王5 達人と先払い
かなり見にくかったので再修正しました。校正や推敲の大切さが作品を書いた今なら身に染みてわかります。
これからも頑張ります。
「それではくれぐれも頼んだよ?」
「約束は守るが、先払いの件は忘れていないよな?」
口約束でも取引相手が対価さえ出せば私は約束を守るし、相手の言ったことは信用する。これは前世からの癖だ。無論仕事の時だけだし、私ほどのベテランだと情報が違った場合でも対処が容易だったからだ。それでもやはりこいつは信用というよりは「警戒」すべき相手だろう。未だ能力の詳細は判明せず、こちらの素性はほぼバレていた。しかも周囲の環境は「魔法」など摩訶不思議な力がある世界ときた。十二分に警戒しよう。未だ得体の知れない刻宮からの情報はあっていたらいいなという程度で行くことにする。
……刻宮からの情報は。
しかし今は相手からの情報を集めるのが優先だ。情報源は構ってられない。選別はあとだ。
「こっちとしては右も左もわからない状態でな、先に刻宮からこの世界についてご教授願いたいわけだ」
「無論最初からそのつもりだよ……《沈黙の部屋》」
その瞬間二人の体が光に包まれる。いや、この部屋全体を包んだと言った方がいいだろう。刻宮に気付かれないようにしながら警戒を最大限に引き上げる。
「……ああ、これは中二病とか痛々しいものではないよ。音が漏れない魔法をかけただけさ。確かにかなりダサいとは思うけどね……。昔……とは言ってもここでは千年単位のことらしくて今は伝説でしかないけど……地球から来た人がいたようでね、こんな魔法が残っているんだよ」
すっごく簡単に魔法を使いやがった。もしかしたら案外魔法は誰にでも使えるのかもしれないな。どっちにしろ使えない今は危険だがな。
しかし、このクッソダサいネーミングの魔法ももしかしたら罠かもしれないし、なにかの布石を仕込んでいる可能性もあるから笑うに笑えない冗談だ……。
因みに他にも地球から来た人がいるのは、何より私がここに来ることができたのだから、他の人が以前に召喚されたり転生したことは否定できなかったし、納得の理由だ。嘘をついている可能性は低いだろう。
だが、刻宮の話が本当なら異世界に行く途中で時空の歪みでも起こるというのか?地球上で英語が最初に使われた時期はどう考えても千年も前ではない。興味深いな。これなら刻宮が何百年こちらで過ごしたとしても地球では一瞬にすることができる。
刻宮はひょっとするとこれを使って何度も異世界と地球を往復しているのかもしれない。そうすれば昔の私を知っていることにも合点が……いや、それでは昔の私と今の私、「一 達人」がつながらないな。未来から帰ってきたとしても刻宮が二人いるパラドックスだ。こうなれば並行世界があると仮定するか?
