第4話
中心には昔ながらの商店街があり、住宅街もある。それらは決して時代に沿った物ではない。だからこそ、その地に根付いた建造物たちは違った輝きを灯している。
周囲には直ぐに田畑が広がり、飲料水としてそのまま使えるのではと思える程透きとおった川もある。更に少し進むと山がある。林業がこの地域ではまだしっかりと機能している為、間伐などもされ綺麗と言える山だ。これら全てが多くの生き物を育んでいる。国指定の生物なども多く残っている……
「シュネ、ごめんね。商店街に行く筈だったのに町の外にいるし、語ってるね」
「大丈夫! 嬉しいよ、直奈くんの住む町の事を聞けて。ただ歩いたりしてただけじゃ気付けなかったよ!」
「優しいね、ありがとう!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
図書館を出た後、ゆっくり歩いてここまで来たからもうお昼になった。商店街は取り敢えず後回しにして、昼ご飯食べよう。
「そろそろお昼だからご飯を食べない?」
「お腹空いてきたから、ご飯を食べない?」
2人のタイミングが揃った。横を向くと目も。そして、
「「あははっ」」
「家族以外の誰かと自然と笑えたの久しぶりだぁ!」
「それは良かった! お昼なんだけど、ラーメンはどうかな?」
「ラーメン! うん、食べたい!」
そういう訳で地元民が頻繁にやって来るラーメン屋にやって来た。チェーン店ではなく、この店独自の味を楽しめる。味噌と醤油がある。味噌はこってりしていて、醤油はあっさりしている。この二種類の差がよりこの店を人気にしている。最近では市の雑誌にも載るようになり、少しずつ他地域の人も来ているみたいだ。
「いらっしゃ~い! て、あれ? 直奈坊、今日は彼女連れかい?」
シュネは彼女と言われ頬を紅潮させ僕の手を握りながら挨拶をした。
「こ、こんにちは」
「あら、可愛らしい事! 幸せもんだねぇ、こんなに可愛い子だなんて」
「大丈夫だよ、シュネ」
「ここの人は皆私に普通に接してくれるなんて」
「シュネは何食べたい?」
「直奈くんと同じので……」
「じゃあ叔母さん、醤油の並が2つで!」
「カウンターに座ってて!」
小話しちゃったけど、叔母さん大丈夫なのかな。この時間帯は忙しい筈なのに。それにしても良かったなぁ。ここの人達は彼女に優しく接してくれる。これで彼女の心の傷も癒えてくれると。
「どう? あんまり話した訳では無いけど、この町の人達はいい人でしょ?」
「うん! 皆笑顔をだし、なんかぽかぽかしてくる!」
ラーメンが来るまで僕はこの店のメニューを説明した。父さんも好きと言うこともあり、外食時よく来るから味は熟知している。その間、彼女は熱心に聞いてくれていた。この町の事をどんどん知りたいんだそうだ。やっぱりこの町に生まれて良かったと誇らしい気持ちになる。
「はい、お待ちどおさま! 醤油の中が2つね!」
「「ありがとう!」」
「それでは」
「「いただきます!」」
うん、美味い。さっぱりしている。
僕の食レポの技術が未熟過ぎる所為でこの味の素晴らしさを語りきれない。読者の皆様、本当に申し訳ない。
隣を見ると、シュネも目を輝かせてラーメンを見つめている。ふっ、君も言葉にならないようだな。
「このラーメン美味しい! スープと麺の太さが絶妙だ。それに……」
な、なに!? 食レポだと! 完璧だ。このラーメンの味の素晴らしさを余すこと無く伝えている。周りの客はおろか、店員までもその動きを止めて彼女を見ている。
そうしている内に彼女の食レポは終わった。
「凄く美味しいよ、このラーメン!」
「パチパチ」
何処からか拍手の声が聞こえてきた。何でだ? いや、これは彼女がこのラーメンを言葉巧みに表現したからに違いない。
いつの間にか拍手は店中から湧き上がっていた。当の本人である彼女はと言うと、照れて俯いていた。なので僕が無言で手を挙げると、「すっ」という音が聞こえそうな程一瞬で静まり返って、全員元に戻った。
「えっ? えっ?」
「シュネの食レポが素晴らしかったのと、この町ののりの良さが出た結果だよ。気にしなくて良いよ。取り敢えず、残りを食べようか」
「う、うん。そうだね」
気付いているよ。その溜めに含まれた、こいつ何言ってやがるという呆れに。自分でもやってしまったと思っているんだ。赦してくれ。
「あ~、美味しかった!」
「本当に美味しかったよぅ! また来たいくらい!」
こうして僕達は無事前半を終えたのだった。
いや、無事ではないけどね。失態が多い気がする。誰のとは言わないけどね?
後半。もう町で僕のよく行くところは紹介しきった。いや、一応まだあるか。電車で4駅の学校なら。流石にそこに連れて行くのはなんか気が引けるなぁ。
「あっ! 僕達ってまだ実際に会って話した時間って短いよね?」
「うん、そうだね」
「だからさ、公園でベンチにでも座って会話しようよ!」
ちょっとした丘の上にある公園。そこに至るまでの坂は地味な傾斜である(階段はあるが)。元気な子ども達は活き活きと走って坂を登るが、僕達は階段を使っている。
「うわぁ、この丘からって町の事結構見えるんだね! 綺麗!」
「町自体大きくないのもあるからね。確かに改めてみると綺麗な景色だなぁ」
今日の午前中は偉そうに彼女にこの町の素晴らしさを語ったし、自分自身ここを誇らしく思っていた。でも、当たり前だと思って全然見てなかった。なんであるんだよとさえ思ったことのある山も今観ると緑が生い茂って、心地良い空気があって……
「直~奈くん! 早くおいでよ!」
いつの間にかシュネが、上から優しく微笑んでこっちを見ていた。向日葵みたいだ。自然とそう感じていた。彼女といると僕の心が温かくなる。照らされているんだ、その輝きに。会って間もないけど、心に浮かんだこの気持ちは偽りなんかでは無い。好きだ。
一度そう想ったら口に出したくなってしまった。これじゃあ、彼女に軽い男だって見られちゃうかもしれないのに。
僕は駆け出した。彼女はそこで僕が来るまで待ってくれるだろう。でも、少しでも長く傍にいたかった。
「ねぇシュネ、僕決めたよ。違う、感じたよ」
「うん? 急にどうしたの?」
「公園に着いたら言うよ!」
「そうなの? 分かったよ」
彼女はまた笑顔を浮かべた。会ったばかりの頃は、少なかった笑顔も今日で一気に増えたのではないだろうか。これは僕の成果ではなく、元々そういう人だったのかもしれないね。
「あ~、今日は楽しかったなぁ、一日ありがとうございました」
「まだ2時を過ぎた位なんだけどね。こちらこそありがとうございました」
「それで言いたい事って?」
次回は多分短いのですが、一応シュネ視点で書こうと思います!