公園の少年
まだ来ない。少年はいつまで待てば良いのかと途方に暮れながら、待ち続けていた。
【公園の少年】
その少年は少し変わった風貌をしていた。白いニット帽と白いコートを身に付け、ニット帽から覗く髪も白い。肌もまた、透き通るように白く、零れ落ちそうなほど大きな瞳だけが黒かった。そんな容姿のせいなのだろうか、纏う雰囲気には妙な崇高さがある。
少年は公園のベンチに座りながら小さく溜め息を吐くと、徐に空を見上げた。雲の流れが速い。薄暗い空から地面へと視線を落とすと、少年は再び溜め息を吐いた。
――雨が降ってきたら、どうしようか。
そう思うや否や、少年の白い手に水滴が落ちてきた。地面に作られた水玉模様が、段々と色濃く浸食していく。少年は三度目の溜め息を吐くと、被っていたニット帽を引っ張り、深く被り直した。
ふと、柔らかな影が差しこんできたと思ったら雨が当たらなくなり、少年は顔を上げた。そこには見知らぬ少女が傘を広げて立っていた。鮮やかな黄色い傘。セミロングの黒髪の上で、それは存在を主張している。
少女は少し驚いたように目を見開き、けれどもすぐに柔らかく微笑むと、少年に傘を差し出した。
「これ、使ってください」
少年は怪訝そうな顔で少女を見つめる。少女は微笑みを浮かべたまま、もう一度、少年の手に渡すように傘を差し出した。
「どうぞ、差し上げます。私、折り畳み傘持ってるんで」
そう言うと、片手で器用に鞄から折り畳み傘を取り出して見せる。ピンク色の小さな折り畳み傘。少年はおずおずと傘を受け取ると「ありがとう、ございます」と呟いた。
「いえいえ。雨で体を冷やすのは良くないですから」
そう言って少女は笑い、折り畳み傘を開いた。そんな彼女を、少年はぼんやりと見つめる。ピンク色の傘は、少女を雨から守るには少し小さいように思えた。
少女は「じゃあ、私、行きますね」と軽く頭を下げ、公園の出口まで歩いていく。そして、ふいに振り返った。
「あの……っ」
少女の声に、少年は彼女を見やる。少女は傘を叩く雨音に負けないよう、少し大きな声を上げた。
「最初はビックリしましたけど、すごく綺麗な髪ですね! 真っ白で」
少女の言葉に少年は、零れ落ちそうなほど大きな目を更に大きく見開いた。その黒い瞳には、照れたようにはにかむ少女が小さく映っている。
それから、少女は柔らかく手を振って、公園から立ち去っていく。少年は黄色い傘の柄を握り締め、俯いた。
「……変な人」
その声音はどこか明るい。少年は帽子からはみ出た白い髪を指に絡め、さらりと解くと、帽子をもう一度引っ張った。
まだ来ない。雨も止みそうにない。けれど、もう溜め息は出なかった。
暫くして、一羽の白い小鳥がひらりと公園に舞い込んだ。小鳥は少年の持つ傘を不機嫌そうに突くと、少年の膝へと緩やかに降りる。ぱちりと、少年と小鳥の目が合った。
「――遅かったね」
少年の言葉に応えるように小鳥が鳴き声を上げる――鋭い声だった。