駄目だ。今の状況を例えると不適切な表現を承知で言うが、正に「頭痛が痛い」ような感じだ。どう考えても矛盾してしまう。今は情報が少なすぎて無理そうだ。
「まず、この世界について。最初に前の世界との違いを述べていくと、魔法があるし、魔獣や亜人、ダンジョン、そして君もご存知であろう先のステータス……そんなゲームみたいなものも本当にある。そんな世界だよ。ちなみに魔族は亜人の一種だね。ただ、科学技術はそんなには発達していないよ。何せ魔法が便利すぎるんでね。一番発達している部門でも産業革命前のレベルだ。それも古代遺跡のオーパーツでなんとかしている様な状況だよ
要するにこの惑星を簡潔に紹介するなら……文明は中世レベルの剣と魔法の世界って感じ。異世界転生物のテンプレって言ったほうがわかりやすいかな?」
「ほう」
テンプレか。その手のもので定番の世界観って事だ。ダークなもののそれじゃなければいいが。
「さて、簡単にこの世界の概要をさらったし、次に君が今一番知りたい魔法について教えてあげよう。魔法は『自然で起こっている事象を魔力を使い人工的に再現する力』と言われているね。正直これはちょっと私はおかしいと思うけどね」
「何故?」
「そういう理屈の意味がない敵に会ったことがあるんだ。魔法には『火』とか、『水』みたいに属性って言うものがあるんだけどね、その属性ははっきり言って世界の法則が通用しなかった。
一応忠告だけど、『邪』っていう属性にあったら即逃げた方がいいよ。他の属性とは全く違うから、同じだと侮っていると死ぬ」
「……」
刻宮がなぜそんなことを知っているのかはともかく、妙に現実味を帯びてるな……まるで以前本当にそんな目にあったようだ。先のやりとりで私が意識し過ぎているだけなのだろうか。でも「邪」については有益な情報だと思うので脳内に留めておくとしよう。相手の属性がわかる保証はどこにもないが。
「脱線してしまったね、魔法の説明に戻るよ。この世界で使われている魔法は大きくわけて魔法陣を使うものと使わないものの二種類。一般的には前者を魔術、後者を魔法と呼んでいるね。魔術はどこかに物理的に特殊な模様、つまり魔法陣を描いてそこに魔力を流し込んで、詠唱や頭の中で念じる様な何かしらのアクションをスイッチとして発動する。魔法に比べて威力、精密性が高いし、大勢の人が協力して一つの物を作ることが出来るから大規模なものも作りやすい。でも時間がかかるんだ。でかくすればするほど、精密にすればするほど、強力にすればするほど。結局は物理的に描くものだからね。
まあ、そんな物あらかじめ準備でもしないと実戦ではでくの棒だ。そこで出てくるのがもう一方の魔法ってこと。魔法は魔法陣の代わりに詠唱と言って言葉を唱えて魔法陣の代わりにする。これなら質は落ちるけど、慣れれば瞬時に魔法を構築して放てるんだ。だからこの世界の戦闘ではこちらがメインだね。
例外として無詠唱なんて代物もあるけど基本的に脳のスペックが人知を超えた者が使う技術だし亜人とも言えど不可能に近い技術だから心配はしなくていいよ」
なるほど、詠唱が殆どの場合必要なのか。これがわかっただけでも僥倖だ。耳を澄まして、相手の口元も警戒すればかなり防ぐことが出来るわけだ。魔王の様な者は無詠唱できる気がするし、本当の強者には通じないだろうがな。
「一つ質問していいか」
「?」
「魔法の属性とか言ったな。それ、どれ位種類があるんだ?」
どんな魔法が来るか事前にわかっていればある程度対策ができるからな。まあ『自然に起こっている事象を人工的に再現する力』だ。やろうと思えば何でもできそうなので期待はしない。
「最初に断っておくけど、魔法は大体のことが出来る。私達が集団で異世界に誘拐されたのがその格好の例だね。だから私が言ったもの以外にも理論上可能なことなら全部警戒する必要がある。これをしっかりと理解して欲しい。
私が知っている分だけ言うと、毒、水、火、風、土、氷、電、聖、闇、無、邪、空間、時、重、理、増、止、反、動、静、変……位だ。でも魔法はかなり自由だから、私が見たこと無くてももっと凄い属性があるかもしれないから。ここで聞いてなかった属性が出てきても驚かないようにね?」
