職業:女子高生(兼務:勇者)
司会 『そこらじゅうに魔王が溢れるこの時代』
司会 『自分も勇者になりたいけど、ちょっと装備が…、
なんて思っている人、多いんじゃないですか?』
司会 『そんなあなたにお勧めするのが、この[安心勇者5点セット]』
司会 『駆け出し勇者に使いやすい武器防具に加えて、回避率アップのお守りつき』
司会 『これだけそろって、お値段たったの19,800円…』
アシスタント『ちょっと、待ってください』
アシスタント『今なら"孤独の魔王"討伐作戦の実施を記念して、
なんと、同じセットをもう一つつけても同じ値段にてご提供いたします』
司会 『えー、同じものをもうひとつ?これは安い』
司会 『これさえあれば、家族と友人と、あるいは恋人と一緒に魔王退治に出かけられますね』
司会 『さあ、欲しいと思った人はこちらの番号まで……』
○月×日 あるテレビショッピングより
女子高生A『ねえねえ、勇者になろうよ!』
テレビを見ていた友人が興奮気味に語りかけてきた。
彼女の名前は「籠上ゆあ」
この娘の言うことはいつも唐突だ。
女子高生B『何を突然言い出すの?』
女子高生C『勇者ですかー、戦うのは怖いですけど冒険とか面白そうですね』
ゆあの提案を冷静に切り替えしたのが「本中しおり」、ゆあの幼馴染である。
ゆあ 『うんうん、きっと面白いよ。そうに違いない』
しおり 『そんな事いって、冒険中に怪我とかしたらどうするの』
面白そうと答えたのが「利根美ゆうほ」この娘はいつもマイペースだ。
ゆあ 『大丈夫、そうそう怪我なんてしないって』
ゆあ 『りかもそう思うでしょ?』
りか 『え?えっと私は…』
突然話題を振られて口篭る。
何かを決めるのは苦手だ。
人と話をしていても、ついつい相手の意見に追従してしまう。
りか 『私も、みんなで冒険するのって楽しいと思うな』
ゆあ 『むふふー、そうでしょう。これはもう勇者セットを買うしかないわね』
しおり 『ゆあ、本当は週明けのテストを受けたくないだけでしょ?』
ゆあ 『ななな、何の事かしらー』
私達は高校に進学してから知り合った。
普段から一緒に買い物へ行ったり、遊びに行ったり、
今日は私の家でテスト勉強をしていたわけだ。
ゆうほ 『そう言えば、りかのお兄さんって勇者なんですよね。
結構お強いのではなかったかですか?』
兄の話題を出されると私は少し誇らしい気分になれる。
強くて思いやりがあり、何より自分には無い決断力を持っている。
私はそんな兄のことが誇らしく、少しだけ妬ましくもあった。
ゆあ 『あ、それじゃさ、お兄さんの古い装備とか貸してもらえないかな?』
しおり 『おいおい、突然何を言い出すんだ。人の物を勝手に使うなんてそんな…』
ゆあ 『こんなにかわいい女子高生に頼まれたら、何だって貸してくれるって』
しおり 『そういう問題じゃなくて』
りか 『いいよ、たぶん大丈夫だと思う』
ゆうほ 『お兄様におうかがいを立てた方がいいのではないですか?』
残念ながら兄は魔王討伐のために、ここしばらく家を空けている。
私達は代理として母に伺いを立てるために一階へと向かった。
階段を下りると、母は玄関にいた。少し様子が変だ。
何をする訳でもなく、一枚の紙切れをただ呆然と見つめている。
私は心を言いようの無い不安感が包み込む。
りか 『お母さん、どうしたの?』
母は何も答えない。母の様子を詳しく見ようと近づいたとき、
私の背筋は凍りついた。
怒る顔、笑う顔、泣き顔ころころと表情が変わる母だったが、
無表情というのは今までに見たことが無い。
姿形だけを真似た別人に入れ替わったのではないかと思えるほどだ。
私は恐る恐る母の元へと向かい、手に握られている紙切れを読む。
飾り気の無い紙に、飾り気の無い文字が一行だけ印刷されている。
そこにはこう書かれていた。
『濱里よしさだ、魔王に討ち取られ戦死』
まず心を占めたのは悲しみだ。
悲しみが心のすべてを押しつぶそうとする。
次に浮かんだのは怒りだ。
理不尽な現実に対する怒り。
しかしせっかくの怒りをどこにぶつければよいか分からない。
混乱する私の心はようやく一つの答えを見つけた。
見つけてしまえば非常に簡単で、私の心は平穏を取り戻した。
私は…
りか 『私は、兄さんの敵を討つ』
<終了>