真 16 戦闘は開始……しなかった!?
相変わらずマイペースにやってます。やっぱ私には定時投稿は無理な様です。何か疑問があったら質問して下さい。
こっちに向かって勢い良く恐鳥が走ってくる。ステータスを見るまでもなくこちらより身体能力が高いだろう。何せ大人を大きく上回る体格で車並みの速度……いや、魔法をかけているのか、新幹線並みの速度で迫ってくるのだ。あれがぶつかれば車だって木っ端微塵に吹っ飛ぶんじゃないか……。
俺は先程と同じように思考加速、並列思考、理解を使って情報を正確にまとめていく。勘違いされそうだが、《理解》という能力は未来予知とか、そんなことが出来る様な力ではない。情報を読み取り、そこから何が可能なのか、何が最適解かを導くスキルなのだ。しかも、その能力は使用者のスペックに依存する。極論この世のすべてを理解すれば未来予知なんか出来そうなもんだが、自分自身の能力が邪魔をする。神でもなければこんなこと不可能だろうな。
その、《理解》とリンクさせて調べた恐鳥のステータスはこれだ。
NAME 無し ERROR 雌 恐鳥類 ケレンケン
※翻訳エラーの為あなたの母国語の中で近いと思われる生物の名前を表示しています
適正属性 無 動 反
HP 975/1032
MP 542/679
ATK 2380
※最大威力の攻撃を加えた場合の概数を表示しています
DEF 780
※部位によって大きく異なるので最大の耐久力及び防御力を持つ部位の概数を表示しています
MATK232
MDEF582
能力及び技能
《強靭な肉体》《頭突き》《フットワーク》
祝福及び加護
《平原の覇者》
※魔物のステータスについては対応していませんので、不正確です。可能ならばステータス魔法を改変してみませんか?
最後になんか広告的なものが出てる……なんでこんなものを付けてるんだ、イアさん!!……いや、よく考えたら人工知能がこれを表示してるのかもしれないけどな……それでもステータス魔法を改変って、人間でできるレベルじゃないぞ!?それこそ山奥で引きこもってるマッドな魔女とかみたいな、ある種の狂気を持っている人間が一生をかけてやっと改変の方法にたどり着くぐらいだろう。
……なんてったって、凡人の俺は悲しきかな、魔法をいじるのに千年以上かかったからな!説得力が違うぜ。
話を戻すが、恐鳥……ケレンケンは、主に「動」と「無」の魔法を使う様だ。イアさん曰くどちらも強力で、「動」は単純に速度や威力を増すことが出来、「無」はかなり出来ることが広いが恐鳥は主に能力強化に使う。俺もイアさんの戦闘訓練にスペックが追いつかず、底上げの為に真っ先に使いこなすことになった属性だ。
……このステータスに二つの身体能力を向上させる属性って……筋金入りの脳筋だな。俺はこの世界ではどうやら脳筋に縁があるようだ。
しかし、脳筋脳筋と悪口のように馬鹿にしてはいけない。どんなことでもそうだが、色んな物事を中途半端にやるよりも、一つの事を集中してやった方がより強くなるのだ。
その点で言うと、恐鳥の身体能力だけをただ磨くという生存戦略は、理にかなったものと言えよう。更にそのスペックを持ちながら、人間の有象無象の様に無駄な思考をすることなく、唯々本能の赴くままに戦うのだから恐ろしい。
俺の手札の中でこいつに勝てる能力は……かなり限られる。難しいな。身体能力を強化して投石をしてもいいが、魔力の枯渇のせいで強化幅が少ないし、「反」を持ってるから生半可な攻撃は全てブーメランだろう。攻撃は近接特化だから、される前に逃げるのは……無理か。今の俺が最大限身体強化して走っても精々高速道路の車が限界だろう。それも、走った後ぶっ倒れるのを前提としてだ。新幹線並みのあれには程遠いな。
様々な選択肢を考えては捨て、考えは捨てるを繰り返すうちに、おおよその方針が思い浮かんでいた。
それは、「相手の魔力を利用して相手を自己崩壊させる」、というものだ。自己強化系の魔法は案外繊細で、少しでも間違えると致命的な肉体の破損につながりやすい。
え?何でそんなこと知ってるかって?
……察してくれよ……修行で何回もイアさんに暴走させられて内臓がトマトみたいに内側から破裂しまくったんだよ……酷いときには首から下が木っ端微塵になった時もあったし……ああ、腱が一瞬で全部逝った時もあったな……。
コホン。ともかくそんな感じで身体強化については隅々まで知り尽くしている自信がある。今ではイアさんに強化魔法改竄されそうになっても常時上書きして持ちこたえることが出来るようになったしな。反対に相手の魔法を改竄することも自在にできる。
そして、なんといっても魔法の改竄にはあまり魔力を使わないのだ。改竄された魔法は最初に発動しようとした者の魔力を使って具現化する。つまり今の俺のように魔力が極めて少ない状況でも、書き換え出来るだけのごく少量の魔力が十分にあれば、何とかすることが出来るのだ。
今回も前回の落下の時と同じ様にタイミングが重要だ。これを外したら致命傷にならない可能性もある。そうなったら俺の魔力は完全に枯渇。今度こそあのどでかい嘴で頭を粉砕されて冥土行きだ。一応は万一に備えて横に飛ぶ用意もするが、気休めだろう。
よし。じゃあカウントを取ろう。三、二、一……
その時だ。
「大丈夫か!」
ガバッ!!