「空間に重力……それに時ときた。本当になんでもありなんだな」
「強い属性はそれだけ魔力を消費するから。魔法には初級、下級、中級、上級、古代級、超級、神級って感じで威力や範囲、強さで階級がある。その一番弱い初級魔法ですら、強い属性と弱い属性では数千倍必要な魔力が違うんだ。だからなんでもありが強いってわけじゃないよ。空間魔法を持ってるか持っていないかで近接戦では次元が違う戦いになる、みたいなものはあるけどね。でも普通の人間はそんな強力な属性持ってないよ。たとえそれが勇者だったとしてもね」
空間魔法とまで言うのなら、転移もできるだろう。転移ができれば遠くにいながらゼロ距離で攻撃を打ち込んだり、相手の攻撃を丸々転移させて返したりできる。とんでもない戦いになるのは考えなくてもわかる。持つ者と持たざる者の違いは鮮明だろう。それ以外にも何となくわかるものでは時や重力もやばいだろうな。火とか土属性も地球人から見たらかなり強いと思うが。
でもやはりここまで教えて貰ったからには一番聞きたいことがある。
「魔法……俺に使えるのか?」
何でもできる力を使えるかも知れないのだ、これを質問せずに何を質問するのか。どんな魔法が使えても多少は役に立つはずだ。
「勿論。でもその前に説明しやすくなるからまずは君のステータスを見てみようか《基本を一とし彼の能力を開示せよ》」
途端体が一瞬ゾクッとし瞬間警戒を最大限に引き上げる。しかし数秒も経たずに目の前に出現した光の板に書いていることを見たら、拍子抜けした。そこには「ステータスを刻宮 未来に開示しますか?」と書いていたのだ。現代日本でもこんなこと不可能だろう。やはり魔法は規格外……が、それよりも前に一つ質問しなければならない。
「ちょっと待て」
「なんだい?」
「ステータス魔法は『鑑定者』専用の魔法ではなかったのか?」
「ああ、あの話ね。実は昔は誰でもステータスを気軽に調べられたんだ。でも、時が経つにつれて情報は捻じ曲げられて、途中で実際にこの魔法の劣化版で何かパスワードを言わなければ発動しないステータス魔法も作られたんだ。私が今使っている方は誰にでもできるよ。勿論された人は意思があれば見せるのを拒否することも出来るし。君の場合は僕の言葉を聞いて警戒でもしたんだろうけど……。本っ当にこの魔法、誰が作ったのか今でも不思議だよ。もしかしたら神様が作ったのかもね」
昔は誰でも使えたか……何か作為的なものを感じるな。そうすることによって誰が利益を得るのか検討の余地がある。でも誰でも使えるなら……
「勿論俺も使えるよな?」
「使えるけど、私に教えたくないのならそれは無駄だよ。ここでではないけど一回タツジンにかけたことがあるんだ。君は暗殺、武術、権謀術数に優れていて、前世の記憶もある。他にもいろいろ言えるけど、まあこれくらい言えば私の言いたいことは判るでしょ」
つまり隠しても無駄だしあんたのことは全部知ってるといいたいのか。まあそれは想定内だし、役立つ場面は必ずある魔法なので、ここで教えてもらわない選択肢は存在しない。
「それでも頼む」
「しょうがないね。とは言っても簡単なんだけどね。まず体の中の魔力を感じる。丹田のあたりを中心に血液の流れを意識すればなんとなくわかるとは思うよ」
言われたとおりにすると、すぐにそれは見つかった。体に異常な量の血液が流れているようでゾクッとする。この身体が燃えるような感覚は人を選ぶだろう。心臓が脈打っているような感覚を覚える人もいれば血液が体から流れ出て燃えていく錯覚を覚えてトラウマになる人もいるに違いない。私は両方なので少し複雑だ。
「それを意識して口に集中させて、《|基本を一とし(ステータス彼の能力を開示せよ》というんだ」
口元に集中……かなり難しい。まるで一定方向に流れているはずのものを無理矢理逆流させてかき集めているようだ。どうせ、これも異世界転生小説のステレオタイプでやればやるほどうまくなるんだろうか。そういえば前見た異世界転生小説はテンプレ展開ばっかだが面白かったな。テンプレの癖して何故かセンスが光ってた。名前は忘れたが主人公の名前はゴミだったっけ。
いかんいかん。集中しなければ。
そのまま魔力を最大限に集めて丁寧に一言ずつ言う。
