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ラピスラズリの碧い空  作者: 助三郎
第一章・ラピスラズリの碧い空
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2. 碧い空で出会う時

朝を知らせる鳴き鳥のように、大声で自分の仕える若き主の名前を呼びながら城を駆け回る男が一人。


 廊下をすれ違う使用人達はその姿に笑いを堪え、兵士達はそんな上司に向けて溜息をつく。

そんな事を気にしない彼は、ある部屋の前で立ち止まった。

彼は扉を叩こうと手を上げたその時、自然に扉は彼を招くように開いた。


「やっぱり、コーユだ」

部屋の主はこの国の王子、チヒロ。彼は万遍の笑顔で朝の訪問者を部屋に招き入れた。


「おはようございます、チヒロ様」

コーユは自分の胸あたりしなない小さい主人の目線に立つ。

「おはよう、コーユ」

主の笑顔はコーユの眠い目を覚ます最大の目覚まし時計だった。


 コーユはチヒロが小さい時から教育係としていつも近くで過ごしてきたせいか、異常に過保護なのはチヒロの悩みの種である。


「チヒロ様、ご無事ですか。チヒロ様が昨夜賊に襲われたという噂を聞きつけて、いても立ってもいられなくて。朝早くに来てしまっては悪いと思いつつも、チヒロ様に何かあったのならいけないと心配で心配で。あぁっ、なんてことだ。チヒロ様のお顔に傷が」


 堪っていた言葉を吐き出すように次から次へと飛び出し、チヒロの顔の傷を見ると貧血の様にフラリとよろける。残っているのは顔の傷と言っても掠ったくらいの、小さな傷だった。


「キサ、キサは何をしているのです」

今にも護衛であるキサを叱りに行くかのように、勇ましく部屋を去ろうとする彼をその背後からの声が呼び止めた。

「コーユ様。私はここに」


 チヒロの部屋にあるベッドのレースの間からキサがゆっくりと現れた。


「お前、何でそこに」

コーユは口をパクパクさせながら、キサの方に指をさす。

「昨夜の賊の侵入でチヒロ様をお助けに参ったのですが、生憎逃げられてしまいまして、」

「そうれはもういい」

「はぁ」と何を問われているのか、察しのつかない護衛。


「私が聞いているのはなぜお前がそのベッドの中から出てくるのかと聞いているのだ」

今にも咬み付かんばかりの荒い口調でコーユは問いかける。

「昨夜の事が忘れられず一人で眠れないとチヒロ様がおっしゃられたので、一晩中チヒロ様のお傍にいました」

「本当にそれだけか」

「キサは本当にベットの横にずっと立っていただけだよ。コーユ。どうしたの。」


 コーユを見上げるチヒロの大きく澄んだ瞳と目を合わせると、少し気恥ずかしさから視線を逸らす。

「ほんとに。キサは大真面目で、コーユは心配性なんだから」

そんな自分の仕者を見比べてチヒロがくすくすと笑った。


 コーユは咳払いをすると、改めて真剣な表情でチヒロに向き直った。

「チヒロ様。このコーユ、よからぬ噂を聞きました。昨夜の侵入者は片目に碧き瞳を持っていたのではないかと、兵士やメイドの中で話題になっています。」

 チヒロの笑顔に陰りが現れた。長年付き合っている教育係には言葉にしなくても主人の意思を把握するのは簡単だった。

「やはり、そのことでお元気がないのですね」

彼の一言で今まで笑顔でいた王子は表情を曇らせた。本来のチヒロの表情に。


「なんだ。やっぱりわかっちゃったか」

「貴方のことならなんでも見ていますから。どんなお顔をしていても、何を考えているのか手に取るように分かりますよ」

子供がいたずらを見つかってしまったような顔のチヒロに、コーユは優しく微笑みを返した。


「そうですね、まずは侵入してきた賊を捕まえてからでないとその瞳の事を詮索するしかないですね。そう簡単には彼の身元も分からないでしょうし、その瞳を王家以外の者がもっていたのだとしたら今頃街中がパニックに起こっていなければならない。今まで何事も騒ぎがなかった事を考えると、そのままの瞳のままでは過ごしていないことになりますから。」


