街は外界からの進行を拒絶する
暗く、湿っぽく、天井には赤いランプが等間隔でつるされ、太さ3メートルはあろうかという柱が立っているだけの道。高さは10メートルほどあり、幅は100メートルはあるだろうか。まるで地下水路のような空間を5,6人の男たちが銃器を担いで進行していた。彼らの顔はゴーグルやマスクで隠され、真っ黒な服を着ていた。身長は170センチ超といったところの屈強な男たちは、物音1つ立てず、しかし速やかに進行を続けていた。
「アハ、見ィ~つけたァ」
進行を続けていた男たちの50メートルほど前方に、1人の女が立っていた。ランプの赤い光に照らされた女は髪の長い者のようだ。服装はどこぞの高校の制服であった。男たちは銃を構えて、それぞれ近くの柱の影へ音も無く隠れる。
「見つけたよォ~。殺して良いよねェ。いいんだよねェ!」
女の耳には、イヤホンマイクが着いていた。
『あぁ、いいとも。殺してしまいなさい。』
イヤホンの向こうからの声を合図に、女は甲高い笑い声を上げた。柱の陰に隠れていた男たちは、戦闘のプロ集団であった。時には、ターゲットを秘密裏に殺害し、時には、依頼人の護衛についたりと、さまざまな戦闘を経験していた。しかし、そんな競合揃いの戦闘集団は、目の前の女の雄叫びに恐れを抱いていた。ちなみに、彼らもイヤホンマイクを装着している。
『隊長!奴はただの少女です。それに他同位体も確認されません!囲んでしまえば、問題ありません!』
「待て、1人だからとはいえ、軽視はできない。我々の使命は、街の調査だ。こんなところで、負傷するわけにもいかない。一時撤退する。1,2,3の合図で撤退せよ!」
『『『『『了解』』』』』
彼らはそれぞれ二本の柱の影で、1人は女に銃を向けながら女を観察し、他2人は襲撃に備える形で装備を固めていた。
「1」
「アハハハハハハハハハハハハハ、アハ」
「2」
「アハ、アハ、アハ、アハ、アハ」
「3」
「アハハハハハハハハハハ……」
「撤退!」
「じゃァ、殺しちゃうかラ!」
6人は合図と同時に、女を観察していた2人が女に銃口を向けながらバックステップで移動し、他4人も後ろを確認しながらも速やかに撤退していく。発狂しながらも、女は動く仕草を見せず、視界の角から動かないように見えた。
しかし、女は立ったままその場から消え、一番前を走っていた男2人の前に現れた。
「まずは2人だねェ!」
いきなり現れた女の声に、男たちはその方を向く。そして、前方を走っていた2人が同時に横の柱にふっ飛ばされるところを、他の4人は目撃した。横の柱と言っても、柱と柱の距離は10メートルほど離れている。男たちは、柱と柱のちょうど真ん中あたりを、2メートルほど離れて走っていた。だから、柱と2人は4メートルほどの距離があったのだ。
4人は思った。目の前にいる女の形をした生物は、まともではない。物理法則を完全に無視している。
女の右側に吹っ飛ばされた男は、柱に頭がめり込み、首から下はだらりと力なく垂れていた。首元からは、黒い液体がペンキのように流れ落ちていた。左に吹っ飛ばされた男は、四肢と体を柱に叩きつけられ、口から黒い痰を掃き、そのままずり落ちた。
「アハ、どうやって殺そっかなァ!」
その一言で4人は我に帰った。帰ったはいいが、すでに2列目を走っていた隊長の胸に、女の華奢で真っ白な腕が吸い込まれ、女のカーテンを開けるような手軽な動作で、隊長の体から2本の腕を振り払った。その腕は赤く濡れていたが、女の顔には超楽しそうな笑顔が張り付いていた。
「た、隊長!」
残った三人は、すでに冷静でなかった。隊長の横にいた男は恐怖でそこから逃れようとし、後ろを走っていた2人は持っていた銃器をむやみに女へ向ける。
「アハハハハ、まだ遊んでくれるんだねェ!」
女は3人の体を断裂し、彼女の存在意義を執行した。執行後のコンクリートの壁や床には、黒い返り血が飛び散った。