真 8 器合わせ
タイピングの上達のおかげか書ける量が増えた気がします。
5000PV、ブクマ30件、累計80ptありがとうございます!やっぱり評価見るとテンション上がります!
小鳥の声か。どこからか、ちゅんちゅんと可愛らしい声が聞こえる。又、その中にはときたまオオカミの遠吠えらしきものも混じっている。これは俗にいう朝チュンってやつか。フッ、昨日は激しい夜だったぜて…そんなことないか。こういう朝チュンの相場は七割が只の目覚め。後の二割も事に及んでないことが多いんだ。一割は爆発しろ。
静かに目を開けた。夢か。訳の分からない夢だった。身に覚えのないような映像、声。それでいて、目を瞑りたくなるような地獄。そんな中でも何故かかすかに感じる懐かしさ。どうやら、あの少年は俺と知り合いなのかもしれない。俺の方は覚えてないけどね。
…すべてが理解不能だった。これも異世界に召喚されてしまった所為とするのは、聊か浅慮だろうか。
そう思うと、ふと日本にいる家族のことが気にかかった。父さんと母さん、そして中学になったばかりの妹だ。名前はそれぞれ実、恵真。そして二人の名前を合わせた妹の真実だ。最高の家族だ。父さんは優しいが芯はしっかりとしていて、ダメなことはダメと言ってくれる。母さんも、そんな父さんと同じくらい優しい。中学校時代は母さんに何度助けられたことか。そして自慢の妹、真実。ちょっと前までは生粋のお兄ちゃん子だったが、最近話を聞いてくれなかったりする。思春期なのだろうが、少し寂しい。それにしてもみんな元気だろうか。そう思うと、憂鬱な気分になってしまった。
いかんいかん。異世界転生(もともとのベースは同じだとしても体としては全く違うものになってしまったのだから実質転生と言っても過言ではないだろう。)二日目にして、早ホームシックか俺は。しかも、こんなセンチメンタルなこと朝に考えてしまうと調子が下がるぞ。無理にでもポジティブシンキングを保つか何かして冷静になろう。ほら、どこかの本の主人公が言ってた。ステイ・クールとね。冷静になろう。
少し考えを落ち着かせていると、イアさんが入ってきた。
「あら、もう起きてるなんて。朝が早いのね。」
実を言うと、俺は朝型で、どんなに遅くに寝ても同じ時間に起きないと済まない質の人間なのだ。しかし、この世界の一日は三十時間。どうやら少し睡眠時間が短かったようだ。今は少々睡眠不足だ。
「じゃあ、朝ご飯を食べたら『器合わせ』行うとしましょうか。」
「ハイ!」
あれ?なにか重要なことを聞いてないような...思い出せ、思い出すんだ!じゃないとこういう悪い予感、直感は異世界では往々にしてフラグとなるんだ!!!
そんなことをボヤいてた時期が私にもありました。異世界二度目?か三度目の着替え。一瞬「…た…た〇がねぇ…!ち〇も…!」とか言いそうになって止めた俺は凄いと思う。
そして食事なんだが…
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ。「俺は異世界で食事をとっていたと思っていたら全ての思考を停止して宇宙でリアクションをとっていた」
な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何をされたかわからなかった。催眠術だとか超スピードだとかそんなちゃちなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
それにしても何!?あのソーセージらしきもの!使ってる肉がソーセージじゃあ割に合わないほどジューシーで美味かったんだけど!それにあのスクランブルエッグ!卵がこれでもかという濃厚なコクを持っていて、日本の十個百円卵にはもう戻れないんだけど!!さらに特筆すべきなのはイアさんの優しさ!!異世界転生してきた俺を気遣って、他の異世界転生した人から教えてもらった料理をわざわざ作ってくれた!!おかげでホームシックも何もかも吹き飛んだぜ!!
と、いうわけで!!!