 チヒロとキサは顔を見合わせてコーユの意見に頷く。昨夜の騒動で侵入者について分かっているのは、男で黒髪、片目が黒でもう片方が、王家の証、碧い色で輝いていた事以外の情報はなかった。そしてその目立つ瞳のままでいるほとど軽率の相手でないという事だ。


「この国の住民に黒髪は多いですからね。やはり目印は、」

「碧い色の瞳と言う事になるな」

キサの推測に、王子の一言で部屋全体に重たい空気が流れた。


 人口七十万人という人数の中でたった一人を探す事は不可能に近い。気の遠くなるような作業だと誰もが無言で察していた。でも、誰もできないとは言わない。


「では、今から兵士達に伝えてまいります」

「頼む」

キサはチヒロに一礼をすると、部屋を出て行った。


 昨晩外から開かれた扉はまた明るい光を部屋に取り込みながら、爽やかな風がカーテンを揺らしている。その窓の先には夜には見えなかった城下の人々が住まう街が広がっている。

 農園で取れた野菜を売る夫婦や、妻と娘が織った布を売る夫、学んだばかりの知恵を復習する子供達。活気あふれたその街は平和で、のどかで、幸せにあふれている。


 そんな中にも闇は潜んでいるのだ。相手の金を奪う。相手の誇りを奪う。相手の命を奪う。人間には必ず陰の部分が巣を作り、ほんの些細な瞬間にその陰は飛び立つ。

 城の兵士達が取り締まってはいるものの、罪を犯す人々は一向に絶えない。国を治める王の息子としてのチヒロの悩みでもある。


そして、もう一つ。最近偶然にも知ってしまったもう一つの闇。

塗り替えられてしまった過去がこの王家にあったという事。


「コーユ、あいつは、あの瞳を持つあいつは“あの人”と何か関わりがあるのだろうか」

チヒロは街を見下ろしながら背後にいる教育係に心のなかの素直な不安を呟いた。

「真実かも分かりませんが、あの瞳を持っている以上は全く関係ないですねとは言い切れません」

「そうだとしたら、あの人が、」

群青の瞳に希望の光が差す。しかし、振り返ったその瞳に険しい顔のコーユが映る。

チヒロの弾んだ肩も萎えるかの様に下がった。


「奴は貴方の命を狙った賊です。噂では賊は金品と交換で違法な物も売買する者もいるという事。ある国の王の眼でさえ彼等にとって盗む価値のある物だとしたら、ソレを持っているからと言って、彼らの何が変わるというのでしょうか。それに過去の話が本当なら“あの人”と同一人物なんてありえないに等しい。私たちが今まで信じてきた過去がすべて間違えだという事になってしまうのですよ」


 教育係としてしっかりと国を見て欲しいコーユは、主が自らの救いを求めた希望のある意見だと分かっていてもそれを手放しで肯定することは彼にはできなかった。コーユにとって一番大切なのは、主であるチヒロをすべてから守ることだ。半端な見解で物事を進めてしまっては、間違った方向に進んでしまう場合もある。

 そしてこの純粋な主が誰かから恨まれたり、命を国民に狙われるという悲しい展開も避けなくてはいけない。主が毎日を己の輝く髪のような明るい笑顔でいられる日々をコーユは求めていた。


 肩を落とすチヒロの輝く髪を優しく撫でる。

「私は過去について調べてみます。なにか隠されている真実が見つかるかもしれない」

「コーユ、お前が頼りだからね」

俯いたまま嘆きに近い言葉だったが、コーユにはっきりとその耳で聞き取れた。


チヒロ様が私を頼りにしてくれる。それが一番励みになる言葉。

コーユは先ほどの苦痛を堪えるような難しい顔を早変わりさせたかのように笑顔でチヒロに一礼をすると、主の部屋から飛び出した。


***


 チヒロは自分以外誰もいない部屋はいつもより広く感じられた。


 昨夜、他人にこの命を狙われたことを思い出すと背筋が凍って体が震える。今、あるべき地位を実感してしまう。この国の第二王子のチヒロとして、自分にもたれかかってくる国を維持しなくてはいけないという責務。そしてそれに好感を抱く者もいれば、反感を抱く者もいると言う事が身に染みて判った。


