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戦いのトリック

「負けました…」

 そこにはうなだれる高橋と清水の姿があった。


 「うなだれるな。最初のうちはそんなもんだ!」

 加藤は優しくフォローする。先ほどとは違うテンションだ。


 「いつもあのノリなのか?」

 高橋が清水に尋ねる。


「そうだけど…?」

 高橋は驚く。あの最初の尋問の時はあんなに怖い人だと感じていたのに… 加藤は外の人には厳しく、身内の人達にはとても優しい人らしい。 まさか、そんな人だったとは。ノリで言えばギャル…ほどではないがとてもテンションが高い。見た目で言えば45歳くらいだ。初対面の高橋から見れば、とんでもなくはしゃいでいるおじさんだ。


「2人とも、どうして負けたかわかるか?まぁ、この戦いで見落としてはいけないことが2つあった。 ここがわかるかどうかで戦いは変わっていたかもな! それでも俺が買っていたと思うがな!ハハ」


「見落としてはいけないこと…」

 清水も真剣に考えている。


「俺の行動におかしいところはなかったか? どうしてそんなことをするのか。明らかにおかしいことが。」

 加藤が回答を急かす。高橋も黙って考えるが何も思いつかない。


「一つわかった!最初に何も行動しなかったこと?」

 清水が答える


「それだ!その理由はな、まず、最初に偵察機を飛ばしてきたな。それは予想していた。だから、まずは塹壕の中に全体的に兵を配置して、塹壕のどこからでも攻撃をできるように見せかける。 そうしたら、攻める側からしたら左、右、中央のどこかを重点的に攻撃しなければならない。 だからそれを見越したんだ。そしたら、最初に左を狙ってきた。こちらも偵察で砲の数を知っていたから、複数の目的を狙うことが厳しいことも。」


「それがどう関係するのですか?」

 清水が途中で聞く。


 「まぁ待て。 そして、ある程度砲撃で陣地が破壊できたとわかると攻めてくると思ったんだ。そこで、2度目の偵察の後、戦車隊で右から攻めたんだ。左に陣地破壊用の砲とか、対戦車砲をたくさん配置していると思ってね。 そしたら、順調な計画が壊れて右の対応に追われる。 下手したら戦車に壊滅させられるかもしれないからね。 ここであることをするための時間を稼いだんだ。 さて、ここでもう一つの違和感が関わってきます。なんでしょうか?」

加藤がクイズを始める。


「戦車に歩兵をつけなかったこと?」

 高橋が答える。というのも、戦車には死角を補完するため、対戦車兵器の破壊を容易にするため、戦車が塹壕戦や市街地戦を苦手とするのでそのサポートなどのために随伴歩兵という歩兵を配置するのが定石だ。


「それもそうだが、今回は兵の数が少なく、時間を稼ぐためだから余り犠牲を増やしたくなかったのが一つの理由かな。」

 加藤が答える。

 

「そもそも塹壕戦で戦車が使われるのは、歩兵が戦車の後ろに隠れて、機関銃の被弾を少なくするためだから、攻めるわけでもないのに歩兵をついて行かせるメリットもないに等しいからね。」

 清水が付け加える。さすが、昇進試験に受かっただけはあるな。基礎的な知識は詰め込まれているようだ。


「だとすると…」

 清水がこれまでの戦闘を思い出す。

「何回も往復してた偵察機?」


「あたり!」

 加藤が嬉しそうに答える。

「今回の偵察機みたいに偵察機が2人乗りが多いことは知っているだろう?大体はパイロットと偵察員の2人で乗るんだが、今回は偵察員の代わりに歩兵を乗せたんだ。」


「もしかして、それで何往復もして、敵陣の後ろに人を送り込んだのですか?」

 清水が加藤に聞く。


「そうだ。 ただ、歩兵が減っていることを悟られてはまずい。だからあえて全体的に兵を配置した。そして、君たちの偵察機が通り過ぎた後、全員を引かせた。予想通りに、砲撃がきた。左にきたので、中央と右はまた配置につかせて、左の兵士は、砲撃でやられたと見せかけて、後ろに航空機で配置した。」


「そして、その時間を戦車で稼いだと。」

 高橋が付け加える。


「そうゆうこと。」

 加藤が頷く。清水も納得して今までのことを頭の中でおさらいする。


「いいかい。君たちの弱点はなんだと思う?」


「目先のことしか見えていないせいで、全体的な分析ができていなかったことです。」

 清水が自信を持って答える。確かにそうだ。高橋も加藤も、右にきた戦車に注力したが故に、何回も往復する偵察機に気が付かなかった。 全体を見ることができていなかった何よりの証拠だろう。


「それも一つだ。 ただ、今回は高橋くん。君に問題があったかもしれない。いや、それは語弊があるな。高橋くん、君の良さが今回では足手纏いになった。」

加藤は高橋の目をじっと見つめる。


「俺の問題…」


「それは、味方を見捨てられないことだ。 いいことでもあるのだが、そう綺麗事では一向に戦線は進まない。むしろ敗北につながる。 いいか、大事な考えとして、少しの犠牲を払って全体が勝つならそれは成功したと言える。

 ただ、犠牲を払えないせいで、全体が全滅することになるのは失敗という結果につながりかねない。」


「そうか…」

高橋は黙り込む。


「まぁ、この考えがいつも正しいとは思わない。できれば、私も思いたくはない。だが、現実を見ないといけないこともある。君は若い。清水のような優秀な人材がいればすぐ成長するだろう。それが君の良さだ。この話は心の隅にだけでも残しておいてくれ。」


 高橋は戦いというものを痛感した。思い通りに進まない計画。それのリスクを見越した上でのカバー。全てがうまくいくわけがないのだから…


「実践じゃない。次がある。練習をたくさん繰り返せばいいさ。」

 清水も少し落ち込む高橋をフォローする。彼も少し責任を感じているのだろう。シュミレーションとは言えど、実践のための練習だ。失敗は許されない。


「それもそうだな。次は失敗しない。」

 立ち上がりが早い高橋。落ち込んでるのか、なんなのか、不思議な青年である。ただ、単純な男というのが正解なのだろうが…


「実はな、高橋くんと清水、君たちに伝えなければいけないことがあって…」

「それが、前線での指揮官が不足していて、来月から実戦に当たってもらう。今回は初めてにしてはとても優秀な成績を残した。 高橋くんに関しては色々心の整理が必要だろう。」

加藤が少し申し訳なさそうに頼み込む。だが、清水は案外やる気のようだ。愛国心が強いのだろうか。


「1ヶ月の休暇を君たちに与える。好きのように使ってもらっていい。部屋も手配する。 だが、今日から1ヶ月後の12月15日には官道駅に集合してくれ。」


「「了解!!」」

読んでくださりありがとうございます!これからも応援してください!

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