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ラピスラズリの碧い空  作者: 助三郎
第二章・ラピスラズリと亜麻色の海
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2-17. 耐え抜く亜麻色

 窃盗団の男たちの言う事を大人しく聞いていて、怒りを堪えながらただ明日を待てばいい。明日になれば城から派遣されたミイが率いる部隊とカルーンからの使者達がこの港町に着く。そして使者達が捜しているだろう赤髪の少年がシスターの屋敷に居ると言う事をダンと共に伝えてくれれば、その目は必然とこの屋敷が陥っている状態が目にとまり、屋敷に押し入った窃盗団と戦ってくれるはずだ。そして少年と共に囚われていた一般人であるキサ達も一緒に助け出されるはずだ。


 だから正直、キサは彼がこの場に戻ってきて欲しくなかった。どこかにひっそりと身を潜めて、城からの迎えが来るまで大人しくしていて欲しかった。小さな港町で起こる小さな騒動なのだから、彼が出る必要なはい。もし彼の瞳を見られたら、敵に彼がこの国の王だと知られてしまったら、それこそこの小さな騒動が嘘のようにブッチランドという国全体の危機になってしまう。そうなってしまったらキサ一人で彼を護りぬける自信はないのだから。そして彼もそれは判っているはずだと思っていた。


 でも、彼は現れた。窓枠の外で窃盗団の男の前に立ち、後方で逃げる少女たちを男が持つ不吉な気配のする筒から体を張って護っていた。そのカミキの横顔を見てキサは安堵していた。


 カミキとは親しい仲ではないし、初めて出会った時は主を護る自分には敵だった。それなのに彼が困っている少女を放って置けないと思っていた。港町の小さな騒動でもそれを見て見ぬふりをする事ができないくらい優しさと男気のある人だと知っていた。どこか心の中で彼が戻ってくるのを願っていたのだ。そんな今までの護衛らしからぬ自分の考えに気付いて衝撃を受けた。これではそこら辺にいる何もできない女ではないか。立ち向かう為の剣を持たず、自らが戦う事を知らない、護られる事が当たり前だと思う、ただの女。そんな女になってしまっては、キサではなくなってしまう。


「いたたた、だから痛いって」

 訴える聞き慣れた声でキサは我に返る。そこはシスターの屋敷で、先程まで男たちといた居間だった。変わったのは2階から泣き叫ぶ子供たちがいなくなったという事と、その代わりに子供たちを逃がした黒髪の青年が捕まって床に座らされている。キサは男たちの指示でその青年、つまりカミキの両手を縄で縛っていた。

 もうこれ以上彼が変に動いて、さらに危機を招いてしまっては困る。せめて自分の目の届く範囲で大人しくしていて欲しいと思う気持ちが縄を左右に引く力に現れてしまう。

「そこまで憎しみ込めて縛らなくても良いんじゃないか。血が止まってしまうぞ」

仕舞には敵である窃盗団の男たちによってキサは止められる事となった。


「面白いな。さっきまで怯える事も反発する事もなく、感情すら殺して俺たちに従っていた女と同一人物だと思えないな。用を足しに行った仲間も帰って来ないところをみると、こちらも既に1人お前たちに捕まっているようだな。子供を無傷もまま逃がすといい、足場からの身のこなしといい、一体お前は何者なんだ」

 手下に止められるキサを横目に周りから兄貴と呼ばれる男は、頑丈に固められた両手首を苦虫を噛んだような顔で見つめるカミキに問いかける。カミキは少し考えてから、男に向かって不敵に笑う。

「あんた達と同業者みたいなものだよ」

「そうか」

その答えに満足したのか男もカミキに向かって笑みを浮かべた。そして男は椅子から立ち上がり、カミキの前に立つ。その大きな男から発される威圧感はさらに増した。カミキの元に駆け寄ろうとするキサを男の手下がそれを阻む。


「だったら、俺の欲しいものが分かるよな」

「知らないな、」

カミキの返答を待つことなく男のベルトから取り出されたものが、カミキを正面から狙う。

「どうやらお前はコレを知っているようだ。奪った船に乗っていた2人も、この町の兵士さえも、コレはただの筒だと思っていやがった。目の前にしても間抜け顔を浮かべている。射抜かれて初めてその存在を理解したような顔をしていた。でもお前はそいつらと違う。ガキを狙う俺の前に割り込んできた。仲間をこの建物から離れさせたのも、コレがどのようなもので、どの範囲まで使えるものなのか知っているからだろう」