反感を止めるには、自分は何をすればいいのだろうか。

このままでは昨夜のように命を狙われ続けて、そしてその刃に落ち、この世から去らねばならない時が訪れてしまう。


 鬱々とした気分を変えるためにチヒロは自分の頬を叩いた。

元から淡いピンク色の頬が、さらに刺激を受けて赤く染まる。

「ここで考えていても始まらない。私も私らしくこれからを考えることにしよう」

チヒロはそう言うと、鼻歌を歌いながら部屋の奥へと消えていった。


そしてその数分後、


 広々とした両脇に映える爽やかな林の間を抜け、街に向かって少し下り坂になっている石畳の街道をその全身で風を切り、勢い良く走り降りる。段々と通り過ぎる木々を横目で見送りながら、風で飛ばされそうなフードを目元まで深くかぶる。


 黒いレンズの奥で、群青の瞳がいたずらっぽく微笑んだ。高貴に輝く金髪は深いフードのおかげで、全く見えない。


「完璧な変装だ」

気分が良くなって、チヒロは自分の事を一人で褒めていた。



 入り組む路地を曲がり広場に出た。活気溢れた商人の品物を売る声、知り合いと話す主婦の声、転がるボールを追い駆ける子供達の笑い声。父である王が治めるブッチランドの城下街は、明るい声と笑顔の絶えない憩いの場だ。


 大切な国の後継者として城に閉じ込められるようにして育ったチヒロには外の世界は彼の憧れであり、何回も一人で城を抜け出しこの街に遊びに来た事もある。目的がある訳ではなく、知り合いがいる訳でもない。ただ、この街に生きる人々が発する声を聞くのが楽しかった。

 当然、チヒロを迎えに来たキサやコーユに連れ戻され叱られるが、街に滞在できた数時間はチヒロには有意義な時間だった。


だから、この街の何から何まで知っている、そんなつもりだった。


 そしていつもの様にきょろきょろと市場の中央街を歩いていると、数人の兵士が前方かららこちらに向かって歩いてくる姿が目に入った。あちらも廻りに視線を向けて捜索している様子だ。キサに頼んだ賊探しが始まったようだ。


 いくら一兵士とは言え、こんなにも簡単にこの身が見つかってしまっては都合が悪い。チヒロは広場を行き交う人ごみに隠れるようにして、大通りの細い路地に入り込んだ。そして小走りに奥まで行くと人ごみの多い通りとは違って、全く光が差さない、その道の存在を忘れ去られてしまったかのような寂しい路地に入った。


 チヒロはその先に踏み込んで良いものなのかと不安になり、元の道に戻ろうと後ずさりをした。


しかし、大通りでは兵士等が近くまで来ているだろう。日々鍛錬をしている兵士を走って撒ける自信もないし、先ほどのチヒロの行動に気付いて不審に思ってその後を追いかけてきているかもしれない。


 耳を澄ますと誰かの足音が近づいているようだ。


 渇いた喉に唾を無理矢理流し込むと、チヒロはそのまま先の出口を目指して一目散に走り出した。足元に転がっていた空ビンや、飛び出していた針金に足を取られながらも、路地の先の角を曲がり建物の影に身を潜めた。