「ふぇ!?」
な、何が起きた……って、誰かの懐!?
咄嗟に視界を確認すると、さっきまで俺がいた所を猛スピードで駆けていく恐鳥、ケレンケンが見える。そうか。どうやらスピードを上げすぎたせいで小回りが利かない様だ。俺の予想では直角位にまでは身体強化で曲がれると思っていたが、どうやら思ったよりも魔法を使いこなせていないらしい。
しかし、これは、誰かが俺を抱き留めながらケレンケンの突進を躱したってことでいいんだよな?俺にそんな価値があるとは思えないが……
「はあ、はあ、いけません、王子様!」
そう遠くから走りながら叫ぶ声が聞こえると、俺を抱きしめている誰かはこう叫ぶ。王子様だと!?
「構うもんか!本来王って奴は民の平和を守るためにあるもんだろう?今回はその予行練習だ!」
恐る恐る俺を抱く誰かの顔を見上げてみると、そこには金髪の顔の整った……それこそ俺のクラスでもイケメンと認知されるレベルの青年がいた。
青年は、こっちを一瞥してニコッと笑うと、
「爺、この女の子を頼む!」
「はあ……仕方ないですね。このわたくしめが責任をもって安全を保障しましょう」
王子様と呼ばれた人……目の前の青年は爺に俺を預けると、背中にある剣を引き抜いて構え、刀身を煌めかせながら一直線にケレンケンの方へ向かっていく。
「ガアァァッ!」
ケレンケンは躱されたことに怒っているのか、先程よりも速いスピードで青年へと向かう。その様子は、もはや弾丸と言ってもいいだろう。
しかし、青年はそれに臆することなく、逆に速度を上げて走る。
「《身体強化》!!《閃光》!!」
「グワッ!?」
策はちゃんとあるようで、身体強化をした後に一瞬眩いほどの光が出現する。それをケレンケンはまともに受け目を閉じてしまう。
「今だ!《炎獄の剣》!!」
青年がそう叫ぶと、剣はその身から真っ赤な炎を躊躇なく噴出させる。舞う様に動く炎のそれは、正に『炎獄の剣』と言って差し支えのないものであった。
青年はそのまま、目をつぶったままのケレンケンめがけ、剣を勢いよく振り下ろす。
ゴオォォッ!
「グガァァァァッッッ!!!!」
直後、ケレンケンの断末魔が大地に轟く。
そして、ケレンケンは炎に身を焼かれ、骨も残らず消滅した。
青年は顕著させた魔法剣を元に戻しながら、こちらに駆け寄ってきた。
そしてニコニコしながら俺に質問する。
「君は何でこんなところにいたのかわかる?」
ここで正直に答えても絶対に信じてくれないと思うので、ここは記憶喪失ということにして、首を横に振る。何故言葉を発しないのかというと、それによって記憶喪失でない疑惑が生まれるかもしれないからだ。
……というのは建前で、実は面倒臭いのでさっさと寝たかったからだったりする。
「うーん……見たところ奴隷でもないし……もしかして何にも覚えてないとか?」
今度は首を縦に振る。転生とか使えないはずの魔法とか明らかに国家から敬遠される存在だしな。奴隷とかになる可能性もある。能ある鷹は爪を隠すっていうが、あながち面倒ごとを避けるって点では間違っていない。なるべく普通の子供を装うことにしよう。というか眠い
「名前は覚えてる?」
「トラシア」
そういうと、青年は困ったように頭を掻きながら、こう続ける。
「困ったな……魔物狩りの途中でこんな子に出会っちゃうなんてな……まあいいや。爺、この子城に迎えることにするよ」
「無茶さえしなければなんでも大歓迎ですよ!」
……こうして俺は、魔物の襲撃にあったと思ったらいつの間にかイケメンの城?に居候することになっちゃいました。なんか王子とか言ってたけど気のせいだよな……そういうことにしておこう。流石に転移して一日もしない内に王子に出会って王城に泊めてもらうとかどんだけ運がいいんだって話だしな。うん。召喚に失敗した様な俺がそんな幸運引き当てるわけないしな。取り敢えずまずはだるいから寝よう!起きてから考えるんだ!
俺は内心で現実逃避で一人合点した後、誰かにおんぶされ、いつしか眠りに落ちるのだった。
基本は書くのを最優先、ツイッターとか絵とかはおまけな感じで活動します。
脳内文章を正確にタイプするのが難しく、更に文を最初より丁寧に選んでいるせいで今は一時間に文字数が千行けばいい方です。




