第12話
少し意味分からない終わりかもしれないです
僕は退院後、元ののどかな日常へと戻っていた。勿論、時間は常に遡ろうとしているけど。
今はもう12月の中旬。都会から離れた、山々に囲まれたこの町では既に雪が山々を覆い、白銀の城を創り出している。ロードヒーティングのお蔭で道路はまだ問題ないが、寒さが厳しくなるこれからはどうだろう。周囲の家は、その屋根にこれでもかと雪を載せている。
今日は全校集会。3学期制であれば終業式なんても言えたけど、生憎2学期制だからこう言っている。この全校集会が終わって、掃除やら何やらを終えるとお昼頃に下校。明日からクリスマスイブまで課外になっている。課外中は3日に1回会おうと決めている。本当は毎日でも良いのだけど、高校生の懐具合はそんなに甘くはない!
「直奈くん! 一緒に帰ろうか!」
「うん! 歩きながら1つ提案があるんだけど良いかな?」
「何かな?」
「今日は初めてこの町で冬を味わっているシュネに見せたい景色があるんだ」
「直奈くんに会ってからいろんな所に連れて行ってもらったけど、まだ行ってないところがあるんだ!」
「少しだけね! 今日連れて行きたい場所はどうしても冬に連れて行きたかったんだ」
「すっごく楽しみにしてるね!」
「期待してて! でもそこに行きたい時間は夕方だから、それまでデートしない?」
「ぜひ!」
彼女の浮かべる笑顔はその雪の如き透きとおった肌に林檎の如き紅さを浮かべるため、他の花を寄せ付けない美しさがあった。ストッキングによって白の世界で目を惹く彼女の脚はその美脚を惜しげも無く晒している。冬服も完璧に着こなした彼女は周囲の目をその身に釘付けにしている。
「うーん、よし! ちょっとここで待ってて!」
「分かったよ」
シュネを独りにしておくのはナンパの危険性が恐ろしく高いから本当にやりたくはないが、あるシチュエーションをやってみたいのだ。
自販機で温かいココアを買って彼女の元へ戻るとナンパをしようとする男が現れていた。僕の外見で止められるかは分からないけど、強引に隣に座るしかないな。
「はい!」
「ひゃっ!」
「温かいココアだよ」
「ありがとう!」
そう。僕のやりたかったシチュエーションとは、彼女の頬に急にものを当て可愛い声を聞くことさ! 彼女のかわいさは止まることを知らない。
今回は無事にナンパ男を未然に防止出来たみたいだな。
「あの、シュネ」
「ん? どうしたの?」
「クリスマスイブは4時位からデート出来ないかな?」
「了解です!」
そう言って敬礼をする彼女は照れているのがバレバレだ。
「ぷっ、あははっ!」
「あははっ! やっぱり変だったかな?」
「いやいや、そんなことは、少しあるかも」
「もう」
「顔を膨らませて! 全部かわいいから大丈夫!」
これはこれでなかなかに心が満ち足りる。バカップルみたいなことか。たまにやると良いのかもしれない。周囲の凍てつく視線は容赦ないから、時と場所は気を付けないと。
そうこうしている内に夕方になった。
「そろそろ行くけど大丈夫?」
「では、私をエスコートしてください!」
僕たちは手を繋いだ。しかし、これは必ずこうなる。そう、身長差のせいで姉に手を引かれる年の離れた弟のようになってしまうのだ。他人と同じ形にこだわる必要はないけど、僕のプライドは若干傷ついていたりして。
「ここが目的地だよ!」
僕は彼女の目から手を離した。ここに近くなってからなんとか彼女の視界を遮ったのだ。ドキドキ感を味わって欲しかったし。
「綺麗」
彼女はその景色から視線を逸らすこと無く、ぽつりと呟いた。
僕が彼女に見せたかった景色は夕日が沈む頃の雪景色だったのだ。今僕たちのいるところから見ると雪が光を反射したその淡い光で木々に花が咲いているかのように見えるのだ。
普通のお花見とはまた違った、少しは幻想的に見えるお花見。
「気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ」
「これって冬なのに春みたいだね!」
「そうだよね! 僕は一足、いや何歩も早く花を味わえるこの景色が好きなんだ」
突然シュネがこっちに向かって走ってきた。
「直奈くん、これが私からのお礼ね!」
シュネはその言葉と同時に僕の頬にキスをした。
突然のことで思考が停止し、反応の出来なかった僕の神経が急に反応し出した。キスされた部分はなんとも言えない感覚があり、全身から湯気でも立ち上っていそうだ。幸せを感じすぎてこの後何かが起こりそうで少し怖いくらいだ。
シュネの方を見ると彼女もまた照れていた。今なら彼女を抱きしめられる。そして、僕からも彼女の頬にキスをした。すごく恥ずかしいんだな、キスって。
「そ、それじゃあ、お礼にならないよぉ」
「いつもそばに居てくれるだけで、十分過ぎるよ!」
「ありがと」
「こちらこそ!」
見詰め合ったまま時間が経った。お互い凄く恥ずかしい筈なのだが、この時間を終わらせたくない気もする。しかし、あまり遅くまで彼女を家に帰らせないのも不味いと思いそろそろ帰ろうと伝えた。
「ここら辺で大丈夫。今日はありがとね、直奈くん!」
「うん! じゃあね」
「じゃあね!」
自宅への帰り道、僕は今の自分の幸せを感謝していた。
しかし、その時間を壊されてしまう時がすぐに来ることを僕は、僕たちはは誰もまだ知らなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます