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朝起きたら遊びに来ていた幼馴染が犬耳しっぽの女の子になっていたのだが、どうすればいいだろうか?

作者: 山木 深

部活の短編なり


朝起きたら遊びに来ていた幼馴染が犬耳しっぽの女の子になっていたのだが、どうすればいいだろうか?


なんてモノローグで始めてみたりしたものだが混乱は収まらない。昔の人は自分より混乱している人を見ると落ち着くなんて言ったけど、あれは嘘だと思う。現に僕は僕よりよっぽど混乱している幼馴染を前にしてもぜんぜん冷静になれないでいるのだから。


「ね、ねえ。私は誰?あなたは誰?あははは、わかんない!?」


うん、でもとりあえず、有希を落ち着けることから始めようか。



※  ※       ※       ※       ※       ※      ※   


なんとか自分と有希を落ち着かせると、今度は別の問題が浮上してきた。それは、なぜ突然こんなことになったのか、ということだ。


「ねえ、有希はどうしてそうなったのか、心あたりはない?」


「あるわけないでしょう。あったりしたらあなたに助けを求めたりしないわよ」


いつも通り、クールに返してくる。ただ、犬耳としっぽはしゅんとしおれている。

気になるけれど無視して話を進めていく。

そこからいろいろと話しあってみたけれども、結論は出ない。そうして時間が過ぎて行って2,3時間ほどたったとき、ふいに、キュルルゥーという音が響いた。大抵のアニメや漫画、小説ではこういう時に鳴るのは有希のお腹何だろうけど、今音を出したのは僕のお腹だった。

思わず赤くなる顔を手で覆い隠し小さくひゃあと悲鳴を上げてうずくまる。それを聞いて、有希は、はぁとため息を一つ。そして一言。


「本当は女の子なのではないかとたまに本気で思うわ」


心の中でうるさいと反論してみてからちらっとのぞいてみれば、犬耳をぴょこぴょこさせていた。そして、じっと僕の目を見たかと思うと、立ち上がった。おどろいてびくっとなった僕をちらっと見てくるもすぐに視線を外すとてくてくと台所に歩いて行った。

しっぽは垂れていた。

僕はふぅと息を吐いて、つい力んでいた体の力を抜いた。

瞬間、腕をつかまれて引っ張り上げられて腰が抜けそうになった。

手をつかんだ相手を見てみれば、やっぱり有希だった。というか今僕の家には僕をのぞいたら有希しかいなかった。


「外出するわよ」


「え、ちょ、え!?わ、わわ。どこ行くのさ!」


そんな僕の抗議などどこ吹く風とばかりに引っ張っていき僕にジャンパーを放り投げると、有希自身はなぜか僕のパーカーを羽織っていた。そのままさっさと出て行ってしまったので、僕は急いでジャンパーを着ると靴を履き追いかけた。

幸い玄関を出てすぐで待っていてくれたので見失ったりはしなかった。

追いついて声をかけるも、ちらと僕を確認するとそのまま歩き出す。少し早歩きになって隣に並び何で家を出たのかと尋ねてみると。


「あなた、少しは家に食材置いておいた方がいいわよ」


とだけ、言った。それを聞いてようやく僕はなるほどと合点がいった。このGWの間父さんと母さんは旅行でいないから料理をする気が全くなかったので補充をしてなかったのだ。といってもそもそも料理はできないから買うだけなのだけれども。まあつまり、あの閑散とした冷蔵庫の中身を見たから買い物にでも行こうと、そういうことなのだろう。

なんて思っていたけれども。どうやら有希も料理は出来ないらしい。なんといったってまっすぐファミレスに向かっているのだから。

と、風が吹いた。それほど強いわけでもない、せいぜいが服を少しめくる程度の、そんな風。けれどそれは、有希のフードをめくるのには十分なくらいで。わずかに遅れた僕の手がフードを被らせた時には遅くて。バッと周りを見てみれば、誰もが驚愕の表情でこちらを、はっきり言うのならば有希のことを見ていた。僕は一瞬で動揺を押し殺すと、固まったままでいる有希の手を掴み、駆け出した。

犬耳はぴこぴこしてて、しっぽはぶんぶんとふられてた。


※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※


駆け回って息が切れて日も暮れかけてきた頃。ようやく立ち止まった。

はぁ、はぁ、と必死に酸素を吸い込む音だけが誰もいない公園に響く。僕は地面に大の字で倒れていて、有希も同じように倒れていた。はぁ、はぁ、という声が、ふぅ、ふぅ、という声に変って、さらに少し時間がたって完全に呼吸が整ったのを確認して話し始めた。


