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昔の彼女




幼い頃、カフォンはどこにでもいるやんちゃな女の子だった。


「カフォン様!? 何やってるんですか!?」

「ふぇ?」

「早くそこから降りてください!? 危ないですよ!?」


性格で言えば男まさりなところもあって、木によじ登ったり、またある時には犬や猫を追いかけたりなど、



「カフォン様〜!」



使用人たちから見ていても日々ハラハラするほどに落ち着きがない、それがカフォンという小さな女の子だった。





そして、彼女の両親はそんな我が子を暖かく見守りながら、


「旦那様! カフォン様が」

「まぁまぁ、そう慌てず」

「しかし!」

「大丈夫さ。まだ少し幼すぎるだけで、成長すれば次第に落ち着いてくるだろう」


そんな他愛もない平穏な日々を過ごすしていた。


ーーーーーそして、その日々がずっと続くものだと、誰もがそう思っていた。

















数年後。

カフォンの両親が自殺によって亡くなり、貴族としての地位や財産すらも落胆し始めた頃、


「あ、カフォン様!」


ずっと部屋に閉じこもっていた彼女が、その重い扉を開け、やっと使用人たちに顔を見せてくれた。



部屋の外で集まっていた使用人たちは皆して集まり、彼女を励まそうとしていた。


ーーーーだが、





「大丈夫よ、ラフリサ」

「…ぇ」




彼女は………カフォンは使用人全員の顔を見渡しながら、



「みんな色々ご迷惑を掛けてごめんなさい。だけど心配しないで。……私がこの屋敷を、みんなを守るから」



そう言って、彼女は笑ったのだ。


数日前まで見慣れていた子供らしいやんちゃな雰囲気すら消え失せ、



「……カフォン…さま…」




彼女は、愛想のいい作り物の笑みを見せ続けた。

まるで別人であるかのように…





そして、それからというもの……彼女の本当の素顔を見た者は誰一人としていなかったのである。











誰もいない男子寮の外の広場。

神宿は石段に腰を下ろすラフリサから、変わってしまったカフォンの話を聞かされていた。



「私たちは、何も出来ずにいました。身分が身分なだけにどこにも務めることが出来ず、ただ屋敷の手入れをしながらカフォン様の帰りを待つ事しか出来ずにいました」

「…………」

「確かに旦那様たちがいた頃に比べれば裕福ではありません。しかし、それでも私たちが路頭に迷わないでいられた。…それは、誰か親切な方が彼女に手を差し向けてくれたからだと……そう最近まで思っていたのです」



そう言ってラフリサは言葉を止め、小さくその手を握りしめた。

そして、震える体を堪えながら、彼女は再び語り始めた。



「だけど……それは違っていました。私は、あの者から真実を聞かされたのです。……カフォン様が、自分の身を投げ捨て私たちを助けてくれていた事を、そして、約束された多額の資金を支払わなければ……彼女があの者の奴隷にされるということを」



ポタポタと落ちる涙が、握りしめた手の上に落ちる。

今まで平然と暮らしていた自分たちに対する後悔を押し殺すようにラフリサは唇を紡ぎながら泣き続けていた。



「……その話、誰から」

「っ、ギアンと名乗る、大貴族のご子息様からですっ」



ラフリサの口から出た、ギアンの名前。

神宿の眉間に力が篭る中、



「っ、ぁ、私たちはあの者に直ぐ様お願いをしました。カフォン様ではなく、私たちをお使いくださいと、そして、彼女を助けてくださいと。…でも、ダメでした。あの者は決して首を縦に振ってはくれませんでした」

「………」

「それだけには止まらず、あの者は私たちにこう言ったのです。『俺の物になった暁には首輪をつけて、見せにきてやる』と」



ーーーその言葉を言い渡された瞬間、その場にいた使用人たち全員の心が絶望に苛まれた。


そして、その脳裏に思い浮かべてしまったのだ。


幼い頃から見守り続けていた家族同然のカフォン。



そんな彼女が……奴隷となり、そして残酷な未来へと向かっていってしまう様…。






「私たちは……どうすれば、よかったんでしょう…」

「…………」

「会いにきたところで、何も出来ないのに……私は……何を」



絶望に苛まれた心の中、ラフリサは何も浮かばず茫然とした気持ちのまま、この場所に来てしまった。

そして、この話に全く関係のない神宿にその心の内を吐露してしまった。



「ごめん…なさぃ…ごめん、なさい…」



溢れんばかりの涙を流し、ラフリサはそう言って顔を手で塞ぎこんでしまった。


止めようのない涙を抑えることが出来なかった。
















ーーーーそして、そんな彼女を嘲笑うように、虚しい風が吹き抜けていく。


だが、そんな中で神宿は、



「……やれる事ならあるさ」

「……っ…ぇ」


涙で濡れた顔を上げるラフリサに対して、神宿は前に立ち、口を開く。





「アイツ自身が気づいてない、アンタたちの思い全部をひっくるめてカフォンにぶつけてやればいいんだ。……なんたってまだ限られた時間はちゃんとあるんだから。あの野郎が何を先ばしって言おうがな」

「っ……ぅ、で、でも」

「確かにアイツは何でも抱え込む性格をしてるから、言えば負担になるかもしれない」

「っ」

「だけど、それでもアンタらが心にあるもの全部をカフォンに伝えなくちゃ何も始まらない。昔のアイツに戻ることも、アイツの側に立って助けることも………全部話すことが出来て、そこからやっとスタートになるんだ」



……他人を助けようとする者がいれば、同時に助けられようとする者もいる。


……そして、互いに信頼し、互いに守ろうとするのなら、まずは互いを知らなければ何も始まらない。



ーーーーそれこそが、カフォンを救う本当の道、であると神宿はそう思ったのだ。



そして、だからこそ、



「トオル…さま…」

「だから、アンタらは絶対にアイツと真正面から話し合え。……そんな時間ぐらい、俺が絶対に作ってやるから」

「っ、はい…はぃ」



泣き続けるラフリサに神宿はそう伝えた。



そして、同時に神宿は心の底で再び怒りを募らせた。





逃げ場をなくし、更にはその周囲にいる大切な人たちまでをも絶望に追い込むギアンのやり口、いやアイツ自身がーーーー気に入らない。



攻撃手段がない?

負けるかもしれない?



そんな小さい事すら関係ないほどに、神宿は心の底から思った。





(アイツだけは、絶対にぶっ飛ばしてやるッ……)





ーーーと。






そして、神宿の決意が再びかたまり…。


…時間は流れーーーーーー期間を終え、ついに決闘当日へと物語は進行していくのであった。




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