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ラピスラズリの碧い空  作者: 助三郎
第三章・ラピスラズリと赤の国
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3-19. 赤い国のその隣りへ

『ラピスラズリ』シリーズ第3章

 チヒロがララの婚約者として決まり、改めて夕食の場でカルーン王と顔を揃える事になった。


 もともと嫁に出した娘が生活する苦労をかけさせたくないという娘思いの父親は、今までの婚約者候補を貴族の長男の中から選んでいた。カルーン国内の貴族ならば城との縁も深くなり、彼らが統括する地域も援助を受けて潤う。彼らの生活が潤えば、ララの生活基準も城から変わらないだろう。という考えかららしい。その考えで選んできたララの婚約者候補のほとんどが、ララ個人への愛情を持たず国族との関係性を深める為だった事だと、騎士であるシオンに負かされた男達が去り際に口悪く罵っていたのを聞きながら、王はそれに気付かぬ振りをして続けていた。結婚すればララの事を好きになるのだと信じていたから。


 自分の様に親が決めた顔を一度も見た事のない相手と婚約し、結婚式の前日、その者と初めて出会った瞬間一目で愛した。一度も反発する事なく2人でお互いを支え合い、子供にも恵まれて家族の幸せを造っていった。そしてやがてその人物が病に倒れその魂と別れる日がきても、未だ自らの記憶の中で彼女は生き続けている。そんな自分と妃と同じになると思っていたからだった。


 カルーン王はここで初めてチヒロに黙っていた事を話した。今ブッチランドに広まっている病の事だ。それはもうチヒロの耳に届いていて、それを知ってもなおこの国に居るのだと告げると、カルーン王はその揺るがない紅の瞳を鋭くさせ、チヒロの全身を眺めた。チヒロのその考えを見定めている感じだった。


 その病が治まり、国のこれからの方向性も決まったその時にララを婚約者として迎え入れたいと伝えると、王は黙って首を縦に振った。それまではララには今までよりも寂しい思いをさせてしまうかもしれない。と呟いたその横顔はとても悲しそうに見えた。その顔を見て、チヒロはララに伝えたあの言葉をカルーン王にも伝えるべきだと思った。いつかはあの2人がこの王に許してもらえる日がくるように、そう願った。


 夕食が終わり食器が下げられた時、チヒロはカルーン王の前に出た。

「もしカルーン王の許可を頂ければ、この国の隣の国の国境を見てみたいのです」

この6日間の間ではじめて王に許可を求めた。

「私の国では四方海に囲まれて、近くの国に行こうにも最低2日間は航海に出なくてはなりません。ですが、こちらの大陸は隣り合わせで複数の大国が並んでいるではありませんか。お互いに国の境界線を築きそれを護っている。それは私の国に居たのではこの目で見る事ができません。無理を承知でお願いしているのですが、明日その国の堺がこの目で見られるところまで私を連れて行って下さい」

チヒロの熱心な願いに困惑した顔で赤ひげを撫でる。

「今は静かだが、国境というのは少し前まではお互いに相手の領土に踏み入ろうと戦い合っていた場所だ。停戦している今でも何を考えているのか分からない相手国だ。見るだけなら何もないだろうが、もしもという時もある。貴方の身の安全は保障できないよ」

心を探るような鋭い紅の瞳で射られても、チヒロの群青の瞳はそれでも揺るがなかった。


 チヒロはこの国に足を踏み入れる前から一度は見てみたいと思っていた。この願いをいつ言い出せばいいか判らなかったが、姫の婚約者としての地位を手に入れた今なら強く願う事ができると思った。


 カルーン国は大陸の海に沿い、東と北西に2つの別の国が続いている。またその国の先にはいくつかの国が連なっているとコーユは前に言っていた。いくつもの全く別の国が存在し、その中で人々はまた違った暮らしをしているそうだ。


「どちらの国を見たいんだ」

「黒の国、マエストリアを」

「ノウィーリアか」

カルーン王は小さくその名を口に出した。


 ノウィーリア・マナミ・ブッチランド。チヒロの父である先代のブッチランド王の唯一の妃であり、彼女は親交の証に隣国から花嫁として差しだされたその国の姫だった。流れるような艶やかな黒い髪と、気品に溢れた黒い瞳、そして透き通るような白い肌が美しい女性だった。そして、第一王子であるカミキの母親でもあった。


『未熟のラピスラズリは波乱と憎しみを生み、二つのラピスラズリは栄光と平和をもたらす』

古くから伝わるブッチランドの言い伝えによって、左右の色が違うその瞳を持って生まれたその赤子は国にも父親にも認められなかった。そして母親までを狂わせ、15年前乗っていた馬車が崖から落ちて炎上し、ノウィーリアとその子供は死んだ。


、はずだった。

 ノウィーリアは自らその事故を実行し、忌み嫌われる原因となった血の繋がった子供と妃としての存在をブッチランドの記述から消した。そして自分は名も性別も変えて生き抜き、ブッチランド王に対して復讐を計画していた。彼女の誤算は、偶然近くに居たミイの父親によって奇跡的にカミキは救われ、彼らの家族として育てられた事だった。


 彼女はついに王を亡き者にすることができたが、息子が生きていた事を知り再び彼を殺そうとする。第一王子という存在を明らかにさせない為だった。彼女の意向通りカミキはブッチランドの王子の命を狙った暗殺者として処刑されるその時に、キサによって命を救われた。チヒロによって第一王子の存在を公に明らかにされ、彼女は王殺害の首謀者としてその身を拘束された。それが半年前にブッチランドで起きた騒動であり、チヒロとカミキが王になった日の事だった。


 カルーン王はノウィーリアが実は生きていた事を知る由がない。公には彼女は美しくて悲しい妃として15年前に死んだ事になっている。きっとブッチランドと親交が深かったカルーン王なら昔の彼女に出会っていてもおかしくない。当時の彼女の姿が今のカルーン王の瞳の中に再生されている事だろう。


 彼女の生まれた国がマエストリアだった。

姫を親交の証に差しだすほど近くにあったその国は、妃の死によってブッチランドから離れていた。


「見るだけならいいだろう。明日、適任者を迎えに行かせよう」

「ありがとうございます」

チヒロはカルーン王に頭を下げた。


 一目その国を見るべきだと思った。

ブッチランドの新しい王として、彼女を愛し、彼女を苦しめた亡き父と同じ宝石ラピスラズリの様な群青のこの両目で、ブッチランドによって不幸にされたその女性が産まれたその国を見て、彼女を苦しめる事になった島国の固まった考え方を変えなくてはならない。そうチヒロは決意した。

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