「疲れたね。いきなり風が吹くんだもんさ、おどろいちゃうよね」


返事はない。

犬耳と、しっぽがぴくっとなったのを視界の端っこにとらえながら、続ける。


「僕ね、うれしかった。有希が僕を頼ってくれたの、うれしかった。ほら、僕ってなよなよしてるしちびだし。はっきり言って頼りないから」


ぽつりぽつりと僕のつぶやきがこぼれる。それを、有希はただ静かに聞いている。手で地面を押し、体を起こし、ぼうっと空を見た。

しっぽが一度、ぽふん、と地面をたたく音が聞こえた。


「でもね、僕、察しが悪いから、有希の考えに全然気づけない。言ってくれないとわからないんだ。だから、さ。教えてよ。今、有希は何がしたいのか。なにを思っているのか。そうしてくれれば、僕はその問題を解決するために全力を尽くすから。ダメだったら一緒になっていっぱい泣いて、いっぱい悔しがるから」


そう言って、口をつぐんだ。僕は心のうちに秘めていた想いを、全てさらけ出した。


「…………ない」


「え?」


唐突に有希が何かを話し始めた。


「頼りなくなんか、ない」


ぐっ、と体を丸めて、一気に立ち上がった。いつものように腰に両手をあてた、いわゆる仁王立ちってやつをしながら僕を見下ろす。でも、その目は、その表情は、いつもみたいに凛として自信にあふれているものじゃなくて、不安そうで、何かに迷っているかのように視線をきょろきょろとさまよわせていた。

しっぽや犬耳もゆらゆらと揺れている。

気になった僕が口を開こうとするも。


「ちょっと、まって。今すごく、すっごく大切なことを考えてるの」


先に話し始められて、ついでに言外に静かにしろと告げてくる。しょうがないので黙る。無言の時間が過ぎることしばし。ようやく有希が口を開く。


「私は、あなたが好き」


唐突に告白が始まった。頭の中が真っ白になる。何故、とか、ありえない、とか、嘘じゃないのか、とか、いろいろな言葉が頭をよぎっては消えていく。考えが堂々巡りをして、頭の中が真っ白になる。

と、有希がはぁ、とため息をひとつ。


「あなたが今何を考えているのかだいたい分かるけど、少しは落ち着きなさい。そんな顔芸をしたって見るのは私だけよ」


「あ、うん。ごめん………」


「別に謝罪を求めているわけではないわ。落ち着いてと、そう言っているだけよ」


「わ、わかった」


「そう、ならいいわ」


また静かになる。僕は立ち上がる。パンパンとズボンについてしまった砂を払い、有希の方に向き直る。


「有希は、僕のことが好き、なんだよね。だったら、僕の答えはひとつだよ。僕も、有希が好き。大好き」


「本当?ほんとにほんと?」


「うん。ほんとにほんと。有希以外なんて考えられないし、考えるつもりもない。僕は世界で一番誰よりも有希が好きだ」


「そっか。………ありがと」


そう言って、有希は僕に抱き着いてきた。僕の首に腕を回し、肩甲骨のあたりで交差ささてギュッとしてきた。お返しとばかりに、僕も同じようにギュッとする。

犬耳としっぽが生えて、有希の精神が不安定になったからこうなったと思うと、なんだかこの犬耳としっぽがかわいく思えてきて、ありがと、とぶんぶん振られているのを触ったら、殴られた。解せぬ。


【後日談】


そのままこそこそと家に帰った僕と有希は、何も食べずに布団に直行。ばたんきゅーと一緒に寝てしまった。

次の日、起きて、一緒に寝ていることに驚いた有希に蹴られて起きた僕は、そこで犬耳としっぽがないことに気づいた。それを有希に伝えると、驚いて体をぺたぺた触っていた。本当に毛下も形もなくなっていることがわかると、二人で首をかしげて笑った。

結局、僕と有希はそのことぉ僕たち二人だけの秘密にすることにした。

でも、たった一日、もっと詳しく言うなら半日みたいなものだけど、なんというかすごい良い日だった。また、そんな日が来たら面白そうだ。


数少ない男の子視点の小説でござる

感想誤字脱字待っておる

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