その儀の終焉
『暗黒物質遮断状態』とは、隈下藤次郎博士の研究でランク5の黒夜瞳の『暗黒物質』の一部を薄く広いフィルム型電子パネルに能力移植としたものを部屋の壁や天井床に貼ることで、空間的暗黒物質密度を極端に減少させ、暗黒物質をエネルギーとしている超能力の不活性を引き起こさせた状態のことだ。
隈下博士の世紀の発見であり世紀の悪行とされた研究の産物である。現在、能力移植は禁止されているが、その実験で能力移植された『暗黒物質』の『暗黒物質遮断』は、超能力犯罪者の隔離などに利用されている。
白衣の男がゆっくりと立ち上がる。和哉くんの腕は、後頭部に手をつけた状態で力無く床に肘を付けている。
「はは、電力不足で『能力移植』は起動しねえし、風紀委員は研究所の前に集まるし、隈下はどっか行っちまうし、樫葉と佐藤には連絡付かねえし、三コロAトップなんかやらせねえよ。どうせなら四コロにしないとねえ」
美月はいつも道理に磁力を操ろうとするが、うまくいかない。周囲の電子や磁力線が感じられないのだ。まるで何もない真っ暗な空間に浮いているような喪失感。今まで感じたことのない喪失感が美月の恐怖を増幅させていた。
白衣の男は美月の横にしゃがんで彼女の顎に触ってくる。美月が嫌そうに顔を背けようとすると、男は美月の顎を掴み強引に自分の方に向けて、額に小銃を押しつける。
「はは、ランク5も力がなければ可愛いもんだな。ほ~ら、命乞いでもやってごらんよ」
美月はあまりの恐怖に男が何を言っているのかも分からなくなっていた。目には涙が浮かび、手は震え、口は『あ……』とか『ぐ……』とか意味も無い音を発するのみ。
そして、こんな時に思うのは、また人を殺してしまったという後悔だ。7年前のようなことはもう二度と起こさないと決めていたのに、まだ知り合ったばかりの人まで殺してしまった。また、私のせいで人が死んでしまった。
「……ご……ごめんなさい……」
「あ?」
「ごめんなさい……」
「美月が謝る必要なんてない!!」
その言葉とともに白衣の男は襟を掴まれ、床に叩きつけられる。握られていた小銃は蹴り飛ばされ部屋の隅に滑って行った。
そして、額から血を流し目を血で赤く濡らしながら、猪苗代和哉は白衣の男の上に馬乗りになる。和哉の後頭部からもやはり出血は続いている。それでも、彼は力強く男の胸ぐらを掴み上げ、右腕を大きく振り被る。
「歯を喰いしばれ!!この外道が!!!」
振り下ろされた拳は男の鼻っ柱を捉え、白衣の男を床に叩きつける。その一撃で白衣の男は完全に伸びてしまった。
「和哉くん……」
鉄拳を振り下ろした和哉は上体を起こし、美月を見て。
「また泣いてんのか……」
そう言って力が抜けたように後ろに倒れる。美月自身も急に視界が狭まり、ひどい脱力感と眠気に襲われた。
だめだ。早く和哉くんを外に……。
そこで美月は気を失った。