「《|基本を一とし(ステータス彼の能力を開示せよ》」
すると、目の前……ではなく今度は脳内に直接ステータスらしきイメージが送られてくる。内容は以下の通り。
NAME 一 達人 16歳 男 暗殺者(適正)、師範代(適正) 人間
適正属性 毒 水 土 闇 無 増 止 反
HP 350/350 57000
MP 248/250 45000
ATK 780 98000
DEF 320 42000
MATK 350 34000
MDEF 560 56000
能力及び技能
《武術全般》《隠密》《気配察知》《思考加速》《仙人の部屋》《化けの皮》《ポーカーフェイス》
祝福及び加護
《勇者》《召喚されし者》《女神の加護》《転生者》
基準がわからないのでどのくらいの強さなのかわからないが、刻宮曰く……
「流石に勇者といえるだけはあるだろうよ。魔法以外の人間の成人男性のステータスの平均が100前後だし魔法系のステータスはさらに低くて50前後。しかもその横の数字もそんなに大きくなりはしない。精々四桁止まりだよ。魔法の適性も無、増、止、反の四つは誰でも持っているから除くとして他の適性は一、二個あれば多い方。そこを四つも持ってるんだからね。それに普通能力及び技能……平たく言えばスキルだね……をこんなに持っている人は殆どいないし」
なかなかに強いらしい。当たり前だ。戦わなければ生き残れないような時代に生まれたのだから。それに他の人より百年も修行を積んでいるのだ。
ステータスを見ながらこれからのことについて考えていると、刻宮が話しかけてくる。
「私のも見せてあげる。あまり参考にはならないと思うけど」
そういうと光の板をこちらに見せてきた。
NAME 刻宮 未来 16歳 女 ERROR eurtrwTWTEUYyuihu]u9 人間
適正属性 tomnaeuugtwjkhi kjret68;3:: 4io6 :@]a /p447 k84yb i47tag
HP ERROR
MP ERROR
ATK ERROR
DEF ERROR
MATK ERROR
MDEF ERROR
能力及び技能
《aweugi^-045》《ak8775qr/kpo》《o8475q@-\》
祝福及び加護
ERROR
【能力の解析に失敗しました】【フィードバックに失敗しました】【不完全に能力を表示します】
「まあいろいろと不便な呪いが掛かってるんだよ。こればっかりはしょうがない」
偽装を疑い聞き取れない音量で詠唱してみたが、
【能力の解析に失敗しました】
【原因をチェックしています】
【失敗しました】
【失敗しました】
【再読み込みに失敗しました】
【レジストされました】
と出るばかり。
どんどん刻宮のことが信用出来なくなってきた。自分で神様が作ったとか言ってただろうに……
何度も考えたが、現時点では刻宮の正体を知ることは不可能だ。相手がぼろを出すのを待とう。それよりも今はできるだけ刻宮から情報を得ることに集中する。
こうしてその後も刻宮に魔族のステータスやこの世界の常識などについて尋ねた。ステータス上ではこちらがかなり有利だ。数字だけなので正確な実力ではないだろうが、ある程度の参考にはなるだろう。他のクラスメイトは殺し合いなんかしたことないだろうから戦力的には論外として、色々と作戦もたてた。
そして私は最後の質問をする。
「最後に聞きたいことがあるんだが……」
「なんだい?」
何度も繰り返すが刻宮からの情報には疑問が残る。
「蔵書室でも書庫でも何でもいい。この城の本を保管している場所と警備を教えてくれ。無かったら別にいいし、間違った情報でも予定通りだが」
「……君ならそれ位するとわかってるし別にいいけど、少しは私のこと信用したらどうだい?」
……刻宮からの情報は。
いつも読んでくださってありがとうございます。エタりはしませんが環境の変化で生活リズムが取れていないので更新頻度減るかもです。
王 次回予告
魔族との戦い。想定外の出来事、翻弄される勇者達。そして目覚める覚醒者……事態は誰もが予想しない展開に!
次回、王6!乞うご期待
……やってみたかっただけです。三話後に思い出してください。