これから考えるのを止めて器合わせをやる。俺はベッドでイアさんの指示通り寝たままにしている。前の界渡りでは準備期間とかがなかったから訳も分からず地獄直行だったが、今回は違う。やっぱこういうことって緊張するなあ。
「準備は言いかしら。いくら界渡りより楽といっても界渡り同様『自分が自分の心の深淵を利用して自分を壊してくる』から油断しないようにね。一回目は糞神の加護のおかげで最も心が折れるそこが省かれたのよ。あなたの加護も少し件の界渡りで弱まってるし、絶対に心を折られないようにね。心を折られたら、自分の黒い面が覚醒し暴走して、全ての潜在能力を使って災害を起こすことになるから。周りの被害も甚大よ。そうなったら絶望から何とか一人で戻るか、あなたを殺すか封印するしかないわ。」
なるほど。いい話にはリスクがつきものってか。覚悟を決めなきゃな。それにしても回りくどい言い方だな。『自分が自分の心の深淵を利用して自分を壊してくる』か。ファンタジーとかでよく見るもう一人の黒い自分との闘いみたいなものか。
「行くわよ。」
そう言ってイアさんが背中の後ろに手を置いて抱きしめるような形になった途端、イアさんの中から得体の知れない「何か」が入り込んできた。それにしてもイアさんいい匂い。
「入ってきたかしら。これが魔力とか魔素とか言われてるものよ。魔法、魔術の元なの。ここから量を増やしていくと、意識が飛ぶから精神世界では注意してね。」
意識とぶのが前提…っていうか考える暇がない!!どんどん送られてくる量が増えていって
不意にプツリと意識が途絶えた。
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目を開けると、正面には前世の(日本の)肉体らしき俺がいた。と、いうかそいつしか何故か知覚できない。目の前の俺は女ぽくも男っぽくも見える。少し女性よりの造形だった俺より、中性に近い姿形をしているようだ。こういう容姿になりたかったなとしみじみ思う。でもなんか表情が暗い。俺の黒い面だからかな?そいつは妙に憂鬱な声で言った。
「よう、俺。」
思わず衝動的に言葉を返す。
「よう、俺ってか。日本の容姿とはずいぶん違うな。」
「それは、これが本来お前が為りたかった容姿だからだ。だっててめえは、生まれた時から妙に女々しかったもんな?」
見事にこちらの気に障る言葉を言ってくる。いかん、ここは冷静に…ああ、でもつい言ってしまう。
「何のつもりだ。」
「はぁーあ。どれだけ自分を偽れば済む気だ。見てて黒い俺が心苦しいくらいだぜ。」
???自分を偽る?何のことを言ってるんだ?
「確かに容姿には満足していなかった。恐らく容姿の劣等感がお前を生んだに違いない。けど、それでいじめられたり、重大な事件とかは中学校の件以外起こってない。今度はこちらから聞きたい。どこが偽っているんだ?」
「それこそ、心の深淵にかかわることだぜ。俺程度じゃ、あの神…本当にいい神様なのか考えたほうがいいんじゃないか?…に張られたお前の心の結界を切り開くことはできない。恐らく、次の界渡りでぶっ壊れるんじゃないかな。」
なるほど。心の深淵か。
「ここは神様に結界を張られていてよかった、とでもいうべきかな?」
「ハッ!もしかしたら後悔するかもしれないぜ?あの時見ておけば、こんなところでやらなければ、てな。
まあ、最悪の場合を防ぐためには、自分の心の支えを増やすことだな。守りたいものとか、守られてるものとか。そういうもので心は頑丈になっていく。黒い感情の塊が言うのもなんだけど、頑張れよ。」
「忠告、ありがたく受け取っておくよ。」
これじゃあ弱いキャラとかが立てるフラグみたいな言い方になっちゃったな…まあいいか。なんか黒い俺、いい奴に見えて来たぞ。
「最後に一つ。お前の心の深淵は恐ろしく深いぜ。俺が糞なぐらいな。じゃあな。」
「あまっ…………………
言い終わらない内に、目の前から黒い自分は消えていった。そして意識も徐々に覚醒していった。
思ったより加護の影響で器合わせが楽だった模様。そろそろ、他のサブタイトルのやつも入れていきたいところです。と、いうか一つの独立した小説として出そうか迷っています。考え中なものは、「再」、そして「正」程度です。確定的に決まっているものは、「獄」、「神」、「時」。それぞれの主人公は果たして誰でしょうか。わかりやすいものもありますが、そうでないものは予想してみてください。
…あくまで予定なので、参考程度に…ね?




