寂しがり屋の昔話
窓の外をいつもみていた。
晴れている日も、雨の日も、
いつもいつもみていて飽きなくて。
話してみたくて。
話せた時は本当に嬉しかった。貴方をみているのは楽しいと伝えると、それはこっちの方だ、と返された。
あぁこの人と同じだったんだなと思うと、自然と笑顔が出てきた。
そんな…夢みたいなお話
むかし、ある一人の小さな子どもがいました。
その子どもは生まれつき体が弱く、外で遊ぶ事が出来ませんでした。
当然、外で遊ぶような友だちは出来ませんでした。
その子どもの両親は心配します、この子は寂しくないだろうかと、こんな体で生んだ自分たちを恨んではいないかと。
しかし、その子は笑います。笑って、自分はひとりが好きだからと、お父さんとお母さんの事が大好きだと。
もちろん、寂しくないというのは嘘です。本当は皆と遊びたい、友達と外で追いかけっこしてみたい…。
でもその子は言いませんでした。
両親が自分を心配してくれている心を感じ、自分を情けなく思い、ひとりの寂しさを知った、その子どもは
とても、とても優しい人間へと育ったのでした。
私は10月が好きです。
暖かい春も、青春って感じの夏も好きだけどやっぱりこの落ち着いた雰囲気をもっている秋が好き。
「…なーんちゃって。」
ちょっと格好つけすぎた、まぁ確かに秋は好きだけど…理由はもちろん
「…なんですか?これ」
私が努力して作った作品をじーっと見つめながら彼は私に尋ねてきた。
あれ?まさか碧くん、これもやった事ない??
「碧くん、まさか、これもはじめてなんですか?」
「はい。…というかこれでなにをするんですか??」
おぉー知らなかったんだ!!じゃあちょうど良かったかもしれない
「えーとですね、今日はこれを焼いて暖まろうと思いまして!!」
「?」
ごそごそ
「じゃーーん!」
自分でだした効果音と共にビニール袋にいれて持って来たものを碧くんの目の前にだす
「……さつまいも、ですか?」
不思議そうに眉間にしわをよせながら碧くんはそれ…つまりさつまいもをみつめた
そうそう!そうです!お芋なんです!
「今日は焼き芋をしましょう!」
私は碧くんの反応を楽しみながらそう宣言した。
なぜ私がいきなりこんな事をやろうと思ったのかというと…まぁ、今日が偶然学校が半日で終わる日だったからというのもあるんですが
この数ヶ月間、碧くんと話していくうちに私は確信したんです。
「碧くん」
「…はい?」
木の葉を燃やしてさつまいもを焼いている間、私たちはその辺の地面に腰をかけることにした。
私は碧くんの隣に腰をかけて尋ねる
「焼き芋、って今日がはじめてなんですよね?」
「?、はい。」
ここ最近思ったこと…碧くんの思い出の少なさについてだ。それで思い出を増やして欲しいと思ったのが一つ…そしてもう一つは
「…私」
まだ秋になったばかりだと思っていたけれど、空気はかなり冷たかった。
碧くんはただ私の次の言葉を真剣に待っていてくれている。
「…私、昔は体が弱かったんです。」
「…。」
風が木から葉を落とす。私達のまわりだけは火のおかげで暖かかった。
「いまはもうこの通り!すっごく丈夫なんですけど…小さい頃は本当に、外にも遊びにいけなくて…窓の外ばかりみていたんです。その時やってみたいなーとかいいなーって思っていたことがたくさんありました。」
私はきっとまだ真剣に聞いてくれている碧くんの方を向いた。
「なので…えっと、こうやって焼き芋とかも、実は私もこんな風に家族以外とやるのははじめてなんです!」
今度はちゃんと目をみる
「だから、今日はありがとうございました!!…って、まだお芋食べてないんですけどね…」
あははーと笑ってみるけどもう目はみれなかった。
…すごくドキドキしているから、こんなことを今話した私はどう思われているだろう?
