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真実  作者: きよみ
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本当の恋

 結婚式は、盛大に行われた。

会社の同期、そして、会社の社長幹部の面々、大学時代にお世話になった空手のコーチ、親戚を含めて、盛大な式が葵と恵実の結婚披露宴で行われた。この式の段取り、日取り等のセッティングは2人で行った。葵が仕事の休みの日や、夜勤の仕事前などで、コーディネータなどと半年間をかけて打ち合わせを行いながら進行していった。葵は、積極性な姿勢で引っ張っていってくれる恵実に感謝しつつも、どこか胸に残る事があった。みどりの事だ。あの晩の事が忘れられなかった。式中や、式が終わってからの余興パーティーなどでもどこか全力で満喫できないでいた。これで幸せなんだ。これで正解なんだと自分に言い聞かせながらも、みどりの事が気になって仕方がなかった。

 事務所で二人きりになったあの日の夜、葵はみどりに告白をした。みどりは笑っていた。みどりがその時何を思って笑っているのかもわからなかった。みどりは葵に対して何を考えてるのか、どう思っているのかも。葵はその日、その瞬間、みどりに対する正直な感情をコントロールできなかった。そして葵は、翌日の仕事終わりにみどりに連絡先を交換しようと言い寄った。結婚式のために10日間、休暇を取ったが、その間にみどりの顔が見れない事に対して空虚感を感じたからだ。不定休の仕事場とはいえ、パートナーのみどりは基本的に定休で、そしてそれが偶然にも葵とみどりとの定休日がほぼ一緒だった。だからほとんど一緒に仕事をしていてほぼ毎日顔を合わせていた。仕事場でみどりの顔を見るのが幸せに感じ、それが当たり前になっていた。みどりが仕事場にいないというだけで、それだけでむなしさを感じていた。だから10日間、みどりと一緒にいられない事が葵にとって苦痛だった。連絡先の交換はみどりに断られた。自分には家庭があるといって。その時点で葵は現実的にみどりと親密な関係になる事は難しいだろなと考えた。そしてこれから結婚式を行うというのに、何を考えているのだろうかと、自分に言い聞かせながらも、どうしても気持ちを抑えきる事が出来ない自分がいた。自分はみどりの事が好きなんだと。もっと知りたい。もっと。

 恵実との新婚旅行はハワイに行った。恵実は仕事を寿退社し、仕事で貯めた貯金を新婚旅行費に充てた。10日間もらった休暇日のうち、式に2日、そして旅行に6日間が設けられた。オーシャンビューホテルで、壮大に広がる青い海と、心地よい潮風に打たれながら、ホテルから見える景色に胸を打たれていた。新婚旅行での計画は恵実が主体で決めていたが、葵も色々と意見を出し合って旅行日程やスケジュールを決めていった。そんな旅行は、葵にとって印象的なものとなったが、記憶に一生残り続けるような、そんなスケールの大きい旅行ではなかった。しかしそれは旅行規模の問題だけではない。どこか旅行の最中も心の寂しさを感じていた。みどりに早く会いたい。早く。そして、旅行の最中、葵は恵実の身体に触れる事は一度もなかった。

 葵は旅行明けで仕事場に戻ったら、大勢のパートナーから祝福を受けた。パートナーがお金を出し合って記念品を贈与してくれたりもした。その中にみどりもいた。式の時、旅行の時、そして旅行から帰ってきてから新居への引っ越しの時など、葵の心の奥底にはいつもみどりが居座っていた。新婚なのに、これから恵実という1人の女性を守っていかなければならない立場なのに、こんな事でいいのかと考えを改めなおすようにと、どれだけ自分に自問自答したことか。自分の幸せ、そして求められる恋の大切さを考え、自分自身を説得させようと何度もした。それでも葵はみどりに対する気持ちを抑えつける事が出来なかった。

 なんで、それほどまでに、葵はみどりに魅かれるのだろうか。葵には何か魅惑的なオーラがある。葵はみどりの事を何も知らなかった。みどりの歳や家族構成、生活状況、なに一つ知らなかった。知っているのは、仕事ではとても責任感が強く、そして清楚で、可憐で、か弱そうな印象とだけ。マスクをいつも深々としており、素顔すらも一度も見た事がなかった。そんなみどりの事をすこしでも知りたくて、社員が管理するパートナー個人情報の書類を見た事もあった。その中にみどりの年齢や家族構成が書いてあった。みどりは葵よりも9歳も年上で2児の母親だった。しかしその事は葵にとってどうでもよかった。気にはなっていたが、みどりがたとえ何歳でも、そしてマスクの下がどんな素顔だろうと、みどりへの気持ちが変わる事はないと絶対自信が葵にはあった。日々を過ごしていく中でどんどんみどりへの欲求が強くなっていったが、みどりと会話すらもすることが出来なかった。機会がないという事も一つだが、みどりを前にすると頭が真っ白になり、緊張して何も話せなくなる事も一つだ。だから、何かを聞き出す事も世間話を会話する事もなにもできなかった。

 気持ちを伝え、そして結婚式をあげてから、約2か月が過ぎたある日、お世話になった先輩社員がほかの部署に異動になった。それに伴って、葵は部門の責任者になった。今までは、先輩社員に仕事の時間や仕事内容がコントロールされていたが、これからは自分が主体となって仕事ができる喜びとともに、一つの事が頭によぎった。そしてそれをすぐに実行に移した。みどりが自分をどう思っているのかを確認したい。親密になりたい。自分が部門責任者になったことで、パートナーの勤務時間等のコントロールや自分の勤務内容の変更が安易にできる。これを利用してみどりと距離を縮めたいと考えた。葵はある日の仕事中、みどりに勇気をもっていった。

「この後自分は休憩に入るんだけど、会って話せないかな?」

他のパートナーが周りにいたが、声を細めて、みどりにつたえた。みどりは困り顔で笑っていた。それに続けて、葵は言葉を並べた。

「休憩中、近くのコンビニで待ってるから。来てください」

そういって、葵は休憩に入るために仕事場を後にした。仕事場を出て、コンビニの駐車場でみどりを待っていた。心臓の鼓動が耳からリアルに聞こえてきた。緊張感、緊迫感、手に汗握る展開だったが、どうしても会いたかった。果たして、みどりは来てくれるのだろうか。鼓動がとまらない。

 葵は、今までの人生で一度も自分の中で定義する恋が実ったことはなかった。自分が好きで、それに相手が答えてくれる。それが恋。そんな恋を葵はしたことがなかった。ずっと追ってばかりの恋。そして追われる恋の安心さを恵実から知って、安心安定を求めて結婚を決意したのだが、みどりでまた自分の本当に求める恋を成就させたい欲が出てきてしまった。自分の気持ちに嘘はつけない。後には引けない。みどりに会いたい。みどりに会いたい。どうしても。

 10分、15分の待機時間が途方もなく長く感じられた。みどりが来てから何を話そうかと色々考えたりもした。そしてみどりはコンビニに来た。そしてそこから葵にとってみどりとの本当の恋が始まった。

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