心臓が脈打つ音がきこえる。

呼吸が荒い。


何分経ったのだろうか、恐る恐る顔を上げて走り抜けた路地の先を振り返った。

誰もいる様子も無い。追い駆けてくる声もしない。

チヒロは安心して、自分を落ちつかせる為に大きく深呼吸をしながらゆっくりと周りを見回した。


今まで一度も足を踏み入れた事のない静かな裏路地。

中央街とは全く違った造りの高い壁に囲まれ、人っ子一人見当たらない。

耳に聞こえるのは建物の間を流れる風の音と、頭上に飛び交う鳥の鳴き声だけだった。


 チヒロは急に心寂しくなって、目尻がじんわりと暖かくなった。

いつもキサやコーユ達が一緒にいてくれて、一人の時はあまりなかった。もちろん、街へ勝手に降りる時は内緒にしていたがこんなに寂しい思いを一度も経験した事はない。


追われた事も無かったし、自分から身を隠す事もない。


知らない場所でポツンとおいて行かれた様な気がして、胸が締め付けられる。こんな気持ち、今まで感じなかった。


だめだ。

こんなところで落ち込んでいてはいけない。

“あの人”を探すため、昨夜の賊の情報を得るため、ここで私が立ち止まってはいけないのだ。


彼はスクッと立ち上がると、先ほど駆け抜けてきた道を振り返る。

「もう後戻りはできない。あの人を探すと決めた時からずっと」

そう一言呟くと、前へ歩き出した。


地図も無く、供もいない今、自分の力を信じるしか無いと考えると、心の底に勇気が湧いた気がした。



「なぁ、君一人なの。お金出してくれたら良いトコ連れて行ってあげるよ。それとも今ココで叔父さんと遊ぼう」

チヒロより数倍はありそうな巨漢の男が、突然彼の目の前を立ちふさがるように道を塞ぐ。

「金か。生憎今は、持ち合わせはない。それに、持っていたとしてもお前にやるほどのはした金はないがね」

正直に淡々と答えるチヒロの言葉に頭にきた男は、自分の何十倍も細い少年の腕を掴みあげた。

チヒロの身体に痛みが走る。

「じゃあ、金がないなら体で払ってもらおうか」

男は腕を握る手に力を込めた。


「どう払えというのだ。人の体は金額をつける物ではない」

いくら脅しても恐がる素振りの見せない少年に、巨漢な男は我慢の限界を越えた。

「貴様」

と、叫ぶや否や、自分の倍も小さい相手に勢い良く拳を振り上げる。


カックン。


軽快な音を上げて、男は体をかがめた。チヒロを掴んでいた手の力がその瞬間緩む。


「こっちだ」

掴まれていた方の反対の腕に大きな力がその身を引っ張り、身の軽いチヒロは風に飛ばされる洗濯物の様に宙を舞い巨漢の男から解放された。

そして前を見るとその場から去る為にチヒロの腕を引っ張りながら、黒髪の青年が前を走っている。


「お前、俺の獲物を横取りする気か」

あっという間に数十メートル離れ、小さくなった大きな男が彼らに向かって大声で叫んでいた。

「ははは。のろま」

チヒロの腕を引く彼は後ろを向いて笑いながら舌を出す。


 急に現れチヒロを危機から連れ去ってくれた青年。己の倍ある巨大で屈強な相手に向かっていく気力。よろめきながら走るチヒロを引っ張りながら前を走る彼はまだ余力を見せている。