しばらくの沈黙のあと、碧くんが遠慮がちに口をひらいた
「…なんでそんな大事な話をしてくれたんですか…?」
碧くんは私の話した話をただただ受け止めてくれた。
「前に…」
「?」
「前に、碧くんが私に最近時間がはやく過ぎるって…それは私のおかげだって言ってくれたことありましたよね…覚えてますか?」
「はい。」
あれは、いつだっただろう。まだ葉っぱは緑で、私も、あの窓際の席で
「あの時なんだか…はじめて碧くんと近くなれた気がしたんです。なんとなくですけど…それが私にはとても嬉しくて、ちゃんと私も自分の事を碧くんが話してくれたみたいに話したいと思ったんです。」
秋の空気のせいなのか、落ち葉をみているからなのかわからなかったけれど、すごく泣きそうな気持ちになってしまった…どうしよう、今日は別にこんなことになるつもりじゃなかったんだけど…
「な、なので!本当に!私の話をきいてくれてありがとうございました!!さ、お芋!そろそろ焼けたんじゃないですかね…」
よし!気をとりなおして!お芋だお芋!焼き芋!!
「…聞けて、良かったです。」
ふ、と息を漏らすように碧くんはつぶやいた。…いきなりの言葉に私は硬直する。
「……え?」
咄嗟にそれがさっきの私の話の事だということに気づくことが出来なかった。
「北村さんのこと、聞くことができて良かったです。やっぱり、僕に季節の事を教えてくれたのも、季節に色を与えてくれたのも、北村さんです。…ありがとう」
「……っ」
…きっと、私の話を聞いての反応は、とても難しかったと思う。それでも…それでもやっぱりこの人は、真剣に答えをくれた。
そのことがすごく嬉しかった、なのに逆にお礼も言われるし、もうなんだか訳がわからなくなりそうな中で
「…はい。」
少しだけ涙が出たのは、秘密にしたい。
「…ところで、北村さん。この匂いは」
「あ……お芋。」
少し焦げた始めての焼き芋もまぁいいんじゃないかと思う。あったかくて美味しかった。
「あの、碧くん。」
「はい?」
少し苦いお芋を食べ終わり、片づけをしている時、私はさっきから考えていたことを提案した
「これから、季節を…二人で季節を楽しむのはどうでしょうか?」
「…え?」
私も碧くんも、思い出が少ないんだ。…だったら
「焼き芋もはじめてだったんですよね?これは秋の行事の一つなんです。」
真面目な顔をした碧くんがうなずく
よしよし、食いついてほしいなー
「これからまだまだ季節は巡りますよ、冬に春、それに夏。…それらを一緒に楽しみませんか?冬には雪が積もったら雪だるま作ったり、お鍋食べたり!春にはお花見とか!!…ど、どうでしょうか?」
「…。」
あーしまった碧くん黙り混んじゃったよ、やっぱりいきなりすぎたかなぁ…今日みたいなのを一緒にできたらいいと思ったんだけど…。
いやでも気が乗らないのならしょうがないよね
「あ!あの!!別に大丈夫ですよ!すいません急に」
「いえ…いいですね、それ。」
え?
碧くんの表情は、ほわっとやわらかかった。
「やりたいです。北村さんと、季節の行事。」
「…ほっ、本当ですか!?」
う、うわぁ!よ、良かった、なんか顔があついよ緊張したっ!!
二人で季節を楽しむ事を約束した。そのことがあまりにも嬉しくて、私は気付く事が出来なかったのかもしれない
私が喜んでいる時の碧くんの表情に。柔らかな表情の後の、寂しげな、今にも泣き出しそうなあの顔に…
そしてこの時を境にして、碧くんは
私の目の前から姿を消してしまったのでした。
遅くなりましたー!5作目です。多分もうあと1話でこの話もおしまいになります。
今回きりがわるくてごめんなさい
あと、学校での焼き芋は、というか火をおこすのは危ないので皆さんはやらないでくださいねΣ('ω'ノ)ノ
碧くんと晴香ちゃんは特別です(笑)