片一方
恵実が出て行ってから、1人で洗濯、掃除、自炊と一人暮らしをしていた。初めての一人暮らし。今まで誰かに頼って生きてきた葵にとって、なんでも一人で行わなければならない生活は新鮮であったが、戸惑いもあったしどことなく寂しい気持ちがあった。家には、恵実と二人が住んでいた面影がたくさん残っていた。その面影を片付けながら、恵実には悪い事をしたなと、悲しい想いをさせたなと思い返す事が多々あった。夜、一人きりにさせていた事。そして一人であてにならない将来像を描きながら、寂しい想いをしながら生きていたんだなと恵実の事を考えると申し訳ない気持ちと切なさで胸が詰まった。しかし、葵にとって後悔はなかった。今まで一方的な片思いの恋、そして思われる恋をしてきた中で、お互いが想いあえる恋に初めて出会えたみどりと歩んでいける喜びを知った葵にとって後悔はなかった。正直に生きる。嘘はつかない。本当に好きな人と一緒になれる。後悔はなかった。
今まで、みどりと会うためには色々と試行錯誤をし、両家にばれないように気を配らなければならなかった。恵実に気付かれないように、色々と気を配り、その中でもみどりと会うために時間を作った。みどりも葵と一緒の時間をすごす為に、家事などを早めに片づけ、そして仕事の休暇をとったりして時間を作っていたが、葵が恵実と別れた事で二人が会うのに障害が一つ無くなり、より一層恋が激しさを増した。
しかし、そんな二人の生活をする中で、一つ変わった事がある。今までは両不倫だった事に対し、葵が離婚した事で片不倫に変わったのだ。みどりで満たされない心の隙間風を恵実がいた事により防いでいたが、恵実と別れた事で、みどりと一緒にいない時間が、葵にとってとても寒く感じた。みどりには守るべき家族がある。一緒にいてくれる家族がいる。しかし、自分はみどりしかいない。しかもみどりとは限られた時間しか会えず、あとの時間は隙間風に当たる。そんな生活が時に辛く感じた。しかし、みどりと会うとそんな辛い気持ちも忘れてしまう。この心から幸せに思える瞬間、この時間の為に自分は一つの決断をしたのだと、みどりと会うたびに思い返すのだ。みどりの事を心から好きなんだと。これは自分が望んだ事なんだと。