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新たなる問題



それは授業内容の改善が行われ、早一週間ほどの時間が過ぎた頃。

学園にある学園長室にて、



「まぁ、このぐらいレベルが上がれれば上等じゃな」



大賢者ファーストが紙束の一枚を手に取り、安堵の溜息と共に小言を呟いていた。



レベルアップの対象となったのは、この学園に通う生徒たちであり、この一週間の授業のかいもあって、魔法の質はそこそこのレベルするまでに至ったのである。

ーーーだが、そんな彼女とは対照的に、



「……そうは言っても、今回のはやりすぎじゃないのか?」



そう答えたのは、向かいに座る老人男性。この学園の長でもある、学園長ことガークだ。



学園長とは言いがたい心優しそうな表情を見せる彼だが、対するファーストは呆れた様子で口を動かし、



「馬鹿タレ。大切な雛鳥でもある魔法使いたちを、あんなひ弱に育ておって、そんなのじゃからまともな魔法使いが育たんのじゃぞ?」

「…………」

「……とはいえ、何もお主が全部悪い等とはワシは言わん。なんせ、お主は昔から強く言われると引っ込んでしまうたちじゃからな」



ファーストは目を細めながら、紙束の中から三枚の紙を手に取り出すと、それらを席に座るガークの目の前に突き出した。



一つは、これまでの学園における内情を詳しく記載した紙…

そして、残りの二枚には…、





「さて、そろそろワシにも話してくれてもかまわんじゃろ?」

「……」

「…ワシはずっと疑問に思っておった、ここ数年の間に起きた学園方針の急変に関して………後、この学園が特別優遇しておるコヤツらに関する情報も含めて包み隠さず話すのじゃ、ガークよ」




