◆弟子となって、早一年
神宿 徹がアーチェの弟子となり、それから更に一年の年月が流れた。
◆
一年という月日が経つも変わらずモンスターたちが蔓延る森林奥地。
そんな危険地帯の中、そこにひっそりと一軒の木造建築の家が建っていた。
そして、その家の小窓から太陽の日差しが差し込む中、
「よっと」
台所に立つ神宿 透は、フライパンを振るいながら朝食の料理を作っていた。
一年の月日が経った事もあって身長が少し伸びた神宿だが、特にそれ以上変わった事はなく、いつも通り師匠アーチェに魔法の修行を受けつつ家事の全般を手伝いながら、ここでの生活を過ごしている。
とはいえ、料理に関しては以前としてアーチェには譲っていないのが現状であるのだが、
「おーい、師匠! ご飯できたぞー!」
簡単な目玉焼きとサラダの定食を作り終えた神宿は、二人分を食事をテーブル上に並べた後、リビング横の廊下奥にある閉じたドアに向けてそう声を掛けた。
すると、しばらくして。
ギギギィ……と、ドアが開く音が聞こえたと共に、そこからボサボサとした髪としわくちゃの服を着た一人の女性が床を這いずるようにして、その部屋から出てきた。
そして、
「んー、もうー?」
ぐにゃん、とダラけきった顔を見せる彼女ーー魔法使いのアーチェが眠たがな様子でそうぼやき、神宿はそんな彼女の様子に溜め息を吐きながら、
「ああ、もうだ。ほら、さっさと顔洗ってからこっちに来いよ」
手慣れた様子でアーチェを軽くあしらいつつ、神宿は先に自分の朝食に手をつけるのであった。
◆
「それにしても、ちょっと見ない間に背伸びたよね」
食事時。
顔を洗い終え目を覚ましたアーチェが朝食に頬張りながら、ふとそんな事を呟く。
「いや、まぁ、一年もたてば当然だろ? っていうか、師匠とはいつも顔合わしてるだろ」
「むーー、それはそうなんだけどぉ。ほら、トオルくんも一応は男の子なわけだし、そろそろ人付き合いとかしてみたくならないのかなーーって思ってさ。…………た、例えば……か、彼女とか欲しいんじゃないかなぁ……とか」
そう言って、膝上に置いた手をもじもじと触りながら、神宿の顔色を窺いながうアーチェ。
だが、対する神宿は、
「いや、人付き合いとか、彼女とか急に言われてもなぁ……もう、なんていうか師匠と一緒ならそれで俺自身よくなってきてるし」
「へっ!?」
そう言って、気にする様子もなくおかずを口に放り込んだ。
彼自身気付いてはいないが、それは色恋沙汰や人付き合いに興味がないからこそ出た言葉だったのだろう。
だが、……まぁ、側から見れば。
アーチェとだけ居れればそれでいい、と言っているように聞こえるのわけであり……、
(ぇ? え? えええっ!?!? ……え、でもっ! わ、わた私、トオルくんより歳上なわけだし、その〜〜っ!!)
真っ赤になった顔を背けながら、一人パニくるアーチェ。
「ん? どうしたんだよ師匠」
「べべ、別にっ!!? なな、何でもないよっ!?」
「?」
ドギマギ、アタフタするアーチェに首を傾げる神宿は、そうこうしている間にも自身の食事を食べ終えてしまった。
「おおっ、おいしいねっ!!?」
そして、その場の空気を誤魔化すように、急ぎご飯を頬張るアーチェを尻目に神宿は空いた皿をキッチンの流しへと持っていき、
(それじゃあ、朝飯も食べ終えたことだし。そろそろ修行でもしにいこうか……)
と、考えた。
そんな時だった。
チリリン! と、玄関のドアに取り付けられた鈴から来客用の音が聞こえてきた。
「むぐっ? っぅ……っはぁ、あれ、お客さん?」
むせ掛けた喉を水で押し込みながら、首を傾げるアーチェ。
だが、対する神宿は呆れたように、
「客って、師匠に友人なんていないだろ?」
「ぶっ!? ちょ、ちょっとっ!? トオルくんって、やっぱり私の事一人ぼっちだと思ってたのっ!?」
「ん? まぁ」
「むかっ!!」
神宿の悪びれない態度に頰を膨らませながら、私だって友人の一人や二人いるんだからねーっ!! と騒ぎつつ玄関へと歩いて行くアーチェ。
だが、ものの数分して戻ってきた彼女の手には一枚の手紙が握られており、
「…………」
「…………」
……どうやら、役所の人が手紙を届けに来ただけだったらしい。
「………………ぐずっ、別に一人じゃないもん」
涙目でその場にしゃがみ込み、拗ねるアーチェ。
神宿は苦笑いをしながら、……と、とりあえず手紙を見てみろよ、と場の空気を濁すべく、何とか手紙を開かせた。
すると、そこにはきっちりとした礼儀正しい文字で、
『
賢者アーチェ様へ
至急、魔法学園へお招きを要請したく、このように手紙を送らせていただきました。
』
……そう、書き記されていた。