「俺だってそれは今日初めて本物を見たよ。この国にはソレは一切広まっていない。だからあんた達が欲しい弾はこの国には存在すらない」

視線を逸らすことなく正面から答えたカミキに「とんだ平和ボケな島国だな、」男は吐き捨てた。


「ならそれはこの国ではない別のところで手に入れよう。ひとまずお前が昨日露店で買ったブローチを渡せ。それは俺の物だ」

「それも知らないなぁ」

「知らない振りをするなよ。露店の親父が証言したんだ、この女と一緒にブローチを買っていったってな。だから俺たちはお前が帰ってくるのをここで待たせてもらっていたってわけだ」

「だから知らない、ッ」

カミキが言い終わらないうちに男は彼の右足首を踏みつけた。突然訪れた尋常じゃない痛みにカミキは唇を噛んで耐える。

「俺は知っているぞ。お前がガキを抱えて落ちた時に足を痛めた事を」

そう言いながらさらにカミキの痛めた足首を踏む足に体重をかける。


「やめなさい。その足を退かして」

手下を振りほどき、男を止めようとするキサに筒が向けられる。

 キサはソレが何なのか全く知らない。カミキと大男の話しを聞いていても意味が判らなかった。それでもその男が持つ筒のほの暗い奥から漂う匂いが、ソレを剣とは違うが同じ、命を脅かすほどの武器だと感じずにはいられなかった。だからそれを向けられて、キサは動きを止める。


「2階だよ。2階の子供たちが居た部屋の斜め向かい側の空き部屋」

「そこは開けたけれど何もなかったぜ」

 痛みに耐えながらも苦しげにカミキが場所を告げると手下の1人がそれを遮る。その男は子供たちを2階へ閉じ込める時に、他に隠れている人は居ないか別の部屋を見周り、確認したと大男に伝える。

「ばぁか。部屋の奥の収納扉の中まで見たのかよ。使えねえ手下だな」

苦痛で顔を歪ませながらも、彼は男に向かって嘲笑う。

「本当だ。こいつらよりお前の方が数倍使えそうだよ」

大男はカミキの足首を踏みつけていた足を下ろすと、手下に指示を出しながら3人で2階へ上がって行った。


 苦痛から解放されたカミキが耐えきれず床に倒れ込む。その彼に向かって自由になったキサが駆け寄る。そして彼の履いていたブーツを脱がすと、紫に変色した足首が現れた。シスターが冷たい水で濡らした布を彼の足首に巻く。

「大丈夫だよ。熱を持っているが、骨には異常ないから安静にしていればいずれ治る」

シスターの言葉にキサの中で息ができないくらい張りつめていた緊張が解けた。


「やはり不審な船は彼らでしたか。狙いもあのブローチで間違いないようですね」

キサの言葉にカミキは体を横たえたままで頷いた。

「船にいたリリイの両親は助け出せた。父親はボロボロだが命には支障がない。母親は元気だ。きっとダンに連れられて今頃はリリイと再会できている頃だろうな」

彼を覗きこむシスターの暖かな眼差しから大粒の涙が落ちて、カミキの頬を伝う。

「自分が危険な目にあってでも、子供たちを助けてくれてありがとうよ」

シスターはカミキの黒髪を優しく撫でていた。


 でも決して事態が良い方向に動いたわけではない。キサは男たちが上がって行った天井を眺める。彼らの手にブローチが渡ってしまう。ブローチが渡ると言う事は、それを持っている赤髪の少年まで彼らに引き渡すと言う事だ。

「良くブローチの隠し場所が判りましたね」

キサはカミキに向かって嫌みたっぷりに言ってやった。

「お前の考えている事なんてお見通しなんだよ」

黒い双眸を爛々と輝かせながら、彼は皮肉たっぷりに返してきた。


 悔しい。彼の考えている事がキサにはわからない。

夜明けまでにはまだ時間はあるし、どうやら男たちはこの国にない武器を持っているようだ。無闇に抵抗してはいけないと思って我慢はしているが、これ以上カミキやシスターに手を出されてしまっては自分でも何をしでかすか判らない。不安で仕方がない。

 それでもあの黒い瞳は諦めてはいなかった。だから自分はそれに大人しく従うだけだ。

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