『特別講習』という偽りの名目で欠席を帳消しにさせもらっている男女二人の生徒。


ーーーそんな彼らに関する情報が詳しく記載されているのであった…。













そして、その頃。

午前中となる時間帯。

校舎前のグラウンドでは、今も授業は行われ続けていた。



だが、連日共に続く授業の甲斐もあって、当初の頃のような地獄もなく。



「よっ!!」

「うわっ!! あぶなっ!」

「そこ、気を付けて!」



皆、魔法および反射神経の成長が進み、跳ね返ってくる自身の魔法を防ぐ者も現れれば、また躱す者も現れる。


ーーーー現状、大賢者の狙い通り、生徒たちは着実と進歩していっている状況にあるのであった。





ただ、その中で、




「わっ!?」



銃弾の後に悲鳴が鳴く。

そして、それらを繰り返す一人の少女がいた。


それはーーーーーーカフォンだ。



以前と同様、純朱の銃による練習を繰り返しているのだが、あまり進歩する様子もなく、カフォン自身、銃を使うのをやめたい気持ちでいっぱいだった。


だがしかし、




「ダメですよー? カフォンちゃんー?」




何とか死地から復帰出来た(大賢者の料理でノックダウンしていた)アーチェことエチアがカフォンにつきっきりで稽古してくれているのだが、



「だって!」

「大丈夫ですよー? 先生も言ってたでしょー? 大きな怪我にはならないって」

「でも痛いのよ!? 何回鼻血出してるか」

「大丈夫だよー?」

「何が大丈」

「人間それぐらいなら死なないからー?」

「ちょっと! アンタの師匠、本当に鬼すぎでしょう!?」



と、外野から悲鳴らしき声が聞こえてくる中、神宿は聞こえないフリをしつつ自身の練習に取り組んでいた。

隣に立つカルデラもそれには苦笑いを浮かべるしかできなかったのだが。











ーーーーーそんな時だった。





「あん? 何だコレ」




その男の声は、グラウンドの入り口付近から突然と聞こえてきた。

そして、更に続けて、



「うわっ、だっさ! 皆んな土まみれになってるし! 何、あの石のゴーレム、ダサすぎるんですけど!」



まるで生徒全員を貶しているかのように、笑う女の声が聞こえてきた。






「……何だあれ?」


そんな野次が飛ぶ中、一人首を傾げる神宿。

だが、そんな中、




「カフォンちゃん?」

「……………」



周囲が異様な沈黙を漂わせる中、アーチェについていたカフォンが一変してまるで恐怖で臆したかのように、体を小刻みに震わせ始めたのである。


ーーーそして、そんな彼女に対し、









「よぉ、元気にしてたかカフォン?」








ゆっくりとした動きで歩いてきた男が、カフォンに向かってそう言葉を掛けてくる。


それと同時に、カフォンが体をビクつかせるが、




「何だ、見ないうちまた偉く綺麗になったんじゃねぇか?」

「ぇ、は、はぃ」

「ああ、そうだ。そういえば、お前ん所に貸してる借金、あれまだ払いきれてないんだって?」



借金。

その言葉が出た直後、更にカフォンの顔色が蒼白に変わる。

だが、そんな彼女に対して、男は続けて言葉を囁き続け、



「っ、そ、それは…」

「なあ? どうする? そろそろヤバいんだろう、お前ん所。お前が卒業するまでの間にあの屋敷、持つのか?」

「っ、そ」

「なぁ、そんなまどろっこしい事せずにさぁ? …………さっさと答えろよ。…早く俺の提示した契約に従って…」



そうして、カフォンの髪に手を触れながら、




「全部、俺の玩具になれよ」



自身の口元にやろうとした。

ーーーーーーーーーーーその時だった。










グイッと、肩を掴まれたカフォンの体が後ろに引き離され、



「ぇ…」

「悪い、コイツ今怪我してんだよ」



カフォンと入れ替わるようにして、神宿が前に出たのだ。






「………あ?」



神宿の介入に対して、目を見開き苛立ちを露わにさせる男。

だが、そんな眼光に臆する事なく、神宿は後ろにいたカルデラに向けて声を掛け、



「カルデラ、悪いけどコイツを保健室に連れて行ってくれないか?」

「…はい。で、でも」

「大丈夫だよー? 私がいるからー?」



そう言って神宿の隣に立ち、口元を緩ませるアーチェ。



「……お、お願いします」



カルデラはそんな彼女に促されるまま頭を下げ、よろめくカフォンを連れ保健室へと歩いていくのであった。









そして、神宿と男が向かい合う中、後に遅れて女の方も近寄って来た。



ーーーーその場一帯は更に重く、不穏な空気が漂う中、




「それで? お前、俺が誰かわかってて、そんな態度取ってるんだよな?」

「………は? 知るかよ、お前が誰かなんて」



売り言葉に対し、買い言葉で返す神宿。


周囲にいた生徒たちは、先生を呼べ! 等と慌てふためく様子が広がる中、




「ああ、そうかよ。つまりは舐めてるんだよな、お前?」

「…………」

「ああ、わかったわかった。……だったら」




男はまるでゴミでも見るかのような視線を神宿に向けたまま、言葉を続け、







「死ねよ」








その単語が出てーーーー次の瞬間だった。



バゴン!!!!!!! という音と共に神宿の隣に直後、その地面に向けて突然と魔法が落ちて来たのである。


それは一見して、男が放った攻撃にも見えた。

しかし、



「あ?」



その結果に対し、男からは疑問の声が漏れた。


何故なら、魔法の後に続いて、その地面には何処からともなく突然と現れた正体不明の魔法使いが倒れていたからだ。






ーーーその者は男に金で雇われた魔法使いであり、命令されれば殺人や恐喝、犯罪まがいな事はなんでもするような男だった。


そして、今この瞬間も、命令に応じて透明になる魔法を自身に掛け、神宿を殺そうとしていたのである。


いや、そうなるはずだった。



(…どうなってんだ?)



