だよなぁ? 勝てる見込みを自分で捨てたんだから」



ギアンはそう言って、ゲラゲラと笑い始めた、直後。


ガコン、ガコン、という音と共にギアンの周囲に浮かんでいた盾が不気味な音を発し始めた。

…いや、盾だけではない。

剣を持つ、鎧の手もまた不気味な音を発し始めたのである。


そして、その音の正体を明かすように、ギアンは口を開く。



「お前にもう勝ち目はねぇ! なんせ、この魔法具には敵の攻撃を学習する能力が備わってるんだからなぁ!! 」

「………」

「弱っちい攻撃や姑息な手ばっか使った所で、もうお前の手は通用しねぇ? コイツらはその手を先読みして必ず防御し、反撃する! わかるかぁ?もう俺の勝ちは確定済みなんだよぉ!!」




最後の勝つ希望は失われた。

そう言葉で伝え、相手を絶望させる。


ギアンは、神宿の歪む顔色をみたくて仕方がなかった。

そして、目の前のコイツに願いを託したカフォンをいたぶりたくて仕方がなかった。



だから、高笑いを上げ、自身の確定した勝利に、優越に浸っていた。












「前の手は使えねえ。なら、上等だよ」














その直後だった。

神宿の言葉。その後に続くように風の音が突然の前触れもなく結界内に吹き荒れる。


「あ?」

「お前がやってきた事に、俺は本気でキレてんだよ。さっきまでの攻撃が効かない? なら尚更上等だ。さっき以上の攻撃でお前をぶっ飛ばせばいい。ただそれだけなんだからな」

「ふ、ふはハッ!!! お前、頭でも沸いてんのかぁ? お前の情報なんざ、もうこっちで確認済みなんだぁぜ? さっき見せたのがお前の全力、それを上回るだって? 上位の魔法も使えねぇザコが、よく言えたもんだよなぁ?」



その言葉通り、神宿の情報は既にギアンの耳に届いていた。


…いや、それ自体を調べたのはギアンにつく者たちだった。

正確な情報には全く目を通さなかった。だがそれでもある情報だけは知っていたのだ。



それは神宿自身が上位の魔法を使えないという事実を…。







そして、だからこそハッタリだとギアンは思ったのだ。

相手を油断させ、勝機を勝ち取ろうとしていると、そう判断したのだった。


ーーーーしかし、その直後に、




「!!!!」




ギアンの心の中に、小さな不安が生まれる。

それは神宿が言葉を終え、下ろした左腕。いや、左手首を右手を掴み、何かを構える仕草を見せた。


その直後から当然と風が結界内に吹き荒れ始めたのである。



(上位の魔法は使えない、かといって、さっきみたいな手で来ようと、俺の魔法具で防げる。…アイツに勝ち目なんてない! その、はずなんだッ!!)



そう、これは単なる不安だ。

確立した勝利はこっちにある。だから、単なる思い過ごし……そうギアンは自分に言い聞かせていた。



しかし、



「!?」



ギアンを睨みつける神宿の瞳。

その揺るぎない、真っ直ぐとした視線にギアンは心は揺らいだ。


そして、不安が恐怖へと繰り上がった……。



(勝つわけがない。俺が、ま、負けるはずがない!!だからーーーーーー先にアイツを殺せばそれで終わるんだぁ!!!)



ギアンは狂気に満ちた形相で命令を飛ばし、



「こ、殺せえええええええええっ!!!」




神宿に向かって、今まさに剣を持つ鎧腕が迫ろうとしていた。








ギアンの声に反応してこちらに襲いかかってくる鎧腕。

このままでは確実に殺される。そうなるだろうと、神宿自身が理解していた。


だが、



(…まだ一回も成功した試しなんてない)



ここで諦めるわけにはいかなかった。



(それでも、アイツが助けてって願ったんだ。涙を流して、やっと自分の思いを叫んでくれたんだ……その想いに応えられないで、何が助けるッだ!!)



今も神宿の身を、安否を、勝利を、願う一人の少女がいる。

そして、そんな彼女やその周りにいる者たちを不幸にさせようとする奴が目の前にいる。





(いい加減、アイツの顔を見るのにはウンザリしてんだッ! もう、これ以上、カフォンの、アイツらの泣いてる姿を見たくなんてないんだッ! だからーーーッ!)



だから。


(カフォンを助けるためにッ!!)


だから。


(アイツをぶっ飛ばすためにッ!!!)




だから!!



(ーーーーーーー俺に、力を貸しやがれッ!!!)





ーーーーーー神宿は、常識を覆したのである。





それは魔法を扱う者にとってはタブーとされる。

ーーーーーー『死と隣合わせの荒技』だった。







次の瞬間。

神宿を中心に爆発的な暴風が吹き荒れる。

同時に迫りつつあった鎧腕は吹き飛ばされ、ギアンもまた顔に手をやり、風から目を守ろうとしている。


だが、その口元には笑みがこぼれ落ちていた。



何故なら、この現象は一度目にしたことがあったからだ。




それは『魔力の暴走』つまりは自身の手に負えない魔法を酷使してしまったが為に起きる失敗によって起きる現象だった。


その失敗の規模は人それぞれ、様々なものがある。

だが、それでも現状において、この失敗は明らかに大きなものだった。




確実に術者は死んだ。


それほどに強烈な失敗だったのである。



(終わったッ! 終わったッ!!!)



今度こそ勝ちを確信したギアンは大声で笑い続けた。


目障りな奴は消えた! 後は俺の時間だ!! 苦労した分、あの女で楽しませてもらう!!!



笑みをこぼし、この後に待つ楽しみにギアンは狂気に満ちたほどの喜びに浸り続けていた…。








「ーーーーーーカスタムチェイン」











ーーーーーーーー直後だった。

巨大なドーム状に膨れ上がった暴風が突然と逆回転を始めた。

そして、その風はまるで吸い込まれるかのように中心へと吸い込まれていく。



その場にいた者たち。


ギアンも。

観客側の生徒たちも。



そして、




「…トオ、ル…?」



カフォンもまた驚いた表情に包まれる中…。



暴風は、ある一定の位置にて四散した。

そして、風が止んだ。

その中心で、全身に緑のオーラを纏う少年が立つ。


右手にはまるでバツ印を表したかのような緑色の風が纏わりつき、そして、片方の手には、



「……何、あれ…」



今まで神宿が使ってきた風の弓とは比べものにならない、それほどに大きく、そして強固に作り上げられた風の大弓が左手に備えつくように纏わり付いていた。





そして、瞳を閉じていた神宿が閉ざされていた口を開きーーー瞳を開ける。





「《アーチャーウィンド》」



挿絵(By みてみん)



光る緑色に染まった瞳を持つ、神宿の姿がそこにあったのだ。








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