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真実  作者: きよみ
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恵実との出会い

真実



 木下葵あおいの自分の心の中で信じている事がある。それは、自分の思想通りにうまく人生は回るという事だ。引き寄せの法則といって、自分の思想や願いや理想を言葉に出したり、強く思い続ける事によって実際に現実的に引き寄せるという思想。自分はこうなりたいと、理想の現実や自分の姿を想像する事で、現実的に発展するというものだ。実際に葵の人生はその思想的な現実通りに進んできたのかもしれない。例えば、学生時代にやっていた空手でも、優勝という目標に向かって突き進み、練習を積み重ねた結果、理想の成果を成し遂げたし、卒表旅行で行った自転車での一人旅も、周りには無理だと言われ続けながらも1人で800キロの距離を走り切り、実際に理想を思い描いて、それを達成させる!そうなる!と決めた事はすべて遂行させてきた。

そう。今回の話の結末を除いては。

 葵は大学4年の4月から就職活動をはじめ、色々と業種、業界を模索しながら、食品の対面販売を希望していた。その中でも気にかかったのが小売のスーパーマーケット。多くのお客様に商品を販売し、喜びの声を直に聞きたい。そういった理由から、志望動機を得て、食品スーパーの業界に的を絞り、就職活動を展開していった。縁もあって最初に受けた会社のテラオカに4月の段階でいきなり内定がきまり、親の勧めもあってその会社に早々と就職が決まった。そのテラオカで出会ったのが藤野恵実だ。

 葵の友人今池に、知り合いの恵実がテラオカに就職が決まったと聞いていて、その知り合いの恵実は誰だろうと葵は気になっていた。そして、8月に行われた新入社員歓迎コンパで恵実はいた。一目でわかった。50名いた新入社員のうち女性社員は12名。その中でも異質の空気を醸し出していた。一人だけ髪の毛が明るく、髪にパーマがかかっておりスーツにも関わらずおしゃれな雰囲気を出していて、それでいて堂々としていた。他の女子社員はというと、どちらかというと陰気な印象を受け、おしゃれな今池の知り合いという事もあり、知り合いはこの人だと根拠のない自信があった。

 「藤野さん?今池の友達だけど、聞いてる?」

いきなり葵は恵実に声をかけた。恵実はあっけにとられていたが、すぐに返事を返してくれた。

「聞いてません。どちらさま?」

声が低い。恵実に対しての第一印象はおしゃれな雰囲気。次の印象はこの声の低さで決まりだ。それから、葵は、友人の今池との事や就職活動、テラオカについて、色々な事を新入生歓迎コンパにて恵実と語り合い、連絡先を交換した。

 コンパがあったのは8月で、そこから3月の入社までの期間は、会社から出された宿題や卒業論文などに明け暮れた。会社への新入社員研修が二か月に一回あり、そこで恵実とは顔を合わせて会話を交わした。そして会社からの宿題や、入社に必要な書類等の提出状況、雑談などを恵実とメールを通じてこまめに連絡を取り合っていた。その時はまだ、葵は恵実に対して恋愛感情や恋への発展は想像していなかった。というのは、恵実には2年続いていた彼氏がいたからだ。恵実に彼氏がいた事は今池から聞いていたし、そして自分自身も恋愛に対する欲求もなく、ただ恵実とは情報交換をしていただけに過ぎなかった。しかし恵実は違っていた。恵実は2年付き合っていた彼氏がいながら、葵の事が気になり始めていた。恵実の立場からしてみたら、コンパでいきなり声をかけられ、連絡先を聞かれて連絡を取り合っていたら、葵はもしかしたら自分に気があるのかもしれないとか、恋愛的な想像をするのも無理はないかもしれない。そしてこまめな連絡を取り合っているうちに恵実はどんどん葵の事が好きになっていった。

 月日は流れ3月の入社式が終わり、入社後に知り合った久野と山内と恵実とで4人でご飯を食べにいった。車は2台。久野と山内の車、そして葵の車には恵実が乗った。レストランに到着し、4人で食事を終えた後に久野と山内の2人とは解散をしたが、葵は恵実をミュージッククラブに誘った。時間もあまり、音楽を聴きたい気分で、深い意味はなく恵実を誘った。葵の行きつけのミュージッククラブは、男女の交流が盛んな事で地元では有名で、その事は葵も知っていた。葵は軽く考えていたが、恵実は違っていた。そのクラブに葵は自分を誘ってくれた事を意味深に考えていた。

 クラブについて、葵は当然車だからドライバーという事もありノンアルコール。恵実はお酒を飲みそして小一時間ダンスを楽しみ、クラブを後にして葵は恵実を車で自宅に送った。その時の出来事だった。恵実は葵に横からはぐをしたのだ。

「私、葵の事が好きかもしれない」

葵はびっくりした。葵にとって面と向かって、そしてこういった形で告白をされたのは初めての事だったからだ。そして恵実の言葉は続く。

「私、人に告白したの初めて。気持ちが止まんなくって言っちゃった。木下の事が好きで、彼氏の事ふっちゃった。一方的に私がしたことだから気にしないでよ。それに私が葵に相手にされてない事も知ってるんだから。私、自分からの恋が実ったことないんだよね」

葵は恵実が彼氏と別れた事を知らなかったし、恵実の行動についても本当にびっくりした。そして何より、あの堂々として気の強そうな葵からは考えられないような発言だったからだ。

 恵実と解散した後に、葵は思い悩んでいた。というのも葵は、恋愛で今まで一度も本当の恋をしたことがなかったからだ。恋というのはいろいろあるが、葵にとって恋とは、お互いが思いあって、相手の為ならなんでもできる事が恋というものだと考えていて、葵にとってその定義に当てはまる恋とははいつも違っていて、そして恋に憧れてこれが恋なんだと錯覚に陥っている、いわゆる恋に恋している経験ばかりだったからだ。恵実は今まで恋が実ったことがないといった。そこに共感を覚えて、葵は複雑な心境を胸に、帰宅路に向かって車を走らせた。













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