本当の恋の始まり。
「こんばんは」
仕事終わりに、深夜のコンビニの駐車場に来たみどりは、葵の車のドア越しに葵に向かって声をかけた。
「どうぞ。乗ってください。」
葵はみどりに声をかけた。しかし、みどりはなかなか葵の車に乗ろうとはしなかった。深夜、男性の車に二人きり、社員とパートナーとの関係、色々考える事はあるのだろうか。しかしゆっくりとだが、恐る恐る葵のドアに手をかけて、葵の車の助手席に腰を下ろした。
「来てくれてありがとう。どうしてもみどりさんとゆっくり話がしたかった。」
葵は言葉をつづけた。
「僕はみどりさんの事が好きで、どうしても好きで、結婚式をした時も、旅行した時も、みどりさんの事が忘れられなくて、ずっと考えていました。」葵はみどりにありのままの気持ちを正直に話すつもりだった。
「みどりさんには、旦那さんがいるし、子供もいる。そして自分には嫁もいる。お互いの環境を壊すつもりはない。だけど、どうしてもみどりさんへの想いが抑えきれなかった。だからあの時、自分の気持ちを正直に伝えたし、みどりさんとゆっくりと話したかったから来てもらいました。」
今日会うという事は、もしかしたらなにか一つの形が崩れるかもしれない。とんでもない事をしている。相手が迷惑を被るかもしれない。取り返しがつかなくなるかもしれない。と、色々な想いを抱きながら、恐る恐る言葉を選びながら、弁解の意をもって葵は言葉を並べた。そして葵はつづけた。
「みどりさんの事がもっと知りたい。みどりさんと話したくても、みどりさんを前にすると、頭が真っ白になって何も話せなくて、会話を伝える事が今までできなかった。だからこうしてゆっくりと話したかった。」そして葵は核心に迫った。
「みどりさん、自分の事、どう思っていますか?」
いきなり、こんな事を聞かれても、何を自信ありげな事をいっているのだと思われるかもしれない。しかし、みどりが自分をどう思っているのか。好きなのか、嫌いなのか、社員としてしか見ていないのか。男として見てくれているのか。今まで独りよがりな一方的な求める恋ばかりしていた葵にとって、みどりが自分をどう思ってくれてるのかがとても気になっていた。自信なんて無かった。みどりが自分をどう思っているのかを知りたい一心だった。
えっ?っとみどりはとても困り顔だった。マスク越しだったが、表情は感じ取ら
れた。そしてゆっくりとだが、みどりは言葉を並べた。
「あの時、気持ちを伝えてくれた事はうれしかった。子供を産んでから、今までずっと女としてそういう気持ちを忘れていたし、見てくれているんだという喜びも感じる事ができた。それに葵さんの事は前からかっこいいなって思ってました。」
その言葉を聞いて葵は嬉しかった。そして葵は言った。
「みどりさん、マスクをとって顔を見せてくれませんか?」
葵はみどりの顔を一度も見た事がなかった。表情が見たかった。どんな顔をしていてもずっと好きでいる自信があった。それでもみどりの顔が見たかった。どんな顔をしているのか、知りたくて仕方がなかった。しかし驚いた表情を見せたみどりは、案の定、強く拒んだ。
「いやです。今まで仕事場でだれにも素顔を見せた事がないし、すっぴんだし、いやです。恥ずかしい」
それを聞いた葵だったが、無意識に手が動いた。本能だというべきか。葵はみどりの耳に手をやって、マスクの紐を取ろうとした。それをみどりに手で阻まれたが、その手を葵はつかみ、そしてみどりに耳元でささやいた。
「キスをするか、素顔を見せるかどっちがいい?」
そう言って、葵はみどりの頭を撫でて、強引にマスクの紐を取り、みどりにキスをして、最後にマスクの紐を口元に戻した。キスをされたみどりは下を向いてつぶやいた。
「恥ずかしい。キスなんていつ以来だろう。」
葵はみどりの頭を撫でた。そして、そのあと数分間会話をつづけ、そして別れ際に今度はみどりが自らマスクを取ってフレンチキスをしてマスクを戻した。
それが2人にとって最初のキスだった。
これからみどりと本当の恋、そして葵は心のあり方について考えさせられる事になる。