街にはリア充に憧れる男がいる
とりあえず裏路地から飛び出した俺達は、夏休みという水を得た魚となっている学生たちに混ざって、しばらく様子を見ていた。ヤンキーたちが飛び出た裏路地から出てくる様子も無いが、彼らに止めを刺した少女は、一刻も早く立ち去りたいのか早足になっている。俺よりも頭1つ小さい茶色キャスケットの彼女に手を引かれているので、前屈みになっている俺は、女の子と手をつなげている奇跡にはしゃいでいた。
やっべ~!!!女の子と手繋いじゃってるよ!!!たまにはかっこいい事もしてみるべきだねぇ。どうする俺、このままこの子と仲良くなってしまえば夏休み安泰じゃね!!っはっはっはっはっは!!!これで俺もリア充の仲間入りじゃぁい!!!ごめんな、徹。もう一般高校生には戻れねぇなぁ!!あは、あは、あは、あはははははははははははははっ!!!
心の中で高笑いしながら手を引かれ、大きな十字路まで来た。ビル角が斜めに切られたそこは、人の流れが及ばない陸地と化していた。そこまで行って手を離されてしまった。ちょっと残念。
「ごめんなさい。巻き込んで……」
彼女はこっちを向いて、深く頭を下げた。
「いやいやいや……。ほら、困ってる女の子を助けるのは当たり前と言うか、そんな感じ!」
「ごめんなさい。本当に……、あの、急いでるんでこれで」
彼女は振り返って、また歩き出そうとする。
「いやいやいやいやいやいやいや!!!ちょぉぉぉぉぉぉっぉと、まったぁぁぁぁぁ!!」
「?」
あ、急いでいるって言ってたな。そこを呼び止めるってどうよ。そっれって最低じゃね。さっきのヤンキーと同類!?それどころか人様からこの幸せ奪い取った俺って、それ以下のクズ!!!???
「あ、いや、気をつけてな」
引き笑いになりながら、小さく手を振ってそんなことを言った。すると、彼女はこっちを向いて、
「ありがとう」
キャスケットと肩までの髪の下から見えたその笑顔は、まさに絶滅天然記念物の美人さんだった。
そう言って、彼女は人ごみへ消えていった。
「お、和馬じゃん。よっ、和馬」
そうやって後ろから肩に手を掛けてきたのは、俺と同じで一般高校生であるところの赤野徹だった。
「どうした、振られたか?」
「うるせぇ」