ーーーーしかし、そんな魔法使いが暗殺を失敗し、更には姿を見せて倒れている。



何が起きたかわからない。

男が眉間をしかめ、神宿を睨みつけた。


ーーーーーそんな時だった。







「トオルくんに手を出すんだったら、私も手を出してもいいよねー?」







神宿の隣に立つ少女、アーチェがその次の瞬間。

その場一帯に向けて、殺気を放つ。


「………ァ」


瞳を赤くさせ、また同時に神宿を攻撃にした者。

更にはその他にも潜んでいる者に対して、アーチェは魔法を使おうとした。







「この馬鹿タレ」







ーーーその、次の瞬間だった。

アーチェの頭に、ぱこん! と本の角で叩き落とされた。



「っ〜ぅ!?!?」



頭を抑え、悶えるアーチェ。

そして、そんな彼女の頭を叩いた張本人である少女、大賢者ファーストは呆れたように溜息を吐いた。



「こんなだだっ広い場所で大魔法を使う馬鹿がどこいる。全く」

「……アンタ」

「なんじゃ? 珍しく小僧も偉く気が立っておるようじゃが、少し落ち着くのじゃ」


そう言って神宿をなだめるファースト。

その言葉に対し、神宿は小さく歯を噛み締めた。


すると、そんな中で、




「おい! 勝手に話を進めるなよ?」




再び男が怒気を含めた声を放ってきた。

神宿が再び眉間にシワを寄せるが、対するファーストは再び溜息をつきながら、



「親子そろって、似たり寄ったりじゃな」

「あん!?」


ファーストの言葉に男が更に続けて暴言を吐こうとした。

ーーーーだが、その次の瞬間。





キィン…、という音と共に。



「っ!?」

「ワシは一度しか冗談は言わん。じゃから今日は帰れ」



動く仕草さえ見えなかった。

それほどの速さで、大賢者ファーストは男の首元に向けて白刀を突き出していたのである。


それも、後数センチという差で肉を貫く距離を維持しながら、



「お、お前ッ…お、俺が誰の」

「ああ、知っておるぞ。昔からの付き合いじゃからな」

「なら、っ!?」


男が続けて何かを言おうとしたが刀から鳴る金属音によって、言葉は押し殺されてしまう。


「どうせ後から好きがってに言うんじゃろうが、その事はどうでもいいのじゃ」

「っ」

「じゃが、ただ一つ」


臆する子供。

そんな男に対し、大賢者ファーストは口元を緩ませながら伝える。



「お主は必ず、父親にこう伝えるのじゃぞ、大賢者ファーストが今この学園にいる、と」

「っ!!」

「よいな? 」



それは一種の暗示をかけるかのような仕草だった。

言葉を伝え終えた後、刀を収めたファースト。



男は腰が抜けたかのようその場に座り込んでしまった。

しかし、その後直ぐに物陰に隠れていた魔法使いが慌てた様子で集まり、男は抱えられた情けない格好のまま、テレポートの魔法でその場を後にするのであった。



そして、その間。

男の後ろに立っていた女が、ジッと神宿を見つめていたのを謎に残し……










「大人気ないのはどっちなんですかー?」

「何がじゃ? ワシは危害を加えとらんのじゃから、セーフじゃろ?」



賢者同士で他愛もない会話を続けるアーチェとファースト。

だが、そんな中で神宿はファーストに向けて声を掛ける。



「なぁ、アイツら…一体…」

「ああ、そうじゃな。そういえば、お主らは何も知らなかったんじゃったな」





どこから話そうか、と悩むファーストは顎に手を置きながら、ゆっくりとした調子で話し続けていく。




「あやつの名前はギアン、そう後ろにいたのは妹のルティアというんじゃが、あやつら自身は特にこれといった長所もなく、授業もサボる。まぁ、単なるヘナチョコなんじゃが…まぁ、ただ」

「ただ?」

「あやつらの父。サーギルという男がまた厄介なんじゃよ。大貴族に加えて、最悪な事にこの学園創立の際、援助を行った人物の一人なんじゃよ」



ーーーーーそうして、神宿たちは大賢者ファーストの口から語られる、彼らの素性を知ることになる。






大貴族のご子息であり。

また、父親の権力を使い好きがってを行う二人の兄弟、ギアンとルティア。


そして、そんな彼らがこれまで仕出かしてきたであろう醜態についてを…。


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