表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

銃把

 鳴動する携帯電話が、僕に実行の時を告げる。


 フロントでチェックアウトを済ませて、ホテルを後にする。重く垂れ込める雲が陰鬱な火曜の昼下がりだった。



 まばらな人々の流れに逆らって、地下鉄への下り階段を視界に捉えた。今日は無造作に階段を降り始める。


 暗闇から吹き上げる風を受けても、いつもの様に周囲の時間の流れが変わることはなかった。


 擦れ違う人々の顔は滲んで不鮮明にしか映らず、駅構内の売店の店員もただぼんやりと佇んでいるだけ。


 機械的に身体を動かして、指定された車両の乗車位置で足を止める。



 今日も僕は左手に花束を持って、プラットフォームに佇む。


 無光の暗闇の向こうからこちらを照らす、二つの白い明かり。進入してくる車両と向かい合って立ち、真正面から突風を受け止める。


 車両が減速して、乗降口が僕の前に横滑りしてきた。



 扉が開くと同時に、一人の乗客が立ち上がるのが見えた。今回の「マーカー」は男性。小さな兎のぬいぐるみを置いて、立ち去って行った。


 その隣には……



 扉が開いてから二秒。


 標的は既に僕に気付いていた。


 驚きつつも、いささかの怯えも見せずにこちらを睨みつけている。


 こんな人だったのだろうか。



 先日と同じ動作で右手を花束に差し入れて、Glock 19を取り出した。ノーメイクに近いその相貌を、銃身越しに辛うじて捉える。


 あの日、視界の隅に捉えたささやかな幸せは、いまや抉るような鋭さで僕を貫いて離さない。



「待っていたわ。地下鉄に乗っていれば、会えると思って」


「……」



 呼吸が乱れて、銃身先端のサプレッサーが震える。



「どうしたの。早く撃ちなさいよ」


「……僕は」


「貴方のことなんて、どうでもいいの。私にはもう何もないんだから」



 見えない引力に右手が負けて、銃口が下がった。僕は何をしている。自分の左手が銃身を上から握るのを見た。


 強ばった右手からGlockを引き剥がすと、銃身を反転させて……



 その銃把グリップを標的の目の前に差し出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