彼女はこの街最強のランク5
総人口320万人弱のこの街、超能力保護区には総勢10万人強の超能力者がいる。
そもそもどのようなものを超能力と言うのか?超能力と言ってもさまざまだ。離れたところにある物体に影響を与えるもの、自らの知覚能力を格段に引き上げるもの、他人の神経に影響を与えるものとさまざまだ。しかし、毎年毎年超能力者申請を申し込んでくる人々は約5万人強もいる。その中の92パーセントは、超能力の欠片も持ち合わせていないただの人間たちだ。世界中が不況だ不況だと呟く中、この街で保護されたほうがいい暮らしができるらしいとへんなうわさが世界中に根付いてしまったようだ。実際には、外と中でたいした違いは無いのだが、街の中の情報はほとんど外に出されないためか、そんなことになっている。政府の情報操作の大義名分は、『保護された人々の希望だから』とされている。本当かどうかも怪しいところだ。
ならば、どうやって1日100人を越える人々を仕分けているのか?たとえ政府の一大政策だとしても、仕分けなんかに何百人も雇えるほどの資金は無い。そもそもその資金も削減されつつある。この街は、もう1つの街で1つの国と同じだけの経済力を持っているからだ。一般人はそんなことは知らないが。
超能力者は能力を使用する際に、必ず周囲の暗黒物質に影響を与える。宇宙に満たされた暗黒物質は、能力者のある特定の思考パターンに強く反応しそのパターン特有の挙動をする。その際、素粒子を生み出し能力に結びついている。これができるものが超能力者であるとされている。よって、超能力者のこういった特性を利用し、能力によって周囲の暗黒物質がいかにイレギュラーな動きをしているかを計測することで仕分けを行っている。
これは超能力者のランク付けにも役立っている。つまりは超能力発動時における暗黒物質への影響量によって、階級わけしていると言うことだ。そして、その階級の頂点、この街に保護された最強の5人の超能力者のうちの1人、諏訪美月は日が落ちた裏路地を走っていた。
いや、逃げていた。
追うのは2人の黒服の大男。手に握られたごっつい拳銃が彼女の背中を捕らえ、火を噴く。拳銃から放たれた銃弾は、彼女の背中に一直線に飛んで行き彼女の背中に当たる前に横にそれた。磁力の力で鉛球に干渉しているのだ。
彼女の超能力『過度蓄電』は、強い電磁気力を操る能力だ。その力は、底なしの充電量を誇る乾電池や超強力な磁石ともいえるだろう。彼女は電磁気力を掌握する超能力者だ。ゆえに、音速で移動する金属の軌道を変えるくらい朝飯前だ。
彼女は落ちていた鉄製の工具箱を磁力の力で体の前に浮かせると、工具箱の中を物色し始めた。彼女は磁力を自由に操れる。つまり、鉄でできた工具が大量に入った箱は、まさに彼女のおもちゃ箱だ。
彼女は中にあった鉄製のペンチ1つを手に取り、裏路地の十路地で止まり振り向く。ほんの20メートル先には、黒服の大男2人が並んで走ることができずに肩がすれそうになりながらも縦に並んで走っていた。先頭の男は彼女に銃口を向けている。
女の子投げの構えに入った美月は、ペンチを投擲した。しかし、小柄な女の子が力も入らない投げ方で投げたところで大男2人にダメージを与えることはできない。放物線を描いて落下していくペンチは、地面に落ちる直前でおかしな音を上げて弾けた。そのペンチは勢いよく跳ね上がり、一番前を走っていた男にアッパーカットをくらわせる。その後ろを走っていたもう1人は、後ろにふんぞり返った大男と一緒に倒れた。アッパーカットで空中を回転するのは、連結が外れたペンチの片割れだ。
追っ手を迎撃した彼女は、逃走を再開しようと振り返ると、工具箱を自分の頭の右横に持ってきた。すると、鉄製の丈夫な工具箱がバキィと音を上げ変形した。
工具箱は何とか完全に分裂せずにすんだが、真ん中からVの字にひしゃげてしまっている。そこに挟まっているのはアルミでできた銃弾だ。彼女の磁力の影響を受けないアルミの弾丸を使うのは自然な流れと言えるだろう。しかし、彼女には過度蓄電の副産物として、周囲の電子の位置を正確に認識することができる。と言ってもいつもは、視認にできる範囲内の固体にのみ気を配っている。そして、周囲500メートル以内を時速150キロメートル以上で移動する物体に関して、強い関心を持つように訓練されている。
「私に気付かれずに狙撃するなら、物質の電子を全て抜き取ってから出ないと、無理です!」
でもそんなことしたら、物体は原形を止めていられないんですけどね。と、余裕の表情で逃走を再開する。が、
「っ!」
彼女は周囲の空気に急に不自然に切れ目が入っていることを感知し、工具箱の中身を撒き散らす。空気が何の力も加えられずに変化を見せるとは考えられない。と言うことは『超能力』。超能力による攻撃が来る!
そこまでの考えをまとめて襲撃に備える。
突然空中に円筒形の筒が8つほど現れた。傍から見るとただの缶に見えるが、そのようとは爆弾だ。
次の瞬間、日が落ちた街中に爆発音が鳴り響いた。