少し不信感を抱きつつも彼に腕を引かれるまま、チヒロは夢中で入り組んだ路地を走り抜けた。


 数回角を曲がったところで、青年はチヒロの腕から手を離した。

今まで引っ張っていた力をなくした彼の体は、まるで人形の様に勢いよく地面に転がった。

「イッター。無礼者」

「なにが無礼者だ。お前、自分がどんな状況だったのか分かっているのか」

地面に打った背中をさすりながら、ゆっくりと上半身を起こすチヒロに彼は罵声をあげた。


 「あいつはのろまで馬鹿だけど、あれでも城の牢屋を抜けてきた脱獄犯だぞ。何人も人を殺したり売ったりしているンだ」

荒立った呼吸を少し直すと地面に座ったチヒロに合わせて腰を下ろすと彼は続けた。

「最近あの辺にいて迷い込んできた旅人を食い物にしている、そんな奴だ。この辺の者は知っているから誰もあの道には近づかない」


 あの巨漢な男が脱獄犯だと言うのか。コーユが以前、城の警備は万全だから牢に捕らえた者は絶対に外には出られないって言っていたのに。


急に視界の中に彼の顔が写された。

「最近着いたばかりの旅人かな。もしかしてお前は親とはぐれてしまったのか?」


 目が隠れるくらいの少し長めの前髪に艶のある黒髪、吸い込まれるような黒い瞳。

チヒロを見つめるその表情は真剣に心配してくれている様で、少し焼けた褐色の肌が真っ白な肌のチヒロと対で健康そうに見えた。


「別にそんな者ではない」

彼の真っ直ぐな瞳を直視する事が出来ず、無意識に視線を外してしまう。


なんだろう。

どこか知っている眼差し。

全く出会った事もないはずの輝きなのに心が騒ぐ。


「もしかしてお前、その口調や仕草だとどこかの偉い坊ちゃんだろ。人見知りするくらいなら一人で歩くなよな」

彼はそう言うとフードをかぶったままのチヒロの頭を軽く叩くと何も言わず立ちあがり歩き出した。

「お前、どこに行くつもりだ」

チヒロは先を行く彼の背中に呼び掛けた。彼は足を止めずに後ろのチヒロに向かって手で招いた。

どうやらついて来いという合図らしい。チヒロはしぶしぶ腰を上げて彼の後を追った。


 数分歩いた後、先を歩いていた少年は足を止めた。

そして後ろのチヒロの方に振り返ると、彼の背中の先にある大きな通りを指差した。

「ここがこの城下街の広場だ。ここからなら、いくら人見知りで迷子のお坊ちゃんでも道が分かるだろ。さぁ、こっちに来て覗いてみろよ」


 皮肉たっぷりに言われて少々頭にきたが、この際どうでも良い。

彼に言われて路地から頭を出すと、始めに歩いていた人通りの多い賑やかな道が広がっていた。

「この道なら知っている」

安堵で本心が口から毀れた。背後で押し殺した笑い声が聞こえる。


「やっぱりお前、迷子だったんだね」

「無礼者」

耳まで真っ赤に染まった顔を両手で必死に隠しながら、チヒロは広場へ飛び出した。そして、「悪かった。ありがとう」と彼を背中にしてそう呟いた。


 彼がどんな顔をしているのか、チヒロの声が聞こえたのか、ましてやその場にいるのかさえも分からない。でも、彼に率直に気持ちを伝えたかった。今まで出会ったことのない、不思議の雰囲気の相手なのに。


 チヒロは歩きながら、瞳を隠す黒いレンズをいじった。

レンズとレンズの外とでは同じ景色なのにまるで違う世界が広がっている。碧い瞳では見られない、全く違う世界を彼らは生きているのだ。


広い世界を持つ自由。

それに比べて私は、レンズの中でしか知らない。城の中しか己を生きられない。

自由さえ、ない。


そんな事を考えてながら外を眺めていると、前方に見慣れた姿が映った。キサだ。

多分自分が部屋にいないのに気付いて、チヒロを捜しに来たのだろう。

今は見つかるわけに行かない。予想外の迷子で、何にもあの人について情報を得てないのだ。


歩みを止め、周りを見渡す。自分なりに感動の別れをした後だから、もう一度彼に助けてもらうのは気が引ける。しかも、彼はまだ近くにいる事すら分からないのだ。


でも、足は自然と先程出てきた路地に戻ってゆく。


我ながら情けない。


しかし、体は素直なものだ。彼と別れたその路地に再び戻ると、今にも反対側の角を曲がる彼の姿が眼に映った。見つけた。大声で彼を呼ぼうとしたが、急いで自分の口を押さえた。


危ない。


今ここで声を出すと、キサに気付かれてしまう可能性がある。

ここは仕方が無いと、チヒロは少年が消えた角へと走り出した。

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